【北欧の教育最前線】 フィンランドの「村の学校」の行方

 フィンランドに「キュラコウル(村の学校)」という言葉がある。この言葉は、単に「村にある学校」を意味するのではなく、「小さな学校」という意味も含んでいる。フィンランドでは、人口密度が低い中でも学校を広く点在させることによって密な「学校網(学校の地理的な配置を指す概念)」を構築し、誰もが近隣の学校で最善の教育を受けられるように教育制度が作られてきた。この中で「村の学校」が果たしてきた役割は大きい。しかし、近年、「村の学校」を巡る状況が大きく変化している。


進む学校の大型化
豊かな自然を生かした授業風景

 児童・生徒数50人未満の小規模校は2005年には小中学校の30%を占めいていたが、昨年には14%にまで減少した。その背景には、都市化と少子化という先進国共通の課題に加え、自治体の再編統合や施設併設型の小中一貫校の拡充といった政策があった。さらには、厳しい冬の寒さゆえ、施設維持管理費が高額になるというフィンランドならではの問題もある。

 これらが相まって、学校の統廃合が進み、学校の大規模化が進んでいるのである。実際、全学校数に占める児童・生徒数500人以上の学校の割合は、05年から21年の間に4.1%(138校)から14.6%(304校)に増加している。

消えゆく「村の学校」

 そんな状況を体現するかのような学校を、19年8月に訪問した。フィンランド東部にあるその学校では、1年生から6年生までの児童26人が学んでいた。同校の教員の話からは、家族的な雰囲気の中、複式学級を前提としつつ、場に応じた学習集団を形成することで、多様な学習が展開されていることがうかがえた。

 17年に閉校案が示されると、地域の人々は反対の声を上げた。「○○学校は世界一の学校」「○○学校に通いたい!」と書かれたボードを掲げて学校の継続を訴える子どもたちや地域の人々の姿が、メディアなどでも広く伝えられた。反対運動では、地域に密着した学びなど、小さな学校の良さのアピールも行われたが、結局、この年の12月に正式に閉校が決まり、翌20年8月から町の中心部にできた新設校へと統合された。

建設中の新設校

 統合された学校は小中一貫型で、330人の児童生徒と40人の教職員が在籍している。「学校センター」と呼ばれる敷地には、町唯一のルキオ(日本の高校に相当)や、成人教育センター、音楽学校、図書館なども併設されている。

 学校の再編統合は自治体の経費節減が大きな要因であったが、実際には大規模な教育施設の新設も、小さな自治体にとっては大きな投資だった。子どもたちの健康への懸念から、町にあった3つの学校全てについて改修が必要な状況とされる中、自治体は、自らの「学校網」をどうしていくかという問題に直面した。文字通り、町を二分するような議論が起こったのだ。

「学校網」をどうデザインするか

 学校の統廃合は、全国で問題になっている。20年に国家教育庁は、人口予測や学校数の変遷などのデータを基に、フィンランドにおける「学校網」の展望について試算を行った。この試算に基づき、3つのシナリオが提示された。

 1つ目は、2040年には学校規模が拡大し(つまり、統廃合が加速し)、学校数が現在の半分になると予測するドラスティックなもの。2つ目は、学校規模は変わらず、学校数は現在の4分の3程度に減少するという楽観的なもの。そして、3つ目は、学校数をなるべく減らさないようにするための国レベル・地方レベルの取り組みが奏功し、学校規模は多少大きくなるものの、学校数の減少は現在の3分の2程度までで抑えられるとするものである。子供たちが近隣の学校に通うことを最大限保障できるのは2つ目のシナリオであるが、最も可能性が高いとされたのは3つ目のシナリオであった。

 「学校網」をどうデザインするかは、学校設置者である基礎自治体が決める。国家教育庁は、そのことを確認した上で、「予測とは、将来実現したいことを定義し、それに沿って行動を設定すること」と述べる。「全ての子供と若者は、居住地に関わらず、平等で質の高い基礎教育を受ける権利があり、この原則は将来的にも適用される」と報告は締めくくられている。フィンランドが描く「学校網」の未来は、どのようなものであるのだろうか。

(渡邊あや=わたなべ・あや 津田塾大学学芸学部国際関係学科教授。専門は比較国際教育学、高等教育)

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