【Jリーグクラブをつくった体育教師】 目指すべき部活動改革とは

 部活動改革は、「教師の負担軽減」というところからスタートしてしまっているーー。2023年から休日の部活動の地域移行を目指すなど、公立中学校の部活動改革が進められているが、富山県立雄峰高等学校の佐伯仁史教諭は、生徒のニーズ抜きに進む改革に警鐘を鳴らす。インタビューの最終回は、かねてより部活動の在り方に疑問を抱いてきたという佐伯教諭に、目指すべき部活動改革のビジョンについて聞いた。(全3回)

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スポーツとは遊びであり、気晴らしするためのもの

ーーどのような体育の授業をされているのでしょうか。

 今日(4月の取材時)は、今年度最初の授業でした。私は生徒に長話をするのは好きではないのですが、毎年最初の授業では、「体育とスポーツは違う」ということを知っておいてほしくて、話をするようにしています。

体育とスポーツは違うと語る佐伯教諭

 「スポーツ」の語源には「本来の場所から離脱して楽しむ」という意味があります。つまり、スポーツとは遊びであり、もともとは気晴らしをするためのものなのです。一方、「体育」はもともと兵隊をつくるところからスタートしているので、規律重視の指導というイメージがあります。

 また、「スポーツマン」と聞くと、日本人は「運動神経がいい人」とか「競技力が高い人」などと思いますよね。でも、英英辞典で調べてみると、「Good fellow(いい仲間)」とか「Good loser(負けたときの品性)」といったことが書かれています。

 だから、私は生徒たちに「体育館やグラウンドに来たら、教室や家であったことなどを一回全部忘れて、誰とでも楽しくやってほしい。ここで遊び切ってほしい」と伝えています。

ーーこれまでの「体育」の在り方が変わるような気がします。

 例えば、授業で私と生徒が向き合ってあいさつをすることもありません。私は離れた所にいて、生徒が円になってあいさつをしています。授業が終わるときも、遊んでくれた相手は私ではないので、遊んでくれた仲間同士であいさつをして終わります。

ーー技術的なことは教えるのですか?

 周りの友達が教えるようになれば最高だと思っているので、生徒が「教えてください」と言ってきたら教えますが、基本的には生徒同士で見て感じ合ったり、教え合ったりするようにしています。そのために、自分ができることと、できないことを生徒がちゃんと伝えられるようになっていくことも重視しています。

 そういうやりとりの中で、コミュニケーションが生まれます。技術的なことに関しても、伝えようと思う子の方が、時に教師より上手に伝えます。教師が教え、うまくいかなかった場合、フォローの仕方を間違えると「私はやっぱりできない」と言う人をたくさんつくっていくことになるのです。

 あとは、キャッチボールを1年かけてずっと続けることもあります。

ーーそれはどういう目的で続けるのですか。

 例えば、4月の間は野球、5月は走り幅跳び、というようにぶつ切りでやっていくと、できない子はできないままです。キャッチボールも、ずっとやるわけではなく、違う単元の時も毎回最初の10~20分間だけやります。最初はできなかった子が、半年~1年間続けることで、そこそこできるようになるのです。

 ここで大事なのは、キャッチボールが上手な子が、下手な子にどういうボールを投げるといいのかを学び始めることです。

 最初、上手な子は力いっぱい投げます。自分がうまいことを見せたいからです。でも、1年間続けていると、上手な子も相手に「取らせよう」と意識して投げるようになります。これは、言葉のキャッチボールでも同じことが言えます。

部活動改革は「教師の負担軽減」が目的になっていないか

ーー2023年から公立中学校では休日の部活動の地域移行が進められるなど、部活動に変化が起きてきています。

 地域移行させることについては、私も全国高体連研究大会で00~04年まで4年間研究した「地域スポーツクラブと部活動」を発表したこともあり、方向性としては賛成です。ただ、いくつか気になることはあります。

部活動改革は生徒のニーズを把握するべきと指摘する

 まず、今回の部活動改革は、「教師の負担軽減」というところから議論がスタートしている点が問題だと思います。誰も生徒側のニーズを調査していないと思うのです。現役の中学生に調査しづらいのであれば、中学校で部活動を経験してきた高校生や大学生に調査すればいいだけの話です。

 平日は教師が指導し、休日は地域スポーツクラブやスポーツ少年団の人が指導するとなれば、生徒たちはその間に挟まれて、「どっちの言うことを聞けばいいの?」となってしまう可能性もあります。

 かじを切ろうとしている方向は間違っていないのですが、「次の高校ではどうするの?」「大人の健康年齢UPにどうつなげるの?」など、最終的なビジョンができていないように感じています。

ーー部活動改革で鍵になることは、どんなことだと考えていますか。

 私は常々、教師の立場から部活動の在り方や考え方を改めたいと考えてきました。

 私は中学生になった時、野球部と卓球部とサッカー部の3つの部に入りたいと思っていました。でも、担任に1つしか選べないと言われ、理解できなかったことを今でも覚えています。

 また、学校の部活動は勝利を追求するばかりでいいのか疑問を持っていました。運動部の場合、試合で戦力にならないと判断されたら、3年間一度も試合に出ることなく終わることもあります。

 加えて、高校で部活動に所属すると、校外のクラブチームなどには基本的に所属できません。高校受験の時に、例えばサッカーを選ぶか、医者になるという自分の夢を選ぶか、その2つをてんびんにかけなければいけない子どもたちが、毎年いるのです。

 そうしたことから私は30年前、Jリーグクラブ設立に向けて動きだすとともに、高校生のためのユースクラブ設立に向けても動きだしました。それ以前から、小学生から大人までが所属する立山町のサッカークラブ「立山ベアーズ」の選手兼指導者として参加していましたが、高校生の部を独立させて、「FC富山U-18」を立ち上げました。

 当時は勤務校のサッカー部の練習が終わると富山県総合運動公園に向かい、午後7時からU-18クラブユースメンバーを指導するということを続けていました。これに対して、「自分の高校のサッカー部を見捨てるのか」「自分の学校のことだけやっていればいいのに」など、いろいろな批判も受けました。

 でも、私には「社会に出る前の高校生に、部活動以外の選択肢を持たせて、自分で選べるような環境を整えてあげるのが、教師や大人のやるべきことだ」という信念があったので、体力的にはきつかったのですが、地道に活動を続けました。

 そして03年には、全国に先駆けて富山県U-18リーグが開幕し、クラブと高校が共に公式戦を楽しむ環境が整えられたのです。私の背中を見てきた部活動側の教え子には、現在、地域に人工芝コート2面を有するサッカークラブを創設したすごいやつもいます。

 部活動に限らず、学校教育の多くの場面で子どもに選択肢がないことがおかしいのです。子どもたちが自分で選んでいけるようにする環境を用意するのが、大人のやるべき仕事です。たくさん選択肢をつくってあげること、寄り添ってあげることこそが、大事だと思いませんか。サッカーのゲーム中でも、選択肢を多く持っている選手の方が瞬時の判断を楽しんでいますし、結果、良いプレーにつながっています。

ーーこれまで、たくさんの困難を乗り越えてきたわけですが、その原動力はどこにあるのでしょうか。

 部活動を変えたいのは、富山の子どもたちに大好きな「スポーツ=遊び」をずっと楽しんでほしいとの思いがあるからです。この点は、これからもいろいろなアプローチで取り組んでいきます。

 また、Jリーグクラブができたからといって、私はそれがゴールとはもともと思っていません。欧州で見たような、小さくても地域密着型のクラブをつくりたい。子どもからお年寄りまでが、「運動」だけでなく、観る、語る、支えるなど、スポーツを愛して楽しめる環境をつくり上げたいのです。

ビジョンがあるところに立ちはだかる壁は「友達」

 ビジョンがあるところに立ちはだかる壁は、友達です。逆に、ビジョンがないところにできる壁は、つらいだけです。しかも、壁は蹴ったボールを正直に返してきます。壁を乗り越える楽しさを覚えるには、その壁の向こう側にちゃんとした自分のビジョンがないと、越えようと思わなくなるし、越える楽しみすらなくなります。

 私はこれからも学校現場や社会活動を通して、ひとづくり、まちづくりを楽しんでやっていきます。

(松井聡美)

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【プロフィール】

佐伯仁史(さえき・ひとし) 1964年生まれ。富山市出身。筑波大学体育専門学群卒。富山県立雄峰高等学校体育科教諭。実業校、進学校、定時制、支援学校全ての校種を経験。教職と並行して、社会生活や教育現場におけるスポーツの重要性を研究、実践。立山フットボールアカデミー(現立山ベアーズ)を設立、そこから独立したFC富山U-18などを経て、2005年にNPO法人富山スポーツコミュニケーションズを設立し、理事長に就任。富山県サッカー協会特任理事として「Jリーグスタディグループ」を設置し、県民クラブ(そのまま「カターレ富山」に)を創設した。JFA(日本サッカー協会)公認B級コーチ、JFAスポーツマネジャーズカレッジサテライト講座インストラクター。著書に『フツーの体育教師の僕がJリーグクラブをつくってしまった話』(徳間書店)。

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