【エジプト編】 特別活動と子どもたちの成長

エジプトに雨

 エジプトは砂漠の国である。私が住んだ2年間で、雨を見た日は両手で数えられるほどだ。それもすぐやんでしまうので、ここでは雨は本当に貴重である。珍しく雨が降っていたある休みの日、エジプトの友人から「今からお茶を飲みに行こう」と電話がかかってきた。エジプトのお茶を飲むところは大概、店の外にある。それを思って、「今日は雨が降っているじゃないか。また今度に行こう」と言った。そして、私は「そもそも、なんで雨降っている今日なんだい?」と聞いたところ、友人は答えた。「今日はいい天気だからさ」。雨が降る日は、砂漠の砂が巻き上がらない。雨が降る日は、なんだか空気がきれいになる。だから、いい天気。考え方一つで、「いい天気」は変わるものだ。そんなすてきな考え方が、そこにはあったのだ。そしてそれは、ある日の「学校」でも垣間見えた。

 その日は夜に雨が降って、朝方にはやんだ。しかし道路には、水たまりが多く残っている。雨がほとんど降らない町であるから、道路の排水設備がほぼないのだ。その日学校に行くと、子どもたちのほとんどが来ていなかった。しかし先生たちは、紅茶を飲みながらまったりとしていた。尋ねると、「雨で子どもたちが来ないだろうから。リラックスしているのさ」とのこと。雨が降ったから、休みでしょうがない、だから休憩しよう。ゆとりがある彼らの考え方は、とてもすてきに思えた。

「トッカツ」の手応え
「トッカツ」に取り組んだクラス

 そんなおおらかなエジプトの人に支えられながら、私は新しくエジプトに導入された学び「トッカツ」の実践授業に取り組んでいた。エジプトの多くの先生たちは、新しい取り組みに興味をもって協力してくれた。そして何より、授業の中で子どもたちが進んで発表する姿、進んで行動する姿を見て、「トッカツ」の良さを感じてくれる先生が現れ始めたことに手応えを感じた。

 2019年の2月。私が2年間エジプトで取り組んできた集大成として、行われることになった最後の公開授業が次の日に迫っていた。お世話になった先生たち、アラビア語をサポートしてくれていた日本語を学ぶ学生たち、「トッカツ」の普及に取り組んだ仲間たち、また「トッカツ」を学びたい人たちなど、多くの人を巻き込んで行われることになった。万全の準備をして、早めに眠りについた。

 すると窓の外で聞き慣れない音がする。なんと雨だ。さまざまなことが頭によぎった。先生たちは公開授業のことは知っているが、子どもたちには知らせていない。明日、子どもたちは、ほとんどが登校しないのではないか。もし雨が長く続けば、先生たちも学校に来ないのではないか。たくさんの人に協力してもらって、やっとここまでたどり着いたのに。そのような心配で、朝までほとんど眠れなかった。

 公開授業の日の朝。雨は上がっていたが、道路には水たまりがたくさんあった。すぐに学校に行ってみたが、案の定、ほとんど子どもたちは登校していない。どうするか、中止か。そう決めようとしたときに、校長先生が声を掛けてくれた。「やろう」と。

 1クラス100人以上、全3学年が各5クラスのこの学校に、その日は、子どもたちはほとんどいなかった。しかし、学校中をくまなく探すと、家の事情などで、登校してきた子どもたちが約30人いた。いろいろな学年、クラスが混じっているが、しょうがない。子どもたちに話をすると、「やる!」「がんばるよ!」と声を掛けてくれた。

 子どもたちの数よりもたくさんの大人たちに囲まれながら、学級活動「ふわふわことばを使おう」を行った。進んで意見をいう子どもたち。ロールプレーで演じて感想を言う子どもたち。考えて、自分たちの意見を伝え合う姿は、日本のそれとはまた違う感じの「生きた表現」のように感じた。「ありがとうやごめんねを、周りの人に、もっと言うよ」など、前向きで普段の生活につながる学びとなったように思う。

 授業が終わり、その子たちにお礼を言った時、子どもたちは、満足そうな表情と疲れ切った表情を入り混じらせながら、私に抱き付いてきた。たくさんの人に囲まれて、私も、彼らもいっぱいいっぱいだった。一緒に涙を流した。

未来は明るい

 エジプトの「トッカツ」はまだ動き始めたばかりだ。しかし、エジプトの子どもたちがさらに「考え」、「表現」をし出したとき、もしかするとそこからは、国をも動かす大きな力が生み出されるかもしれない。エジプトの人々の魅力と日本の教育の交わりによる効果が、計り知れないものになるかもしれない可能性を感じた。

 エジプトは雨が降った後、空気がきれいになる。そうすると、人々はより豊かに過ごすことができる。そのような意味で、日本の「トッカツ」が、彼らの未来を、さらに豊かにすることができるかもしれない。

(加藤奏太=かとう・そうた 元JICA協力隊員。現在は、愛知県にある学校法人江西国際学園で日本人教師として勤務)

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