【これからの学校を巡る法律論】 子どもの権利と教師

 子どもも教師も安心して過ごせる学校にするために、法律の視点から何ができるのか。弁護士資格を持つ社会科教師として中高一貫校に勤務する神内聡・兵庫教育大学大学院准教授と、子どもに向けて分かりやすくいじめに関する法律を解説した『こども六法』の著者である山崎聡一郎・Art&Arts代表社員(社長)の対談では、2回にわたっていじめ問題や校則の見直しを取り上げてきた。最終回となる第3回は、これからの学校が目指すべき姿に、法的な視点から迫っていく。

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ロジカルではないやり方でうまくいくこともある学校現場の複雑さ

――人権侵害に当たる校則の存在は、子どもたちに対してロジックが通じないことをメッセージとして発信してしまっているという山崎さんの指摘について、神内先生はどう捉えていますか。

 神内 私は、教師の仕事そのものにロジックを否定するような要素が含まれてしまっているように思います。例えば、多くの先生は若いうちから学級担任を受け持ちますよね。いろいろな子どもがいる学級集団をどうまとめていけばよいかということは、ある意味、どういう支配が最も理想的かを考えることにつながってしまいます。そこでもし、ロジカルではないやり方で成功体験をしてしまうと、それがその先生の自信になり、絶対的な信念になってしまう危険性があるように思います。

 学級経営ではしばしば、そうしたロジカルでないやり方の方がうまくいき、評価されてしまうことがあるんですよね。

 これは部活動の指導や生徒指導ともつながる話で、全然ロジックが通じないような指導をしている方がうまくいったり、生徒から信頼されたりするケースもある。逆にリベラルな学級運営をやろうとして、無秩序になってしまったクラスもあります。だからすごく難しい問題なんです。

 ただ、日本の学校の構造として、学級担任のシステムが強過ぎて、担任のやり方に合う子はいいけれど、そうではない子はしんどいという問題はあると思います。今後、すでに一部の学校で取り入れられている「全員担任制」や「複数担任制」が広がっていけば、いわゆる「学級王国」のような文化もなくなるし、教師の意識も変わっていくのではないでしょうか。

 そういうことが、合理性を持った教育システムをつくることにつながるのではないかと思います。

 山崎 子育てもそうですが、子どもにも向き不向きがあるし、特に小学生は論理的な思考力が未発達だから、ロジックよりもメンタルに働き掛ける学級経営の方が奏功しやすい面はあると思います。ただ、あくまで学校の先生はメンタルだけでなく、ロジックも持ち合わせていなければいけません。特に校則は、ロジカルな性質のものであるという共通認識を持った上で、運用していく必要があると思います。

当たり前のことを明文化している意味

――お二人のお話は、ロジカルとメンタルの両方を持ち合わせて子どもたちに接していくというところが、共通しているように感じました。その大前提にあるのが、今、国会でも「こども基本法」が議論されていますが、やはり「子どもの権利」なのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

憲法教育では、なぜ当たり前のことが書かれているかまで踏み込んで学ぶ必要があると話す山崎さん

 山崎 実を言うと、僕自身は「子どもの権利」に対してすごく懐疑的なんです。もちろん、重要なことだとは思っていますが、僕が小学生のときに「子どもの権利条約」を読んで何を思ったかというと、「当たり前過ぎることが書いてあるだけだな」ということだったんです。当たり前過ぎて何とも思わないし、何なら普通に侵害されているし、それに対してどうこうしてくれるってことが書いてあるわけじゃない。だから、なぜそんな当たり前のことがわざわざ書かれてあるのかということを、ちゃんと教えなければいけないと思います。

 小学生の頃にいじめに遭っていたとき、どうして日本国憲法にはこれだけ人権が大事だと書かれているのに、僕自身の人権は侵害されているのだろうと思っていました。絵に描いた餅じゃないかと。

 では、なぜ憲法や条約に書かれてあるかと言えば、象徴として文章で掲げられているからです。例えば、ハトは平和の象徴ですが、なぜハトが平和の象徴なのかはよく分からないですよね。でも、平和は目に見えない、触ることもできない概念的なものだから、意識しなければ忘れられてしまう。ハトはその平和という概念を人類が忘れないでいるためのシンボルなんです。これによってわれわれは、ハトを見れば「平和」をイメージすることができます。当のハトたちがどう思っているかは関係なく。人権も同じです。憲法や条約で生命や財産や平等が大事だと明文化されているから、私たちはその価値観を共有できるんです。

 だから、単に憲法でどんな人権が規定されているかを教えるのではなくて、その認識を深めるために、当たり前なことがなぜわざわざ書かれているのかまで踏み込んで教えることが大事だと思います。

 神内 子どもの権利条約がなぜあるのかというと、私は子どもが生まれてきたことや生まれる環境を選べないからではないかと考えています。そうした中で全ての子どもに対し、これから生きていく上で必要なことを保護していく。それが子どもの権利で、子どもが生まれてきた以上、今もこの先も幸せになるためにどうすればいいかをみんなで考えるために、この条約はあると思っています。

 教師である以上は、やっぱりこの条約が前提にあります。だから、校則のようなローカルルールを決めるときも、生徒を指導するときも、子どもの権利を認識した上での教育活動でなければいけないと思います。

――そうしたことを考える意味でも、今年度から高校で始まった「公共」のような学びがあると思います。

子どもの学習権の視点から、学習指導要領や教科書の問題を指摘する神内准教授

 神内 「公共」については、私は疑問を持っています。なぜかと言えば、教えることが多過ぎるんです。教科書に詰め込まれた内容は、週に2コマの授業ではとても終わりません。今の子どもが学校を卒業して、20年後、30年後に活躍するために必要なことは何かということが整理されているのが学習指導要領のはずなのですが、結局、いろいろな人がそれぞれの立場で必要だと思うことを主張して、整理しきれずに網羅的に持ち込んでしまっている。本当は必要なことをもっと絞り込まなければいけないはずなんです。

 地歴・公民の科目では、こうした状況が特に顕著です。「日本史」や「世界史」なんて、教科書の最後の方は授業でやれないことが多いわけですが、それは子どもたちが学ぶべきことを教えていないことになるので、子どもの学習権を奪っているとも言えます。そういうことがまかり通ってしまっている。子どもの学習権という視点から、学習指導要領や教科書が考えられているのかなと思うと、やはりそこは疑問があります。

学校現場にリーガルマインドをどう根付かせるか

――あっという間に時間がなくなってしまいました。改めて、法律を切り口にしたときに、これからの学校や教師について、どんなことを考えていく必要があるのでしょうか。

 山崎 今の学校を見ていると、子どもたちだけでなく、先生も助けを必要としているように感じます。先生の主たる業務は授業ですが、求められている役割があまりに多過ぎて、本来の業務以上のことをやらなければいけなくなっている。自分がやるべきことは全力でやりつつ、明らかにオーバーワークになっていることは声を上げていく、助けを求めていくことを、先生は心掛けてほしいと思います。そうしないとみんな学校現場を去っていきます。今の教員不足は、そうして招いた状況なのではないでしょうか。

 9年間の義務教育が保障されている。そんな学校制度がインフラとして整っている国はそうありません。だからこそ、先生の役割、学校の機能がより多く求められている面はあると思います。でも、それでオーバーワークになっているならば、それに見合うだけの予算や人を付けないといけない。そういう法制度にしていかないと駄目だと思いますね。

 神内 私は、教師の主たる役割を授業だとする考えには、ちょっと不安を覚えます。この先、AIが普及したり、オンライン授業が整備されたりすれば、授業はそれらに置き換えられてしまう可能性があります。ビジネスの世界では、すでに20年後を見据えて変わっていこうとしていますが、教育界はどうでしょうか。学校や教師の役割を絞り込んで仕事を削っていくことが、果たして正しい方向なのか、ちょっと気になっています。

 教師という仕事には、授業だけじゃない特殊性や専門性があるのではないかと思うのです。例えば生徒の悩みを聞くのがうまいとか、生徒に寄り添えるとか、もしかしたら部活動の指導などもそうなのかもしれません。これらはAIが苦手とする領域で、そういう側面も踏まえながら、いろいろな先生が活躍できるようにすることが重要なんじゃないかと思います。

 学校には、なぜ法律というツールが浸透しないのか。個人的な仮説ですが、それは社会人経験のある先生が足りないからではないかと思います。他の業界ではどんなルールで、どんなロジックで仕事をしているのかを知り、そういう意識が浸透していくことで、学校の文化や教師の思考も変わっていくのではないでしょうか。今後は、学校現場に法的な思考力、リーガルマインドをどう根付かせていくかという議論が必要だと思います。

(藤井孝良)

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【プロフィール】

神内聡(じんない・あきら) 1978年、香川県生まれ。弁護士、兵庫教育大学大学院准教授。東京大学法学部政治コース卒業。同学大学院教育学研究科修了。専修教員免許状保有。日本で初めての弁護士資格を持つ社会科教師として中高一貫校で勤務し、クラス担任や部活動顧問などを担当する一方(現在は非常勤で勤務)、学校現場に精通した弁護士として各地の学校のスクールロイヤーなどを担当している。2020年から教職大学院でも勤務し、チーム学校、教育制度、教師文化、市民性教育などの研究活動を行っている。著書に『学校弁護士』(角川新書)、『スクールロイヤー』(日本加除出版)、『大人になるってどういうこと?』(くもん出版)など。

山崎聡一郎(やまさき・そういちろう) 1993年、東京都生まれ。教育研究者、写真家、俳優。合同会社Art&Arts代表社員(社長)。修士(社会学)。2013年より「法教育といじめ問題解決」をテーマに研究活動と情報発信を行う。いじめを法律の観点で解説した『こども六法』(弘文堂)が書籍となり、話題を呼ぶ。今年、その続編となる共著『こども六法練習帳』(永岡書店)を出版。劇団四季「ノートルダムの鐘」に出演するなど、ミュージカル俳優としても活躍中。

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