教師の武装化までも 異常な増加傾向にある米国の学校での銃乱射事件

テキサスの小学校で起きた銃乱射事件

 米国は銃社会である。銃の保有が憲法修正第2条によって保障されており、合法的にいつでも銃を購入できる。2021年の調査(National Firearms Survey)によれば、成人の8140万人が銃を保有し、同年に販売された銃の数は1880万丁に達している。こうした銃の保有を背景に、同年に銃を使った殺人や自殺の数は20万726件起こっている。毎日、どこかで銃によって人が死んでいる。だが政治的対立のため、銃規制はなかなか進まない。

 21年の「無差別に銃を乱射する事件(mass shooting)」は693件で、前年比で13%以上の増加だった。それによって702人が死亡し、2844人が負傷している。さらに悲惨なのは「学校内での乱射事件(school shooting)」も増えていることだ。同年に学校内での乱射事件で死亡した子供の数は22人、負傷者は80人を超えている。これは18年以来、最高の犠牲者の数である。

 学校内での乱射事件は珍しいものではない。だが、5月25日にテキサス州南部にある小さな町ユヴァルディの小学校で起こった乱射事件は、米国社会に大きな衝撃を与えた。7歳から10歳の子供19人と教師が殺害された。犠牲者が幼い子供たちであったことが、事件をより悲劇的なものにした。犯人は18歳の少年で、事件後、自殺している。また事件前に自宅で祖母を殺害したことも明らかになった。

 この事件を受け、多くの人は銃規制の必要性を訴えている。だが、過去の例を見ると、有効な対策が講じられることなく、事件は忘れられてしまう。今回の事件も、米国の銃社会を基本的に変えることはないだろう。

学校における銃乱射事件の実態と対策

 次に学校における銃乱射事件の実態と、行政や学校が銃乱射事件にどのように対応しているのかを説明したい。

 学校内での乱射事件数は増加傾向にある。20年に113件、21年に240件、22年は5月までに141件起こっている。このペースで続けば、今年の件数は昨年を大幅に上回ることになる。1970年に起こった件数はわずか20件で、同年以降に起こった学校内での乱射事件数は合計で1924件に達している。さらに特徴的なのは、ここ数年、異常なほどの増加を示していることだ。犠牲者の数も、当然ながら増加している。20年には死者は27人、21年は42人、22年は現在までに48人が殺害されている。70年以降の犠牲者の総数は637人に達している。負傷者は1734人である。

 犯人の43.1%が在校生だ。学校と全く関係のない人物は約20%である。また984件では、犯人は特定の人物を狙って攻撃している。攻撃の対象で最も標的にされているのが、教師である。また278件は無差別に銃を乱射している。事件後、犯人が死亡したケースは217件で、そのうち86%は自殺によるものだ。年齢で最も多いのは17歳で、次いで16歳と15歳が続く。

 乱射事件が起こった場所で一番多いのは学校の駐車場で、21.8%であった。教室内が10.4%、建物の外が9.5%、廊下が8.3%、校門が8.1%。時間は午前の授業中が18.4%、午後の授業中が10.4%。スポーツなどのイベントの最中に起こった比率は1.2%である。

 発砲理由は、けんかが発展した例が37.1%、偶発的な事故が10.4%、自殺・自殺未遂が7.6%だった。犠牲者のうち1729人が男子生徒、515人が女子生徒であった。学校で暴力によって傷つけられたり、いじめられたり、バカにされたりしたことに加え、家庭内で虐待を受けたことによる反動も理由として挙げられている。さらに犯人が精神疾患を患っているケースも多くみられる。いずれにせよ、事件の背後に生徒の絶望感があると思われる。

 学校における子供の状況をみると、12~18歳の生徒のうち22%が学校でいじめられた経験があると報告している。他の生徒がSNSでいじめられているのを目撃したことがあると答えた生徒は87%に達している。72%の生徒は、容貌や体型を理由にいじめられた経験があると答えている。いじめが理由で乱射した犯人のうち36%は、いじめられた事実を誰にも話していないと答えている。

 ユヴァルディの小学校の乱射事件後、さまざまな対応策が検討されているが、学校現場は銃規制の強化を待っている余裕はない。テキサス州とフロリダ州の学校は、リュックサックの構内への持ち込みを禁止し、ジョージア州とバージニア州の教育当局は、警備の警察官の増員を決めている。ニューヨーク州では安全を強化するために、生徒が教室に入ったら、教室のドアをロックすることを決めている。ニューヨーク市では、教師と生徒に乱射事件が起こった場合に備えた訓練を実施している。一部の学校では、銃を探知する検査装置を内密に設置している。しかし、こうした対策を講じても、学校における銃乱射事件を防ぐことはできない。

銃を巡る議論

 銃規制問題は、同時に政治問題でもある。バイデン大統領をはじめとするリベラル派は、銃規制強化を主張している。ただ、銃保有を禁止するまでの要求をしているわけではない。憲法で銃保有が保障されており、銃保有を完全に禁止するには憲法改正しか道はない。銃購入に際しての経歴などのチェック、保有が認められる銃の種類の規制などを行うのが、現状では精いっぱいの対応である。

 他方、保守派は、銃保有は市民の権利であり、銃規制の強化は市民の権利を侵害することになると銃規制強化に反対する立場を取っている。テキサス州のパクストン司法長官は「悪人が悪事を働くことを止めることはできない。われわれにできるのは、武装し、教師や学校の管理者を銃乱射に備えて訓練するしかない」と、教師の“武装化”の必要性を主張している。トランプ前大統領も全米ライフル協会での演説で「学校の安全を確保するために教師を訓練し、学校内で銃を保有させるべきだ」と語っている。すでに幾つかの州では、教師の訓練プログラムを実施している。フロリダ州は2019年に教師の武装化を進める法案を成立させている。

 ただ、教師の武装化に反対する声もある。2900人の教師を対象にカリフォルニア州立大学が行った調査では、95.3%の教師が「教師は教室に銃を持ち込むべきではない」と答えている。教員組合「National Education Association」のプリングル委員長は「必要なのは学校での銃を減らすことであって、増やすことではない。教師は教えることが仕事であって、武装した警備員ではない」と、教師武装化に反対する立場を明らかにしている。

 こうした銃を巡る議論の中で、09年に「米国疾病予防管理センター」が興味深い報告を発表している。学校内の安全を確保するためには、「学校内でのつながり(connectedness)」を改善する必要があると主張しているのだ。「生徒が自分の学校とつながっていると感じるようになると、健全な行動を取り、暴力を振るわなくなる」と指摘している。

(中岡望=なかおか・のぞむ ジャーナリスト)

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