本気度が違う? 「バイリンガル国家」を目指す台湾の英語教育

「Bilingual 2030」構想

 急速に進む国際化で英語の重要性はかつてないほど高まっており、非英語圏では初中教育での英語教育促進が重要な課題になっている。日本も例外ではなく、文科省は英語教育のためにさまざまな政策を講じてきた。だが、そうした努力の成果が十分に出ているとは言えない。筆者は20年以上、いくつかの大学で英語を使って専門コースの授業を担当してきた。その経験からいえば、この20年間に学生の英語力はむしろ低下しているのではないかという印象を持っている。英語で日常会話はできるが、専門的な議論ができる学生の数は極めて少ないのが実情である。

 同様な状況は台湾でも見られる。現地のメディアは「台湾でも英語学習ブームはかつてない高まりを示している。台湾政府は英語能力の重要性を認識し、公務員は台湾を“バイリンガル国家”にする努力を重ねている」(『天下雑誌』2021年1月10日)と伝えている。だが同時に同誌は「台湾の英語教育の問題は、テスト中心の教育文化や詰め込み教育のため、学生は英語を使って議論に参加することや、独自の観点から問題に取り組むことができない」とも指摘している。すなわち学生は、「critical thinking」「in-depth analysis」「clear communication」というスキルを十分に身に付けていないと指摘している。

 台湾政府は英語教育の問題に取り組み、台湾をバイリンガル国家にするために、21年9月に国家発展委員会と教育部などを中心に「Bilingual 2030」構想を発表した。同構想では「台湾は主要な貿易国であり、世界的なサプライチェーンの中で重要な役割を担っている。近年、多くの多国籍企業が台湾に投資をし、バイリンガルの能力を持つ人材に対する需要が急速に高まっている」とし、「台湾の若者の競争力を高め、より良い職業とより高い給料を獲得できるようにするため、政府は『Bilingual 2030』政策を始める」と説明している。その政策では「エリート学生の養成」と「全ての若者の英語のコミュニケーション能力の向上」という“dual-track(2つの目標)”政策を取るとしている。

初中教育や教員の目標

 『Bilingual 2030』は6つの目標を設定している。その特徴は単に学校における英語教育の促進にとどまらないところだ。具体的には、①高等教育におけるバイリンガル教育の加速化②初中教育ではバランスの取れた形でのバイリンガル教育環境の整備③デジタル・ラーニングの開発④英語能力検定制度の整備⑤公務員の英語能力の向上⑥政策を促進、実施するための専門的な行政機関の設立――が掲げられている。

 初中教育でのバイリンガル教育に関して「学習は知識や技術の習得に限定せず、学習を生活と結び付けるように留意する」とし、幅広い英語教育を行うとしている。そのために政府はバイリンガル学習環境の整備に加え、学生が英語を使える場所を増やす努力を行う方針を明らかにし、「政府は学生の英語で自己表現できる能力を高める手段として英語教育を実施する。義務教育の全ての段階で、全ての学校で集中的にバイリンガル学習ができる環境を整備する」としている。

 さらに、英語教師の能力向上を目標に掲げている。現在、台湾には1万7000人の英語教師がおり、政府は英語教師のオーラル教育の能力向上に努め、教師と学生が英語で対話できる機会を増やし、学生が授業で英語を使って討論できるようにするとしている。また、①英語だけで行う授業の増加②バイリンガル教育への補助金増額③学生が英語を使える機会を増やすための多様な教育メソッドの開発④学生が知識やスキルを得るために英語を使う習慣を確立するための支援⑤学生のリスニング能力やスピーキング能力を高め、将来の雇用市場における競争力を強化――などを掲げている。

 そうした政策の結果、24年までに全学校の60%で英語の授業は全て英語で行える体制を作り、7校のうち1校では英語の授業以外の授業でもバイリンガル教育を行えるようにすることを目標としている。バイリンガル教育ができる台湾人教師の数を6000人に増やし、20%の学校で外国人の英語教師を採用する。また30年までに、バイリンガル教育をする台湾人教師を1万5000人まで増やす。全ての学校で英語の授業は英語で行い、3分の1の学校では英語のクラス以外でも英語で授業を行えるようにする。こうした計画を実現するために、政府は全ての学習段階でリスニング能力とスピーキング能力を測定するテスト制度の確立を目指すとしている。

 またバイリンガル教育の人材養成として、▽学校内での教師に対するバイリンガル教育のクレジット付与制度の確立▽教師の海外での短期英語研修の実施▽全ての英語教師に対する訓練機会の提供▽海外からの英語教師、アシスタントの採用――などを掲げている。

 こうした政策を確実に実施するために「Bilingual Policy Development Center」を設立することも計画に含まれている。同センターは、政府機関が行っている教育、試験、訓練に関連する対策の水平的な統合を目指すことになる。

 ここでは『Bilingual 2030』の全てを紹介する紙幅はないが、同計画は極めて広範な目標を設定し、具体的な方策も提言している。台湾政府は、若者が世界で戦えるように徹底したバイリンガル教育を目指していることは間違いない。日本の英語教育と比べると、本気度が違うというのが偽らざる印象である。

(中岡望=なかおか・のぞむ ジャーナリスト)

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