【若手キャリア官僚「いざ鎌倉」】 政策立案の持続可能性を高める

 自治体クラウドファンディングという新たな手法で着任1年目から市内小中学校のプロジェクト型学習を軌道に乗せ、不登校対策や教員研修も改善策を打ってきた神奈川県鎌倉市の岩岡寛人教育長。コロナ禍もあり嵐のような2年間だったはずだが、「行政マンに必要なのは、社会の要請を多彩な手段で実現していく専門性」と冷静に語る。インタビューの最終回では、変化の激しい社会では現場や自治体から変化を起こし、国が追随するのが正しい政策立案の順序だと説く岩岡教育長の仕事観に迫った。(全3回)

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行政マンに必要なスキルとは

――革新に向けて突き進む岩岡教育長ですが、教育行政におけるリーダーシップの在り方について考えを聞かせてください。

 行政マンに必要なスキルは「やりたいことを実現する力」ではないと思っています。やりたいことは行政マンの中にではなく、市民や政治家、専門家などの心の中にあるんです。それら世の中が求めていることを行政という手段や知恵、スキルを使って実現していく。行政マンとしてそんなプロ意識を持って仕事をしています。

 私の場合も、鎌倉市がどのような方向に伸びていきたいか、鎌倉市の子どもたちがどうしたら幸せになれるか、保護者が思っていることを実現するためにどんなリソースが必要で、どんな手段があり得るのかなどを分析し、クラウドファンディングやnoteという手段にたどり着いただけです。冷静な現状分析に基づく答えだったと自分では捉えています。

――文科省での仕事と比べて、進め方などに違いはありますか。

基礎自治体のダイナミクスと責任を実感する日々だという岩岡教育長

 政策立案という点では同じですが、義務教育のステークホルダーである市民に最も近い場所にいるという点が大きく違います。苦情の電話が文科省にかかってきた場合、制度的には省庁が責任を取れないわけで、「お住まいの自治体にお問い合わせください」と、突っぱねることもあります。

 ところが、学校の設置者である基礎自治体の場合、苦情を寄せてきた市民に対して、最後まで対話をしていかなければいけません。相手は鎌倉の学校に通わせている保護者ですし、子どもは生身の人間として鎌倉の教室や地域に実在しているからです。市民の意向を真摯(しんし)に受け止め、誠心誠意対応する責任の重さを感じています。

変化のスピードに追い付く

――だからこそ、都道府県でも現場の校長でもなく、基礎自治体の教育長を希望されたのですか。

国が後から認める「逆発想」がこれからは必要になると話す

 社会が激しく変化する中、文科省が決めたことを全国に波及させていくモデルは、もはや成り立たなくなっています。それは実際の政策立案を見ていても明白です。学習指導要領は10年に1回しか改訂しませんが、現代は10年もすれば世の中が全く変わってしまうような時代です。

 国の政策立案が社会の変化のスピードに追い付けないのなら、順序を逆転させて、基礎自治体が子どもたちのニーズを踏まえてすべきことを考え、自律的に新しいことや面白いことを始めた方が理にかなっています。そうした取り組みを文科省が標準化して、汎用(はんよう)的な仕組みに落とし込んで全国展開していく。公教育が市民から見放されないためには、これしかないだろうと思っています。

――今後の展望について聞かせください。

 良い学校教育活動や教育政策が継続的に生み出される仕組みづくりに関心があるので、スクールコラボレーションの考え方は今後も大切にしていきたいと考えています。周囲の人たちの力を借り続けながら、良い教育が継続できるシステムの構築を進めていきたいですね。

 将来的には、鎌倉でできたことの拡大版を実践できないだろうかと考え始めています。例えば、都道府県単位でスクールコラボファンドを企画する、各自治体がスクールコラボファンドを立ち上げたときに投資家とのマッチングを支援する、といった取り組みです。

 鎌倉スクールコラボファンドの理念に共感してくださる人は多いのですが、投資家目線でいうと「なぜ、自分のお金を鎌倉のために使うのかがピンと来ない。日本全体の課題なら分かるが」と感じているはずです。そこを乗り越えるために、寄付金の受け皿を全国に広げる方法が考えられます。

教育委員会は合意形成力を高めよ

――そうした資金調達の仕組みが実現したら、教育改革にスピード感が出るかもしれませんね。教育委員会はどう変わっていくべきだと思いますか。

 首長や財政などの部局との合意形成力を高めることではないでしょうか。自治体クラファンの難しいところは「子どもに必要だと思うのなら、最初から予算計上に向けて動けばいいじゃないか」と、批判されるリスクがあることです。また、教育委員会が「集まったお金の分だけで教育活動をする」などと言っても、財政部局は納得しません。

 鎌倉市の場合は松尾市長の意向で、クラファンで目標額に達しない場合も、歳出予算として計上することが約束されていました。鎌倉の子どもたちに必要な教育プログラムだからと予算を保障した上で、社会の側から資金を集めるという枠組みを認めてくれた。そんな市長の覚悟は、心強いものがありました。

――現場の管理職や一般教員にはどのように接していますか。

「教育は未来をつくる仕事だから面白い」と話す岩岡教育長

 徹底的に夢を語るようにしています。教育は未来をつくる仕事だから面白い。教員に「子どもたちが20年先、30年先にこんなことができたら、すてきだな」とか「そのためにこんな教育活動してみたい」とか、ワクワクの種を持っていますかと問い掛けるようにしています。そして、その種があるなら、「スクールコラボファンドでリソースを用意するので一緒にやりませんか?」と誘っています。

 実際、教員はワクワクの種は持っているんです。各学級を回ると「ああ、この先生はこんな授業が好きなのか」と分かります。そうした情報を集めて分析した上で、校長先生に「こんな教育活動があったらいいと思うし、子どもも他の先生も喜ぶのでは?」と伝えてみるんです。そこで校長先生が「確かに、言われてみれば…」と自分事化してくれたら、プログラム参加に手が挙がります。だから「鎌倉スクールコラボファンド」の取り組みは、全て学校や教員の願いから出発しています。

 最初はきっと「35歳の教育長が文科省から来るなんて、どんな『バカ殿』が来るんだ!?」と、誰もが思ったはずです。実際に今では「そう思っていましたよ」と笑いながら言ってくれる人もいます。そんなふうに笑い合えるのも「徹底的にやりたいことをやろう」というスタンスでコミュニケーションを取り続け、現場がそれに応えてくれたからです。

 現場の教員と管理職、教育委員会が「教育を良くする」という同じベクトルを持つこと、それが改革を加速させることにつながります。教育委員会が学校や教員、そして子どもたちを支えているんだと実感できるような取り組みを、今後も続けていきたいと思います。

(長尾康子)

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【プロフィール】

岩岡寛人(いわおか・ひろと) 1984年、兵庫県芦屋市生まれ。岡山白陵中・高出身。東京大学教育学部を卒業後、文科省に入省。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院に留学。文科省初等中等教育局教育制度改革室専門官、幼児教育課専門官などを経て、2020年8月に鎌倉市の松尾崇市長の要請を受けて教育長に就任。

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