【北欧の教育最前線】 スウェーデンの高校生の夏期講習

 6月のスウェーデンは卒業シーズンだ。特に高校卒業は社会人になる区切りでもあり、盛大に祝われる。卒業生はスーツや白いワンピースを着て、白い学生帽をかぶり、スウェーデンカラー(青と黄)のリボンで結ばれたさまざまなプレゼントを受け取る。校舎から出てくる生徒を迎える人々は、卒業生の幼少時代の拡大写真をプラカードにして掲げ、成長を喜ぶ。高校卒業のお祝いは初夏の風物詩だ。

白い学生帽で高校卒業を祝う

 ただし、高校を3年間で修了する生徒は7割に満たない。4~5年かけて修了する生徒がいるほか、修了要件を満たさないまま在学期限を迎える生徒がいるためだ。そうした生徒は成人教育機関で学び直すこともできるが、高校修了率の向上は長年大きな課題であり、さまざまな取り組みが行われている。その一つが、自治体の提供する夏期講習だ。

4週間の補習授業

 高校を修了するには、3年間在学し、必修科目であるスウェーデン語(国語)、英語、数学などの科目で合格する必要がある。各科目の成績をつけるのは授業を担当する教師だが、各教科の評価基準は全国共通に定められており、多くの必修科目には成績の参考にするためにナショナル・テストが用意されている。

 ウプサラ市では、学期中に合格できなかった生徒向けに夏期講習を実施している。中学校と高校レベルの数学、英語、スウェーデン語のほか、高校の物理や化学、社会科系科目、宗教や心理学なども提供しており、今夏には中学校の社会科系科目や高校のスペイン語なども開講予定だ。生徒は所属校を通して2科目まで申し込める。2018年には420人ほどだった参加生徒は、昨年には750人まで増加した。

 夏休み前半の6月半ばからの4週間に高校の科目、同時期の3週間で中学校の科目が履修でき、いずれも最終試験に合格すれば、所属校で正式な合格として認められる。

 夏期講習は19日間にわたって実施されるが、各科目に参加する生徒たちは7~17人の小グループに編成され、午前中は80分単位の授業を数時間受けて、午後は自習する。宿題支援も同時間帯(午前8時~午後2時)に行われる。一日中学習するのではなく、午後には夏季休暇らしさを味わえるようにしているそうだ。

市全体で組織的な取り組み

 夏期講習に来て、数週間で合格の成績をもらう生徒の割合は、科目によって異なるが平均すると6割程度だ。

 それまでの学習で合格水準に到達できなかった生徒が数週間で合格するのは信じ難い、という懐疑の声もあるという。こうした疑問に対して、学習支援策を統括するモンス・ウィクスタッド氏は言う。「生徒たちは数週間だけ学習して合格するんじゃない。1年の学習の上に、数週間追加して合格する」。夏期講習はあくまでも学校での授業の学び直しなのだ。

 ウィクスタッド氏はウプサラ市で行われているさまざまな学習支援を統括している。学習支援は夏季だけでなく、スポーツ休暇(2月ごろ)、春のイースター休暇、秋休みなどの大型連休のタイミングでも実施されている。学期中には、放課後の宿題支援や、土曜日の補習授業がある。各学校や教師に任せきりにするのではなく、組織的にさまざまな学習支援を整えているのだ。こうした大規模な取り組みは全国的にも珍しい。

 その成果として、ウプサラ市の高校修了率は17年には全国平均とほぼ同じだったが、その後4年間で4ポイントほど上昇し、全国とは明確な差が生じている。

意欲的で力のある教師たちが集結

 授業をするのは、教員免許をもつ高校の教師たちだ。もちろん有給だが、休暇中にも授業をする意欲のある、教えるのが好きな教師が集まると言う。生徒の感想には、「授業のレベルが高くて、先生は効率的な方法で教えてくれる」といった声が多い。

 授業に特別な方法があるわけではない。それでも通常の学校との違いは、クラス規模の小ささ、一度に学習する科目の少なさ、クラスメートの到達度が同じくらいであること、教師が時間をかけてくれること、ゆったりとした雰囲気など、多くある。特に重要なのは、教師が生徒は合格できると信じていて、生徒自身もそう信じることだという。

 生徒にしてみれば、休暇中に補習を受けるよりも、できることなら学期中に合格したいところだ。それでも夏期講習に来る生徒の学習意欲は高く、少人数で分かるように教えてもらえる安心感がある。「先生の教え方が上手で、生徒数が少ないから、困ったらすぐ助けてくれる。本当に生徒が合格できることを願ってくれている」「みんなにちょうどいいレベル」「去年1年間の授業より、ここで学んだことの方が多い」と、受講生からは好評だ。

 しかしながら、夏期講習の生徒数増加や高評価はジレンマでもある。各学校が夏期講習を頼りにして、授業の質向上や学習支援に取り組まなくなったら本末転倒だからだ。そうした影響にも目を配りながら、多様な生徒に応じた学習支援策が求められている。

(本所恵=ほんじょ・めぐみ 金沢大学人間社会研究域准教授。専門は教育方法学)

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