【北欧の教育最前線】市も協力 デンマークの教員の働き方改革

 OECDの報告によれば、デンマークの教員が授業以外のタスクに使う労働時間は、日本の教員の約半分である。しかし、時間以外にも、教員のウェルビーイングを高めるような取り組みが現場にあった。教員・管理職・コミューン(市)が力を合わせて教員の労働環境改善に取り組んでいる様子を、ヘルシンオア市の特別支援学校で働くピーダーセン海老原さやか氏に伺った。なお、特別支援学校の労働環境は、一般の小中学校の労働環境と異なる部分も多いが、管理職の在り方や労働組合を通じた労働環境改善の仕組みは、学校種にかかわらず共通している。

教員のアドバイザー役としての管理職
特別支援学校の職員室(撮影:ピーダーセン海老原さやか氏)

 ピーダーセン海老原氏が勤めている学校では、校長のオフィスの扉は常に開かれている。「扉を開けているということは、何かあればいつでも相談に来てほしいというシグナルでもあります。校長はアドバイザー的な存在でもあり、何かあれば気軽に相談できる存在です。必要に応じて、保護者と直接コミュニケーションをとることもあり、校長にしかできない役割を担っています」と言う。

 同校の教員にとって、一番上の上司は、地域の4校を統括する統括校長である。ピーダーセン海老原氏は、職員会議に出席した際、統括校長が「話したいことや疑問があったらいつでもおいで。コーヒー1杯くらい飲む時間はいつでもあるから」と言っていたことが印象的だったと言う。「実際に話をしに行く教員がいるかどうかはさておき、統括校長がいつでも話を聞く姿勢があるというシグナルを送ってくれることは、教員の安心感につながります」と同氏は指摘する。

教員が理想のリーダー像を求めて動く

 教員側が管理職に対して理想的なリーダー像を求めることもある。同校には、4年前に新しい校長が就任した。採用の際、外部の採用コンサルティング会社が入り、教員は自分たちの求めるリーダー像について意見交換を行った。この会への参加は任意だったが、9割以上の教員が出席し、自分たちが求めるリーダー像について熱心に話し合いを行った。

 その結果、求められていたのは、専門性や経験があるのはもちろんのこと、教員が仕事に喜びを感じられる職場づくりができるリーダーだった。教員にとっては、喜んで働ける職場があることが優先事項だったのだ。

特別支援学校の外観の様子(撮影:ピーダーセン海老原さやか氏)

 この話には後日談がある。新しい校長が就任して1年後、教員の間では校長に対する不満が溜まっていた。例えば、新年度の教員の配置決定プロセスには不透明な部分が多く、情報開示してプロセスをオープンにし、教員の意見にも耳を傾けてほしいという要望があった。

 そこで、労働組合の職場代表が教員ミーティングを開催し、改善してほしい点をまとめ、統括校長と校長に書面で伝えた。その後、統括校長と校長、教員との話し合いの場が持たれた。数年がたった今も、同じ校長が勤めており、状況は改善されていると言う。

 デンマークでは教員の多くが労働組合に属している。労働環境に問題があれば、意見をまとめて労働組合に訴えることができる。そして、労働組合は労働環境改善のために積極的にサポートする。同氏は「基本的に、行動すれば状況を変えられると思っています。だからこそ、何か問題があれば教員は改善のための行動を起こします」と言う。

労働環境調査アンケートを改善策につなげる

 ヘルシンオア市は3年に1度、労働環境調査のためのアンケートを実施している。アンケートでは、仕事の満足度、仕事量と勤務時間のバランス、能力向上機会の有無、職場のサポート体制、職場でのコミュニケーションなど、さまざまな項目について教員自身が5段階評価をつける。平均値が3.5以下の項目は問題があると認識され、問題解決のために話し合いの場が設けられる。同氏によれば「労働環境調査は、現状を把握するためのツールです。現状を把握するだけではなく、改善のためのアクションとセットになっています」と説明する。

 近年、デンマークにおいても教員のストレスは問題になっている。だが、教員の意見に耳を傾ける管理職や労働組合が存在し、市が教員の労働環境改善をサポートしていることは、多少なりとも教員の精神的な支えになっていると考えられる。

(針貝有佳=はりかい・ゆか デンマーク在住ライター、翻訳家、リサーチャー)

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