【生い立ちを超え、なりたい自分になる】 子どもの救いになるために

 児童養護施設に対する「認知」が高まる一方で、施設の設置に反対運動が起こるなど「理解」は十分に深まっていないと話す田中れいか氏。施設出身の社会運動家として過ごす日々の中で、これまでどのような課題意識を抱きながら、活動を続けてきたのだろうか。インタビューの最終回では、日本社会や学校教育に抱く課題意識、今後の展望などについて聞いた。(全3回)

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教職課程にも研修にもない「社会的養護」

――2020年12月には大阪市で一般社団法人「ゆめさぽ」を立ち上げられました。経緯を教えてください。

 「ゆめさぽ」は、施設で暮らす高校生に大学の受験料を助成する法人です。入学金や授業料、入学後の生活費については奨学金などの支えがありますが、受験料は対象になっていないため、そうした法人を設立して支援を始めました。

 私が強く訴えたいのは、「生い立ちに関係なく、なりたい自分になれる」きっかけをつくることが大事だということです。そのため、大阪府内の企業や個人に寄付を募り、大学の受験料や会場までの交通費などを、1人につき最大7万円の助成をする取り組みを始めました。1期目は府内の45人に計315万円を支給しました。しばらくは府内の助成を続けますが、今後は規模を拡大し、広く全国に展開したいと考えています。

 私は社会で生きていくためには、挑戦したり失敗したりする経験が不可欠だと考えています。受験は一つの挑戦であり、失敗ができる機会でもあります。受験料を支援することは、そうした挑戦の機会を担保し、選択肢を増やすことになると思っています。

――社会的養護への理解を求める中で、現在は学校での活動もされていますね。

 クラウドファンディングで資金を集め、昨年12月に私が出版した著書『児童養護施設という私のおうち』を寄贈するプロジェクトを展開しています。対象は児童養護施設の子どもたちが通っている小中学校です。これまでに500冊を寄贈してきました。

――このプロジェクトを始めた経緯を教えてください。

教職課程で社会的養護を学ぶ機会がないことを危惧する田中氏

 大学の教職課程には、社会的養護について学ぶ科目がありません。児童養護施設についてもほとんど学ばないまま、学校現場で働くことになります。そうした状況がある中で、多くの先生方に社会的養護のことを知ってほしいと考え、アクションを起こしました。

「多様性の重視」を言い訳に何もしないのはどうか

――学校の教師が、社会的養護について知ることの意義とはどのようなものでしょうか。

 私が子どもの頃に通っていた小中学校では、全ての先生が地域の施設を訪問し、子どもに関する情報を共有するなど個別の連携をしていました。その取り組みは、20年以上も続いているものです。

 私は小学校で、親がいないことについて他の児童から揶揄されたり差別的な扱いを受けたりしたことがないのですが、それはそうした取り組みのおかげだと思っています。施設に対する偏見のない風土は、保護者にも浸透していました。その意味で、施設との連携は全ての学校でしてほしいと思っています。

 一方で、そうした取り組みに前向きではない学校もあります。プロジェクトを進める中で、ある学校の施設との連携について尋ねたところ、管理職の先生から「うちの学校は多様性を重視しているため、施設の子を特別視するような取り組みはしない」と言われたことがあります。多様性の大切さに異論はありませんが、それを言い訳に何もしていないのではないかと疑念を抱きました。

――そうした経験から、学校教員が社会的養護を知る大切さを訴えているのですね。

社会的養護について学ぶことは、児童虐待の防止にもつながるという

 私は、学校の先生が社会的養護について正しく知ることは、児童虐待防止の観点からも必要だと考えています。実際に、学校の先生が虐待を見つけてくれたおかげで救われた子の話を聞くことは少なくありません。先生方には「何かが起きている」と気付くプロフェッショナルな感覚があり、それが子どもたちを救っているのでしょう。そうした気付きを子どもの保護につなげるためにも、社会的養護について正しい知識を持ってほしいと思います。

 大学の教職課程で学ぶ機会がないのなら、せめて自治体や各学校で実施する研修などで、社会的養護について学べる仕組みを築いてほしいと思います。私自身も、社会的養護についての知識や情報を伝える映像コンテンツや記事の配信に向けて、準備を進めています。

 本を寄贈するプロジェクトを通じて、学校の先生方がいかに多忙であるかも痛感しました。そのため、時間をかけずに社会的養護について知ってもらえるよう工夫しようと考えています。これをプロジェクトの最終段階にする予定です。

施設が地域の拠点となり虐待防止に

――行政や制度面に関して改善すべきだと考えている点はありますか。

 一つは、支援情報についての周知の仕方についてです。当事者には理解しにくい言葉遣いを用いた情報が多く、受け手に合わせた分かりやすい説明が必要だと思っています。

 また、施設は単に「施設の子どもが暮らす家」というだけでなく、「地域に開かれた子育ての駆け込み寺」としての機能もあります。そうした機能の拡充や周知にも努めてほしいですね。

 昨年6月には全国児童養護施設協議会が、施設の地域支援機能を強化してより一層地域に開かれた施設を目指すと宣言するなど、施設が地域の中心となって虐待などによる施設入所を予防しようとする動きが強まっています。

 現状の取り組み状況は地域によって違いますが、子育て相談室を設けている施設や、支援拠点を設置している施設もあります。「施設の子だけではなく、地域の子も施設で育てる」という考え方です。

 施設職員には専門知識がある子育てのプロフェッショナルが多いので、育児中の方々に足を運んでもらい、専門的な知見を共有してほしいと私も思います。地域のつながりが希薄化する中で、施設が地域コミュニティーの中心となって、助け合いの輪が広がっていくことを期待しています。

――今後の活動の目標を聞かせてください。

「世の中に何かを残せたと振り返れるようにしたい」と話す

 今やっていることをやり続けながら新たな挑戦もして、お金にならなくても「世の中に何かを残せた」と振り返れるようにしたいですね。

――具体的に、何か考えていることはありますか。

 私自身、社会的養護について理解を深めてもらう活動を続ける中で、経営する側や事業を興す立場になりたいと考えるようになりました。30歳くらいまでは現在のような活動家としての役割を果たしながら、次の段階を考えていこうと思っています。

 私自身も「なりたい自分」を目指していきます。

(小松亜由子)

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【プロフィール】

田中れいか(たなか・れいか) 1995年生まれ。親の離婚により7歳から18歳までの11年間を児童養護施設で過ごす。退所後は短期大学を経てモデルとして活動する傍ら、社会的養護の子どもたちと、その経験者への理解の輪を広げる支援活動や講演、情報発信をしている。2020年4月、社会的養護専門情報サイト「たすけあい」・社会的養護専門たすけあいch(YouTube)を開設。昨年12月には著書『児童養護施設という私のおうち――知ることからはじめる子どものためのフェアスタート』(旬報社)を刊行。

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