【北欧の教育最前線】 ノルウェーにおける国際養子縁組

 北欧諸国では多くの国際養子縁組を受け入れている。ノルウェー的な名前をもち、ノルウェー語を流ちょうに話し、アジア系の外見をしている人がいたら、その人は養子かもしれない。ノルウェーには、韓国、中国、フィリピン、タイなどのアジア諸国、コロンビア、ブラジルなどの南米諸国、エチオピアや南アフリカといったアフリカ諸国などから養子に迎えられた人たちがいる。

なぜ海外から養子を迎えるのか?

 国際養子縁組は、朝鮮戦争における孤児らの救済に起源をもつ。人道主義的な立場や、現在では、実子がいない場合の選択肢としても定着している。国際養子を送り出す側には、未婚の母であることが難しいなどの、その国の社会的・文化的・経済的背景がある。一方で、国境を越えた子供の不法な連れ去りなどを規制するハーグ条約の実施や、送り出し国の経済状況が向上したことなどによって、現在では国際養子縁組は減る傾向にある。

国際養子縁組の数の推移(出典:ノルウェー統計局「養子縁組数(養子縁組の種類別)」。上から順に「国際養子縁組」「継子養子縁組」「その他養子縁組」「里子養子縁組」)

 ノルウェー統計局によると、1986年から2020年までに約1万5000人が国際養子縁組で迎えられた。60年代から増え始め、特に多かった90年代から2000年代初頭にかけては年間500人以上が迎えられた。一時期に比べると現在は減ってきたが、「養子」といえば国際養子縁組のことを指した時代もあった。国際養子縁組は認定を受けた国内3団体を通じて行われている。

 国の機関である子ども・若者・家庭局のウェブサイトでは、「養子を希望する場合は、ほとんどの人にとって国際養子縁組が選択肢に入る」として、手続きについて詳細を掲載している。国内では、子供を養子に出すことがほとんどないことが背景にある。継子養子縁組は、以前のパートナーとの間の子を、新しいパートナーとの養子にするといったケースが該当し、子供が18歳以上の場合も多い。ノルウェーでは、夫婦やパートナーが新たな養子を迎えることを考えたとき、国際養子縁組は身近な選択肢なのである。

国際養子縁組に関するオープンさ

 筆者の知る国際養子縁組をした家庭では、幼いころから、子供の出生国や養子であるということについて、家庭内外でオープンに話していた。韓国から養子を迎えた家庭では、韓国の伝統的な服や雑貨などを部屋に飾ったり、韓国名を一部残して命名したりしていて、韓国とノルウェーの2つの文化的ルーツがあることを誇りに思えるように育てていた。

 外見の違いから、養子であることを隠すよりもオープンにした方がいいという背景もあるだろうが、養子縁組法においても、両親には、子供が養子であること、また彼・彼女の民族的・宗教的・文化的・言語的な背景について、きちんと伝えることが義務付けられている。

 しかし、このようなオープンな環境で育っていたとしても、成長の過程で、自分自身のルーツを知りたくなったり、アイデンティティーの問題に直面したりすることは容易に想像できる。18歳になれば、自分自身が養子に迎えられた時の手続き資料や生物学的な両親からの問い合わせ状況などを見ることができる。しかし、ルーツを探すことに伴って生じる困難についてよく考え、専門のコーディネーターに相談することが推奨されている。

区別や差別の経験がある場合も

 学校や社会での経験はどうだろうか。乳幼児期からノルウェーの家庭で育っている養子の学力問題は、移民の背景がある子供たちに比べると目立たない。しかし、研究の結果はさまざまな課題を示唆している。

 移民の背景がある子供たちは、家庭での母語(第一言語)使用と並行して、ノルウェー語を習得しなければならないが、養子の場合は、ノルウェーに移住した時点から、第一言語がノルウェー語にとって替わる。そのため、移民の背景がある子供に比べて、言語習得がそれほど困難ではないとする研究がある。さらに、韓国や中国にルーツがある養子については、同年齢の養子ではないグループよりも言語能力が高いとする研究もあるようだ。一方で、国際養子は第一言語の習得が遅れがちだと結論付ける研究もある。

 また、海外からの養子は、移民の背景がある人と同じように「区別」された経験を持つとする調査結果もある。ここには人種差別などの差別も含まれる。例えば、過去1~2年の間に教育機関において、自身の背景や外見によって「区別」された経験がある割合は、移民では15%、ノルウェー生まれで移民背景のある人では16%、海外からの養子では18%だった(2021年)。職場では、それぞれ、16%、22%、23%である。

 海外からの養子が移民背景のある人よりも「区別」されることが少ない場面は採用プロセスであるが、これは、養子がよりノルウェー的な名前を持つためだと分析されている。しかし、いずれにしても、ノルウェーでも人種差別が存在し、それは海外から迎えられた養子も経験しうることを示している。

 現在、移民とノルウェー生まれの移民2世が100万人ほどいることを考えると、海外から養子に迎えられた人は、数としては決して多くはない。しかし、国際養子縁組を通してノルウェー社会、教育、職場を見ると、ノルウェー人とは何か、家族とは何かを改めて考えさせられる。

(中田麗子=なかた・れいこ 信州大学教育学部研究員。専門は比較教育学)

この連載の一覧

あなたへのお薦め

 
特集