【科学の虜にするサイエンスショー】 子どもたちの心を動かす

 「バター作りまーす!」と、軽快なダンスミュージックに合わせて踊る手には、生クリームが入ったペットボトル。曲が終わると、脂肪分と水分が分離してバターが出来上がり!YouTube上でそんな「バターシェイクチャレンジ」を披露しているのは、「サイエンスエンターテイナー」として活躍する五十嵐美樹さん。NHK高校講座「化学基礎」にレギュラー出演するなど、科学の面白さを伝える活動を幅広く展開している。インタビューの1回目は、子どもたちを「科学の虜(とりこ)」にさせるサイエンスショーの舞台裏について聞いた。(全3回)

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子どもと触れ合う「ショー」が主戦場

――五十嵐さんのYouTubeチャンネル「ミキラボ・キッズ」には、電気や磁石、食べ物などを使った科学実験がたくさんアップされています。どのくらいのペースで更新しているのですか?

五十嵐さんのYouTubeチャンネル「ミキラボ・キッズ」

 だいたい2週間に1回程度です。身近な物を使い「見ている人が実践できる実験」をテーマに配信しています。撮影は1日に4本分撮ることもありますが、YouTube担当の方と一緒に事前の企画や準備にはかなりの時間をかけています。予備実験をして、「もうちょっとこうしたら、子どもたちに身近な物でできるんじゃないかな…」などと、何度も練り直してから撮影本番に臨んでいます。

 でも、私の主戦場は、実際に子どもたちと触れ合う「サイエンスショー」です。YouTube動画は、ショーに来てくれた子どもたちに「その先はどうしたらいいですか?」と聞かれて作るようになったものです。一方で、最近はYouTubeやNHK高校講座の「化学基礎」を見て、ショーに来てくれる子もいます。

 サイエンスショーは基本的には休日に行っています。夏休みなどの長期休業期間はほぼ毎日、全国各地のイベント会場を回っています。過去に100回以上は行ったでしょうか。

――新型コロナウイルス感染症が拡大して、各地でイベントが中止になったときは大変だったんじゃないですか。

 現地で実施する予定だったものがオンラインになるなど、変化はありました。画面越しのショーで伝わるのかと当初は心配でしたが、子どもたちの方が慣れるのが早く、臨機応変に楽しんでくれました。オンラインだと一人一人の表情がよく見えますし、会場に来るのが難しかった子たちともつながれます。そういう意味では、良い面もありました。

一期一会の勝負が楽しい

――でも、やはりオフラインが楽しいですか。

 そうですね。私の場合は科学とエンターテインメントを掛け合わせることに主眼を置いていて、画面上で表現するのと、ステージで表現するのとでは、全く違ってきます。例えば、私が画面内で風船を割ったとしても怖いのは私だけで、画面の向こうの子どもたちはさほど怖くありません。でも、ステージの上で大きい風船が割れると、子どもたちも「わ~!」と声を出して感情が揺さぶられます。やはりオフラインで、子どもたちと同じ場で実験するのが好きですね。

――サイエンスショーは1回何分程度なのでしょうか。

サイエンスショーでの一コマ

 ショーの場合は1回30分から1時間ぐらいで、それを1日2公演、多いときは4公演行います。ワークショップの場合は1回2時間くらいになることもあります。ですから、本当に体力勝負です。会場によって空気感も環境も全然違っていて、いろいろなタイプの子どもたちが集まります。だからショーは「なまもの」で、そうした一期一会の挑戦が楽しいですね。

――子どもたちの様子を見ながら、ショーの内容を考えたりもするのでしょうか。

 そうですね。会場の雰囲気によって子どもたちの様子も異なります。でも、せっかく来ていただいたのだから楽しんもらいたいので、毎回その状況に合わせて言うことを変えたり、ネタを変えたりすることもあります。会場によってさまざまな違いがある中で、いかに諦めずにやるかみたいなところがあって、私自身が楽しんでできるかというところも大切にしています。

科学に興味のない子にも触れるきっかけを

――サイエンスショーで、五十嵐さんが大切にしているのはどんなことですか。

 サイエンスショーには、「科学にすでに興味のある子どもたちが、学校外の時間を使って科学に触れる場」のようなイメージがあるかもしれません。でも、私は科学とエンターテインメントを掛け合わせることで、かつての私のように科学にあまり興味がない子どもたちにも届けたいんです。買い物中にふと見たら「なんかあの人、踊っているよ?」と思って見に行ったら、実は科学だった…なんてところを目指しています。

 お祭りや商業施設、ショッピングモールで開催することが多いのもそのためです。いろいろな考えを持つ子ども、多様な背景の子どもたちに届けたいと考えているので、「参加無料」にはこだわっています。ダンスを取り入れているのも、子どもたちの目を引く工夫の一つです。

――科学の面白さは、子どもたちにどんなふうに「刺さる」のでしょうか。

オンラインでインタビューに応じる五十嵐さん

 「感動する」「感情が動く」ということではないでしょうか。何かを志すときには、誰もが一度はそう感じた経験があるのではないかと思うんです。私の場合は、中学校の理科の授業でプリズムの実験をしたときに感動して、理科を勉強するようになりました。

 小学生時代は科学実験教室に行ったこともなかったですし、どちらかというと理科は「嫌いじゃないけど得意ではない」教科でした。でも、プリズムから白い光が虹色っぽい光に分かれていく様子を見せながら、理科の先生が「これはね、虹の原理なんだよ」と言った、その一言で感情が動いたんです。「えっ!あの虹が!?」みたいな。

 それまで科学は、自分とは遠いものだと思っていたのですが、「周りを見渡せば、意外と科学に関わるものがあるのかな…」と思うようになりました。そこから一気にはまって、理科を勉強するようになったんです。

 その後は、「理系に進みたい」と思うようになりました。決して得意教科だったわけじゃないですが、「好きになったら楽しいかな」と漠然と思うようになりました。

 結局、エンターテインメントも同じことだと思うんです。何か感動したり、笑ったりする瞬間を届けるという意味では、理科実験に通じるものがあります。子どもたちの感情が動く経験を、科学を通してどうつくり出すかを常に意識しています。せっかく子どもたちの学校外時間をいただくのだから、私の活動ではまず「心がどうやったら動くか」ということを大切にしています。

(長尾康子)

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【プロフィール】

五十嵐美樹(いがらし・みき) 東京大学大学院修士課程修了。東京大学科学技術インタプリタ―養成プログラム修了。2000年春より東京大学大学院情報学環客員研究員。ジャパンGEMSセンター特任研究員。NHK高校講座「化学基礎」にレギュラー出演中。上智大学理工学部在学時に「ミス理系コンテスト」でグランプリを受賞。卒業後、大手総合電機メーカーに就職。仕事の傍らサイエンスショーの活動を開始。その後、独立しサイエンスエンターテイナーとして全国各地の子どもたちに、科学の一端に子どもたちが触れるきっかけをつくり続けている。

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