【科学の虜にするサイエンスショー】 日本の理科教育の課題

 「自分なりの表現で、子どもたちに科学に触れるきっかけをつくりたい」と話すサイエンスエンターテイナーの五十嵐美樹さんは、現役の研究者でもある。2020年春より東京大学大学院情報学環の客員研究員として、課外における理系的体験の教育効果を検証中だ。自身の活動が、科学への興味や関心を高めることに寄与しているのか、「客観的な目を持っていたい」と話す。インタビュー最終回では、理科教育に対する課題意識、今後の目標などについて聞いた。(全3回)

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活動の背景にあるメッセージ

――サイエンスショーで各地を飛び回る傍ら、大学院でも研究員をなさっています。その理由は何でしょうか。

サイエンスショーで子どもたちを魅了する五十嵐さん

 サイエンスショーの仕事が軌道に乗ってくる中で、これをどう評価したらいいのか、本当に意味のあることなのかが、自分の中で分からなくなってきたんです。そんな折、お仕事に関わる皆さまと壁打ちする時間をいただく中で、自分の活動を客観的に見た方がいいと思うようになりました。そして、大学院や実社会と科学技術の間をつなぐ人材の養成プログラム「科学技術インタープリター養成プログラム」に入りました。

 私は以前、米国で私と同じような活動をしている同年代の女性と出会いました。地元カリフォルニアに住む女子中高生を対象に、実験教室を開いたり、理系の進路相談を学校と一緒に実施したりしていて、私も本人を直接訪ねて一緒に活動しました。彼女と私の活動は一見同じように見えましたが、文化的な背景やメッセージの違いに衝撃を受けました。

 彼女の活動からは「理系に進む女性が少ないから支援する」というマイノリティー支援のスタンスが節々に読み取れました。「I♡ STEM」のロゴが入ったTシャツをみんなで着て実験をしたり、一緒にランチを食べながら励まし合ったり、大学の様子を伝えていったりするんです。

 文化的な背景の違いがあるので、日本で同じことが受け入れられるとは限りませんが、自分の活動の意義を見直すきっかけになったのは確かです。

 そして、今の私自身は、日本の子どもの「理科離れ」に課題意識があります。そこにどう貢献するかを考えた結果として、今の活動や研究に行き着いた側面があります。

 多様な子どもたちにきっかけを広く提供する中で、結果的にかつての私のように科学に関心のない子どもたちにも科学の面白さに触れるきっかけをつくっていけたらいいなと思っています。

「点数は高い」のに「楽しくない」

――今の日本の科学教育、理科教育について、課題に感じていることはありますか。

 今、大学で研究しているテーマと重なるのですが、日本の子どもたちは国際的に見て、小学生も中学生も算数・数学や理科の点数は高いレベルにあります。でも、学年が進むごとに理科が「楽しい」とか「役に立つ」と思う割合が、どんどん減っていくんです。

 例えば、19年の国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の結果を見ると、小学校では理科の「勉強は楽しい」と答えた子どもの割合が国際平均を上回っています。でも、中学校になると、平均得点が上位3位に入っているのに「勉強が楽しい」と思う生徒は、国際平均を下回っています。つまり、学力はあるのに楽しいと思っていない。そんな状況が日本にはあるのです。

 私自身は、学校外の時間でこの状況をどう改善していくかを考えるために、活動や研究を続けています。

――理科の点数が高いのに勉強は楽しくない。この状況はなぜ生まれるのでしょうか。

 私見ですが、一つには受験の影響があると思います。私自身も当初は、受験に役立たないとわざわざ時間をつくってサイエンスショーを見に来ていただけないのではないかと考えていました。

 でも、科学の面白さは、知識や原理を学ぶことだけではなく、自ら仮説を立てて実験してみて「結果通りにいかなかったね」とか、逆に「仮説通りになったね」とか、そういうことを考えるプロセスにもあるのではないかと私自身は考えています。そういう経験から、子どもたちの感情が動くようなきっかけの提供というところに、解決の糸口を見いだしていきたいと思っています。

理科的体験の提供を続けるために

――現在、具体的にどのような研究を進めているのですか。

 学校外の時間を使ったサイエンスショーや実験ワークショップで、教育効果を検討する研究を行っています。ただ、教育効果の測定は実際には簡単ではなく、何を評価軸にするか、見えないコミュニケーションをどうデータにして解析するかなど、乗り越えなくてはいけない壁がたくさんあります。ただ私にはサイエンスショーという場があるので、そこで子どもたちに協力してもらいながら、コンテンツによる科学へのイメージの変化を研究中です。

 理科実験教室に本当に意味があるのか、私は自分自身の活動を含めて懐疑的に見ているところがあります。「自分がやっていることは、本当に目的に沿っているのか」と、常に自問しています。

 最終的に「私がサイエンスショーを開催しても、データ的には何も変わらない」という結論に至る可能性だってあります。その場合は、ショーをどう改善する必要があるのか、ショーの在り方はどうすべきなのかなどを定量的に分析していく必要があると考えています。

――これからの目標について聞かせてください。

「科学をエンターテインメントする文化をつくっていきたい」と話す

 2つあります。繰り返しになりますが、まず自分の活動を批判的に見て、研究としても評価して改善していくことを目標の1つにしています。もう1つは、そうして評価や改善をしながらサイエンスショーを続けていくことです。

 草の根の運動ではありませんが、少しずつこのような活動をつくっていけたらいいなと思っています。地道に続けていくことで、徐々に「こういう活動もあるんだ」と受け入れられていくものだと思うので、ほそぼそとでもいいから、一人でも多くの子どもたちにリーチできるようにしていきたいですね。

(長尾康子)

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【プロフィール】

五十嵐美樹(いがらし・みき) 東京大学大学院修士課程修了。東京大学科学技術インタプリタ―養成プログラム修了。2000年春より東京大学大学院情報学環客員研究員。ジャパンGEMSセンター特任研究員。NHK高校講座「化学基礎」にレギュラー出演中。上智大学理工学部在学時に「ミス理系コンテスト」でグランプリを受賞。卒業後、大手総合電機メーカーに就職。仕事の傍らサイエンスショーの活動を開始。その後、独立しサイエンスエンターテイナーとして全国各地の子どもたちに、科学の一端に子どもたちが触れるきっかけをつくり続けている。

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