【北欧の教育最前線】全国学力テストを廃止し新テストに デンマーク

 デンマークでは従来の「全国学力テスト」が廃止され、2026年度から新たに「全国技能テスト」が導入される。何が変わるのか。その背景は何か。

科目を減らし年度初めに実施
従来のテストと新テストの科目と学年

 これまでの全国学力テストでは、デンマーク語(国語)、数学、英語、地理、生物と物理・化学、そして第2言語としてのデンマーク語の7科目の試験が年度末に行われていた。テストは全てオンラインで、生徒の解答に応じて問題の難易度が変わるアダプティブテストで、自動的に採点される。

 新たな「全国技能テスト」では、試験科目が大幅に減り、デンマーク語と数学のみになる。一方、対象となる学年は増える。デンマーク語は3年生、数学は2、4、7年生も新たに受験することになる。

 科目が絞られた背景には、この2科目の能力が他の学習に不可欠だという認識がある。実際、中退する生徒の多くはこれらの能力で課題を抱えている。

 実施時期は年度末ではなく年度初めに変わる。これにより、教員は生徒の学力を把握した上で授業計画を立てられるようになる。また、テスト対策の授業を是正できると期待されている。

 また、引き続きオンラインのテストではあるが、アダプティブテストではなくなる。同じ学年の全生徒が同じ問題を解く“古めかしい”テストへと変わる予定だ。コペンハーゲン大学のクライナー名誉教授によると、「理論上、各生徒に応じて問題が選ばれるアダプティブテストは統計上最も正確なものである。しかし、教員が見たいのはどの問題をどの生徒ができ、できなかったかというシンプルな情報であり、一つのクラスの中で、生徒に応じてさまざまな問題が示されるのはむしろ不便だ」という。

 なお、移行措置として26年度までは「全国移行テスト」が実施される。従来の問題を基本としたものだが、同じ学年の生徒全員が同じ問題を解く。デンマーク語と数学のみ受験義務がある。それ以外の科目の受験は各学校に裁量があり、指導に生かすこともできる。

全国学力テストは誰のため?

 全国学力テスト廃止と新テスト導入の背景には、研究者や教員による批判があった。19年には、デンマーク教育大学の教授らが「現行の全国学力テストは、それぞれの生徒の学力を正確に測れていない」という研究結果を発表した。

2012年ごろの学校のPCルームの様子。10年たった今ではオンラインテストや1人1台デバイスが普及している(筆者撮影)

 デンマークは、00年の国際学力調査(OECD-PISA)の成績が平均程度であったことに大きなショックを受けた。その後、OECDからの勧告を受け、10年に全国学力テストを導入したという経緯が知られている。

 しかし、実は、PISA調査後にOECDが出した推奨策に、全国学力テストの導入は記載されていなかったという。PISA調査のデンマーク国内の担当者であるエーゲルンド氏は「OECDは、テストを義務付けることをグッドプラクティスとして紹介しているが、その解決策として標準化されたテストを提案しているわけではない。教員が自分で作成したテストを自分の授業で行うことが最も効果的と示している」と述べ、政府が当時、全国学力テストを導入したことに疑義を呈している。

 また、子ども・教育相が全国学力テストの再開を発表したのは、コロナによる学校閉鎖を経て、学校が再開した直後であった。これについても、多くの教員たちから疑問の声が上がった。

 政府は、学習損失(learning loss)とGDPの減少に相関関係があるというOECDの見解を根拠として、コロナ休校による学習損失を把握するために全国学力テストを行うことの正当性を主張した。

 一方、ある教員は、「全国学力テストより、学校再開後は、生徒のウェルビーイングやコミュニティーの再構築に注力する必要がある。全国学力テストは、生徒たちを緊張させ、不確実性を生み、ウェルビーイングを目指す教育活動の妨げとなる」と指摘している。

 ある研究者は、政府が全国学力テストを再開した背景には、公立学校を管理する目的があるとみている。そして「グローバルな教育政策において、教育は、その国の将来の競争力や生存を左右するものと見なされ、(PISAの結果とその国のGDPの相関についてはさまざまな研究で否定されているにもかかわらず)各国は遅れをとることへの恐怖に駆られている。そして、競争力を生み出す高い学力を得ようとするために、政府は学校を統制し、管理しようとするのである」と述べる。

「教員は望まない、研究者も望まない、テスト開発者もうまくつくれない、しかし、政治家は望んでいる。全国学力テストはつらい人生を送ってきた」(専門誌『Folkeskolen』の記事より)

 今回の新テストへの移行は、学校の実践への寄与や現場の実態に沿った内容へと修正されるように見える。いずれにしても、全国学力テストの目的とその在り方に関する今後の議論は、日本の全国学力・学習状況調査の在り方にも一石を投じるものだろう。

(佐藤裕紀=さとう・ひろき 新潟医療福祉大学健康科学部講師。専門は比較教育学、生涯学習論)

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