身近な取り組みで防災教育 ポジティブな雰囲気で活動を

近藤誠司関西大学准教授

 

「ぼうさいCREDO(約束)」

上:ポジティブな約束の言葉を示す子どもたち 下:児童が災害について連想して描いた絵
上:ポジティブな約束の言葉を示す子どもたち
下:児童が災害について連想して描いた絵

東日本大震災から早5年。私たちは、あの痛ましい災害の教訓をきちんとくみ取ることができているだろうか。

…と、このように〝生真面目〟に話を立ち上げると、内心「またか」と舌を打ちたくなる人が増えているのではないか。防災・減災は、確かに大事だ。そんなことは、言われなくとも分かっている。そんなことよりも、多忙な日常の中でどのように取り組めばよいのか、手っ取り早く正解が知りたい。多くの人の関心は、実はそこにある。

そこで先回りして結論を述べれば、残念ながら特効薬はない。しかし、参照すべき処方箋はある。ポイントを2つ示しておこう。「ポジティブ・スパイラル」と「ローカルメディアの活用」である。

具体的なケースを見ながら論じたい。場所は、神戸市の公立小学校。ここで行われている、ささやかな、しかしユニークな実践例をもとに、ポイントを解説していこう。

まず、今から2年ほど前に、5年生児童に「防災・災害と聞いて連想すること」を自由に書いてもらった。災害の名前を列挙した児童は、全体の過半数を占めた。中には「ひとがしぬこと」「ぜんめつする」といった言葉もあった。イラストは、家が壊れ、人が逃げまどっているシーンばかりだった。災害の怖さを、すでに児童は知っている。しかし、自分たちに何ができるのか、それを知らずにいる。「ボランティア」「助け合い」「きずな」といったポジティブな言葉は、このときの調査では1つも見当たらなかった。

実は、ネガティブな言葉は、大人から伝染しているふしがある。地域で聞き取り調査を実施したところ、「南海トラフ巨大地震が起きたら、もう無理」「うちは寝たきりの親を抱えているから津波避難なんてできない」といった後ろ向きの言葉のオンパレード。ネガティブな気持ちが及び腰な態度に拍車をかける「ネガティブ・スパイラル」が起きていた。

これでは、災害に立ち向かう前に、もう負けてしまっている。

ところで、ここで注記しておくと、災害のネガティブな側面を直視するのは、もちろん大事だ。ただし、そのアプローチばかりでは、やがて閉塞してしまう。この点を今回、あえて強調しておきたい。ポジティブな芽をみんなで育てるとき、それが力になる。だから反転して、この小学校では前向きな言葉を集めた。

写真は、5年生が「ぼうさいCREDO」を掲げているシーンだ。「CREDO」(クレド)とは、ラテン語で「約束」という意味。災害が起きたとき、自分ができそうなことを約束する。「妹のめんどうをみます」「泣いた子をおちつかせる!」等々。そしてこれを、学校で、家庭で、地域で〝見せ合いっこ〟する。そうすることで、「ポジティブ・スパイラル」を巻き起こそうという取り組みである。

ここで、ようやく2つ目のポイントが登場する。「ローカルメディアの活用」である。全校児童でCREDOを共有するために、お昼休みに校内放送で一つひとつ読み上げた。家庭とCREDOを共有するために、体育館に保護者を招いて報告会をした。そしてさらに、月めくりのカレンダーに製本して、地域に配布した。誰もが手にする、目にする、耳にする。身近な媒体を活用すれば、防災・減災のポジティブな雰囲気を徐々に醸成していくことができる。

「生きる力を育む」とは、こうした生き生きとした言葉や実践を育てることに他ならない。災害は、明日来るかもしれないが、しかしすぐに来るとも限らない。であるならば、息の長い取り組みにも、防災教育の照準を合わせてみる必要があるだろう。

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