【連載】明日の教員

 紙面に掲載した連載の初回分を紹介します。
早稲田大学大学院教職研究科教授 油布佐和子

今回から、早稲田大学大学院教職研究科の油布佐和子教授による新連載「明日の教員」がスタートします。いうまでもなく現在は、多忙化、保護者対応、児童生徒の学力向上、資質能力の向上など教職をめぐる課題が極めて多く、教師は激しく時代の波にもまれているといってよいでしょう。大都市圏を中心に教員の大量採用時代に入り、多くの若者が理想と希望を胸に学校教育現場に足を踏み入れるようになってきています。しかし教育界の混迷が、彼らの心身に影を落としていることは否めません。また若手だけではなく、多くの教員が様々な迷いを抱えながら、何とか教育実践に取り組んでいるという実態があります。油布教授には『教師の現在・教職の未来』(教育出版)、『転換期の教師』(日本放送出版協会)などの著書があり、教員の社会的役割など教職研究の第一人者です。連載では教員の現状の課題を浮き彫りにしながら、今後の教員のあり方などを展望していきます。(編集部)


教師の仕事 多様な活動をマネッジする能力

 教育は過去と未来をつなぐ営みです。過去の人々が作り上げた財産を使い尽くすか、なにかを付加して次世代に手渡すかは、教師にかかっています。ですから、教師が夢をもつことは重要です。

 しかし、崇高な理念をもっていても、それが日々の活動に生かされることがなければ、絵に描いた餅にすぎません。そして問題はここにあります。つまり、教師の日々の活動がほとんど理解されていないために、理念と現実のギャップに苦しむ教師が現れたり、筋違いな改革案が出されたりするのです。

 多くの人は、自分の学校経験から、教師の仕事を知っていると思い込んでいます。また、教師になろうとする人は、教育実習で、それがどのようなものかわかった気になっています。しかし、おそらくどちらの認識も的確ではないでしょう。

 エスノグラフィーという方法で、教師の活動を研究したところ、教師の仕事は立ち仕事で、同僚とのやり取りが頻繁に行われ、そして複数の活動を「同時並行的・複線的」に行っていることが明らかになりました。この後半の部分が、教師の仕事に最も特徴的な点です。

企画と製造、営業、広報、経理といった活動を、全部1人で担当する職業はあまりないでしょうが、教師の仕事は、このほとんど全ての側面を含んでいます。学級経営のために1年間の目標や活動を考案し、教材を作り、学級通信を発行し、保護者と面談し、また自己を磨くための研修をします。運動会・文化祭の前には、特別な活動が加わりますし、社会見学や社会体験活動では、外部と交渉もしなくてはなりません。

 さらにこれらの活動を、一つずつ順番にやればいいというわけではありません。洗濯機を回しながら、掃除機をかけ、頭の中では、冷蔵庫の中身と相談しながら今日の夕食のための献立を考えている、そんなときに、電話が鳴って、宅配便が来たというような家事労働をイメージしてもらうと、「複線的・同時並行的」のイメージがわくと思います。教師の毎日はまさにこのような喧噪の中にあります。

 加えて重要なことがあります。ジェンダーの観点からすると適切な例とはいえませんが、家事労働を担ってきたお母さんのことを考えてみましょう。お母さんは、目の前にいない家族のことを、いつも気にかけています。教師もまったく同じです。

 対応する相手のことを常に気にかけ、多様な領域の多彩な活動を、その相手によかれと思う方法で自ら組織しつつ活動する。このことが教師の活動の特徴なのです。

 〈仕事は授業だけと思っている人〉〈段取りが悪い人〉〈気が利かない=見通しがもてない〉人が教職に就くと苦労するでしょう。また、教師の多忙を「時間」や「領域」で捉えようとしても、なかなかその実態には届きません。「気にかかる」子どものために、ずっと活動している「心」までは捉えきれないからです。

 見えない活動も含めて、多様な活動をマネッジする高度な能力が教師には求められています。

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