【連載】改めて道徳教育を考える 指導の基礎・基本を踏まえて

 紙面に掲載した連載の初回分を紹介します。
宇都宮大学教授 渡邊 弘

「道徳」を「教える」ということ

 子どもたちの規範意識や人間関係力の低下などを背景に、学校における道徳教育の重要性が叫ばれる今日、実際の学校現場では、どのように道徳教育を考え、実践していけばよいのかが今ひとつ見えてこないというのが正直なところではないだろうか。また教師自身も、重要であることは理解しながらも、実際には教科などの指導に比較すると関心が薄いという点も否めない。

 そこでこの連載では、改めて道徳教育の基本となる考え方や授業のあり方について、具体的な実践事例を紹介しながら考えてみたい。今回は、そもそも「道徳」を「教える」とはどのようなことなのかについて検討してみよう。

 「道徳」とは、文字通り、行い方、振る舞い方を意味する「道」と人間らしい品性のある行動をすることを意味する「徳」から成り立っている。すなわち「道徳」とは、善悪に関わる知識(原則的知識)と実践的行為(習慣化)の両方を兼ね備えているということである。

 このことから、さらに「道徳教育」の意味もおのずと明らかになるはずである。つまり、道徳教育とは、原則的知識をどう理解させていくかということと、生活における実践の中でどう習慣化させていくかということになるだろう。

 したがって、当然単に社会的に善いといわれる原則的知識を理解しているだけでは十分とはいえず、行動が伴ってはじめて道徳的ということになる。

 道徳を教えるという場合、まず第1の原則的知識(通常の道徳教育の用語では「道徳的価値」)をどう理解させるかということであるが、この場合、私たちが十分自覚しておかなければならないことがある。

 それは、道徳的価値とは、「信頼」「節制」「勇気」など思想史上人々の間で言われてきた共通の性質であると同時に、もともと実在としてすでに決定されて「ある」のではなく、人間がどこまでも問いつづけ追究していく名称であるということである。

 教師は、歴史上人類が重要であると考えてきた道徳的価値の大切さを伝え考えさせていくことはできるが、例えば、本当の「正義」や「勇気」を教え込んだりすることは当然できないはずである。さらにいえば、道徳的価値とは、子どもと教師が共に考えつづけていく名称であるともいえる。

 第2は実際の生活実践の中でどう習慣化させていくかということである。学校生活での諸活動の中で道徳的習慣化が図られるかもしれないが、児童生徒個々人の生活全般にわたって道徳的行為を保証することはできないということも、教師は当然認識しておかなければならない。

 したがって、「道徳」を「教える」ということは、教師が既存の善いといわれている名称としての道徳的価値を提示し、それらを児童生徒が自らの様々な生活経験に照らしながら、主体的な善悪の認識と問い直しを循環的に繰り返しながらよく生きようとする道徳性の働きを活発化させていくための援助であると考える。

 プロフィール

 渡邊弘(わたなべ・ひろし) 教育学博士。道徳教育関係の著書に『学校道徳教育入門』(東洋館出版社)、『これだけは知っておきたい道徳授業の基礎・基本』(川島書店)など。