【連載】ナナメの関係から不登校支援

 紙面に掲載した連載の初回分を紹介します。
東京家学・関西家学代表、教育コンサルタント 平栗 将裕

保健室登校(別室登校)の注意点

 保健室登校を始めたミユキ(中2女子)は、1時間目から4時間目まで黙々と本を読んで過ごした。保健室の先生は保健の授業や事務仕事に忙しく、けがや体調不良で生徒が訪れれば、慌ただしく対応していた。

 「ごめん、ちょっと待っててね」と言われるたびに、なんだかミユキはここにいるのが申し訳なく思うようになって、保健室の中に自分の存在を隠せる場所と時間潰しの方法を発見したのだった。ベッドの配置で偶然できるカーテンに仕切られた半畳ほどのスペースで、保健室の棚に並ぶ本を順番に読破していく作戦である。

 しかし、この作戦は2週間ほどで終わりを告げる。保健室まで迎えに来た保護者がこの光景を見て事情を理解したのである。「こんなに辛いことしなくていいよ……」「でもママ、家にいたら何にもしないで過ごしちゃうけど、ここに来たら本が読めるよ」

 学校という場所に物理的にいることが登校ではない。「学校に来てよかった」「学校は楽しいところだ」と思ってもらえることが始まりであり、生徒に学校という「社会」を返してあげることが学校復帰であると思う。

 「社会」は人間関係だ。わたしたちが掲げている「ナナメの関係からの不登校支援」とは一対一の人間関係という社会の最小単位の活動から始める支援であり、そこから、学校復帰を目指していくものである。

 不登校だった生徒が通い始めてくる場合、保健室登校や別室登校は学校の規模や設備、教職員の配置などによって様々な状況が考えられるが、教室への復帰までのプロセスを保護者や第三者機関と連携して、どのように設計していくかが最大のポイントである。

 まずは「計画」である。本人、保護者、そして、学校の準備が整っていなければ、登校を続けていくことは難しい。たとえば保護者から「今日から学校に行くって言うんですけど、お願いしてもいいですか?」というような急な要請があっても、他の生徒対応にも影響が出る可能性がある。

 登校を開始するならば、「いつごろから登校を開始してみるか」「保健室登校(別室登校)の期間はどれくらいにするか」など、慣らし登校の時期と期間を、生徒本人、保護者と相談し、大枠で決めてしまった方が良い。

 しかし、一方で計画倒れは避けなくてはならない。生徒本人にも登校義務感があり、先生にも一生懸命対応してあげたいという気持ちがあるため、ぎっしりと詰まった「特別時間割」が出来上がることがあるが、生徒も、保護者も、先生も、無理なく互いに納得できるように設計する方が良い。

 担任の先生が本人と直接話すことが困難であれば、保護者か生徒と直接的なつながりを持っている第三者機関に協力を求め、生徒の状態と意思を聞いてもらうのが良いだろう。

 登校時間が長い方が、復帰に向けたメリットが多いということはない。たとえ短い時間でも、保健室の先生、担任の先生、あるいはスクールカウンセラーの先生との人間的なつながりが感じられることが最も重要である。それは仲良くしていた友達でも構わない。「ここに来たら待っていてくれる人がいる」「この人のために頑張ってみようかな」と思ってもらえることこそ、「社会」を返してあげる第一歩ではないだろうか。

平栗将裕(ひらぐり・まさひろ)代表=ホームスクーリング「メンタルフレンド」に着想を得て、大学在学中に、有志らと不登校生への訪問支援サービス「東京家学」を立ち上げる。毎月3回程度「親のための土曜講座」を東京都で開催中。