【連載】自然観察を取り入れた授業作り

 紙面に掲載した連載の初回分を紹介します。
京都光華女子大学教授 菅井啓之 ・ 京都ノートルダム女子大学卒業生 後藤紗貴

自然観察はものの見方を育む

 自然を観察する活動で重要なのは、何かの気付きや発見をして何らかの結論を得ることだけではなく、「自然の見方が変わり深まっていくこと」である。自然観察を指導する側にこの意識がないと、目先の観察の成果に終わってしまいがちである。

 特に年度初めには、これから始まる様々な学習活動の中での自然観察の方向付けをしておくことが大切である。生活科における自然観察、理科における自然観察、総合的な学習における自然観察など、自然観察は1年を通じて様々な場面で継続的に行われる基本的な学習活動である。そのために4月初めに観察の仕方をしっかりと押さえておくことが必要だ。

 ■観察力は視点の置きどころで深まる

 漠然と見ている段階から、ある視点を決めて見るトレーニングを積み上げると、観察力は一気に増す。自然を観察して気付きを深めていくプロセスを、具体例を通して見てみよう。

 写真は、春になって葉ボタンが花茎を伸ばし始めたもの。冬の間はキャベツのような葉が集まっていて、花が咲くようには見えなかった。その真ん中から茎が伸び出して花を付け始めた。この変化をどのように観察するか。

 ▽気付きの段階(質の深まり)

 1、葉ボタンに花が咲き始めた(現象だけに目が向く)。

 2、キャベツのような葉の真ん中から茎が伸びてくるんだ。

 3、花の集まりの根元にも細長い葉のようなものが付いている。

 4、花はどの辺りから咲き始めるのだろう?

 5、どんな実がなり、どんな種ができるのかな?

 6、キャベツにも花が咲くのかな?

 このような気付きの段階の深まりが自然観察の深さにつながる。目の前の現象から、少し先の変化、つまり実や種に思いが向き、さらにはキャベツの花のような異なった種類にまで類推することができてくると、見方が広がる。自然観察は、目の前の事物現象を見るだけに留まらず、そこを拠点にしてさらに広く深く洞察や想像を展開させていくところに面白みがある。

 一方で、視点を定めるとよく見えてくる部分がある半面、見えなくなる部分があることにも注意が必要である。視点を定めることで見方を一点に集中させるわけなので、集中した点はよく見えるが、それ以外は目が向かなくなる点を配慮しておくことである。

 観察で大切なのは、部分に焦点を当てながらも常に全体を見ようとすることである。部分を全体の位置づけの中で捉えることが重要なのである。アリを1匹だけ見ていると、こんなにも小さなものにどんな価値があるのかと思うが、森全体の中のアリの働きを考えるならば、アリは森の成立にとってなくてはならない掃除屋さんの役目を見事に果たしているのである。部分は全体の中でこそ光輝く存在となる。

 さらに大切なのは、児童の発見の交流や分かち合いによって見方の幅を広げることである。自分が気付かなかった視点で見ている人がいること、そこを見るかと驚かされること。このように互いに学び合い、視野を広めることも自然観察の重要なコツである。見方や感じ方の多様性に学ぶことは、自然界の多様性に学ぶことと同様に、この世界が多様性によって支えられていることに気付くことにつながる。

【新連載執筆者】(上)菅井啓之(すがい・ひろゆき)京都光華女子大学教授=身近な自然を活用して自然教育を深める研究をしている。(下)後藤紗貴(ごとう・さき)京都ノートルダム女子大学卒業生=自然界の小さなものに愛らしさを感じ写真に記録することが趣味。