【連載】生きる力を育む道徳教育をどう創るか

 紙面に掲載した連載の初回分を紹介します。
岐阜大学大学院教授 柳沼良太

認知・情緒・行動をバランス良く

 教育は「人格の完成」をめざし、具体的には「生きる力」の育成を期して行われる。その根底を支える道徳教育の充実が求められ、「道徳の時間」を教科化するための議論が現在、中央教育審議会で行われている。

 ただ残念ながら、肝心の道徳授業は「形骸化している」「実効性が上がらない」と言われ続けて久しい。なぜ、道徳授業はこれほど改善・改革が進まないのだろうか。そのわけは、そもそも道徳授業が実生活に役立つ道徳的実践力を育もうとしないからである。

 これまでの道徳授業は、「生きる力」の中でも抽象的な「豊かな人間性」を醸成することに重点をおき、具体的な「問題解決能力」を育成しようとしなかった。そのため、道徳授業は、ただ道徳的価値の自覚を深め、道徳的な心情や態度など内面的資質を耕せばよいとされ、実際の道徳的行為や習慣形成には反映しなかった。

 例えば、「友情」や「思いやり」について道徳授業で学んだ後でも、すぐにけんかやいじめが起きてしまい、行動の変容や実生活の改善にはあまり寄与しなかったのである。

 しかし、2011年に滋賀県大津市で男子生徒のいじめ自殺事件が起こり、当該の中学校がいじめ問題に対応する道徳教育推進校であったことが報じられると、社会的問題となった。

 そこで、教育再生実行会議では、第一次提言において、「いじめ問題等に対応」するために、道徳教育の充実や道徳授業の改善を強く求めることになった。また今日的な課題として、規範意識や自尊感情の低下、人間関係の希薄化、情報モラルや環境保全などの問題にも現実的に対応する道徳授業が要望されるようになった。

 それでは、どうすれば本当の生きる力を育む道徳授業を創ることができるだろうか。これまでの道徳授業では、情緒的側面を強調するあまり、認知的側面や行動的側面を軽視する傾向があった。それゆえ、子どもは物語の主人公の気持ちは共感的に理解できるが、多角的、創造的、批判的に問題を考え判断したり、自分の生き方に反映させながら道徳的行動や習慣への結び付けなどができなかったのである。そんな中、改革のポイントは、道徳授業における認知的側面、情緒的側面、行動的側面をバランスよく拡充していくことにある。

 ここでいう認知的側面とは、道徳の内容について知識や情報を習得した上で、道徳的問題を自ら考え、主体的に判断し解決する能力を育成することである。情緒的側面とは他者の心情を共感的に理解したり、先人の生き方に感動したりして、道徳的に生きる意欲や態度を育むことである。そして、行動的側面とは、道徳的な体験をしたりスキルを習得したりすることで道徳的に行動する力を育成することである。

 今後の連載では、こうした総合的に「生きる力」を育成する道徳教育をどう創るかについて具体的な手立てや展開例を紹介する。そして、その中では、現行の学習指導要領に基づく画一的な指導法だけでなく、「道徳の教科化」を見据えた上で、多様で実効性のある指導法を検討することにしたい。

【新連載筆者】柳沼良太(やぎぬま・りょうた)准教授(文学博士)=著書に『プラグマティズムと教育』(八千代出版)、『問題解決型の道徳授業』(明治図書)、『生きる力を育む道徳教育』(慶應義塾大学出版会)など。