【連載】ESDで学校がどう変わるか

 紙面に掲載した連載の初回分を紹介します。
拓殖大学名誉教授 前日本ユネスコ国内委員会教育小委員長 草原克豪

ESDとは何か

○時代のキーワードは「持続可能性」  21世紀という時代は、持続可能な社会をつくることを目指して、世界中の人々や国々が共に協力しなければならない時代だ。そのため、学校をはじめ、あらゆる場で「持続可能な社会の担い手」を育成するための教育を展開する必要がある。そのような教育は、ESD(Education for Sustainable Development)、すなわち「持続可能な開発のための教育」と呼ばれている。

 日本の提唱で設けられた「国連ESDの10年(2005~14)」は今年で終了する。しかし、ESDの本格的な実施に向けた取り組みはむしろこれからが本番だ。

 わが国においては、11年から順次施行された新しい学習指導要領に、「持続可能な社会の構築」という観点が取り入れられた。こうした視点に立ってさまざまな授業科目の内容を相互に関連付け、知・徳・体の連携を強め、生徒一人ひとりの「生きる力」を育てる教育を充実させていくことが、これからますます重要になってくる。

   そのための具体的な取り組みは、まだ緒についたばかりだ。学校では、まだESDが十分に理解されているとはいえない。一部の熱心な教師が取り組んでいても、その教師が異動したりするとせっかくの活動が停滞してしまうこともある。ESDと環境教育の違いも必ずしも明確に認識されているとはいえない。ESDよりも受験勉強のほうが大事ではないかとか、ESDと「生きる力」のどっちが重要なのかと悩む人もいるかもしれない。

 そこで以下に何回かに分けて、ESDの基本的な考え方をわかりやすく解説してみたい。

○ESDで何が変わるか

 ESDは新しい教科ではない。教科でなくても、学校ではこれまでも環境問題や、国際理解、平和、人権、開発などに関する学習がさまざまな形で行われている。それらの学習とESDはどう違うのか。ESDの導入によって何がどう変わるのだろうか。

 単純化して言えば、ESDとはさまざまな学習テーマを包みこむ傘のようなものだ。その中で取り上げる学習内容は必ずしも新しいものではない。既存のさまざまな学習事項を「持続可能な社会の構築」という観点から相互にむすびつけて学習するのが、ESDである。ということは、学びのコンテンツは変わらなくても、それに対するアプローチの仕方が変わってくるということでもある。ESDの導入によって学習の仕方が変わってくるのだ。このことをもう少し丁寧に説明すると、以下のようになるだろう。

 第一に、ESDは私たちに「何のために学ぶか」という大きな学習目的を示してくれる。持続可能な社会づくりに関わりのある学習の内容な、すでにいろいろな教科の中に含まれてはいるが、それらは各教科の中で別々に扱われているため、お互いにどのようにつながり合っているのかがわかりにくい。しかし、ESDという視点に立って眺めると、それまでばらばらにしか見えなかったいろいろな事項が、実は相互に深くつながり合っていることが分かってくる。ESDは、そうした個々ばらばらの学習内容に対して、「持続可能な社会の構築」という大きな共通の目的、あるいは方向性を示してくれるのだ。

 さまざまな学習内容が、教科という枠を超えて横につながりあっていることが分かると、今なぜこの問題を勉強しなければならないかということも分かってくる。何のために学ぶかが明確になれば、どのように勉強しなければならないかも分かってくるし、それが分かれば、学習意欲も湧いてくる。学習意欲が高まれば、真の学力が身についてくる。それが「生きる力」となっていくはずである。

 第二に、ESDでは、頭で理解するだけでなく、五感を働かせた体験学習が重視される。具体的な体験や体感を通じて学ぶことで、今学んでいることが現実社会においてどういう意味をもつのかという「つながり」も実感できる。だから学習の中では、児童生徒たちに自分の頭を使い、手足を動かしながら、深く探究する機会を与えることが重要になってくる。学習するのは児童生徒自身であるから、彼らが自ら進んで学びたいという気持ちになることが大切なのだ。いかにしてそのように仕向けるか。それが教師にとって重要な課題である。

 第三に、ESDを実践すると、その過程を通じて学校が外部に開かれていく。学校と家庭、地域社会、企業などとの連携協力が進み、そこからさまざまな活動への取り組みが可能になってくる。それによって生徒が変わる。教員も変わる。学校も変わる。家庭も地域も変わる。それは新しい学校文化の誕生でもある。