【連載】注目の教育時事を読む

 紙面に掲載した連載の初回分を紹介します。
藤川大祐千葉大教育学部教授 藤川大祐

いじめ防止対策が新しい局面に もはや怠りは決して許されない

独自の視座で新連載始まる

 様々な新しい授業づくりに取り組むなど、教育の多様な分野にわたって新機軸を打ち出し、注目を集めている千葉大学教育学部の藤川大祐教授。教育に関する近々の時事をまとめるこの紙面で、新連載「注目の教育時事を読む―藤川大祐の視点」を執筆してもらいます。どのように教育時事を読み解いていくか、解説を交えながら、独自の視点を示していきます。

◇これまでとは違うレベルで◆

 本紙3月24日付1面は、文科省がいじめの相談や対応で、警察や児童相談所とのより一層の連携を図ることを、都道府県・指定都市教委などに通知したことを報じている。

 平成23年に、滋賀県大津市で起きたいじめによる中学生自殺の事案が注目されて以降、国会でいじめ防止対策推進法が制定され、文科省が国のいじめ防止基本方針を策定するなど、国を挙げていじめ防止対策が推進されている。今回の文科省通知も、そうした対策の一環として捉えられるべきものである。

 いじめの問題については、これまでも悲惨な事件が注目されるごとに、対策が論じられ、推進されることが繰り返されてきた。現在進められている対策も、こうした繰り返しと同様と考えられるかもしれないが、そうではない。もはや、これまでと大差ない対策しかとれずに同様の悲劇を繰り返してしまうような状況は許されない。これまでとは違うレベルの対策を進め、悲惨な事件を激減させることが求められている。

 いじめ防止対策推進法や国の基本方針は、これまでとは違うレベルの対策を進めることを求めている。その核心は、計画的、組織的な対策を進めることである。

 いじめ防止対策推進法は、各学校にいじめ防止基本方針の策定を義務づけている。国の基本方針では、学校の基本方針は公開されるべきものとし、定期的にチェックや改善がなされるべきことを示している。これまでも各学校は、いじめ防止対策に取り組んできたはずだが、今後はあらかじめ方針を立て、その方針を公開し、方針のもとに計画的な対策を進め、問題があれば方針を修正することが求められている。

 またいじめ防止対策推進法は、各学校に、いじめ防止対策のための組織を設けることを義務づけている。国の基本方針では、当該組織が、学校の基本方針に基づく対策の中核となるべきものであるとしている。今後は、この組織が中核となり、関係機関との連携を含めた組織的な対策を行うことが求められる。

◇社会総がかりで立ち向かう◆

 今後、いじめに関する事案が問題となった際には、そもそも学校がどのような基本方針を立て、どのような組織を設け、どのようにいじめ防止対策に取り組んできたかが問われることとなる。そして、対策に不十分な部分があれば、随時修正することが求められる。

 仮に、学校がこうした取り組みを怠れば、法や国の方針に反していることとなり、その結果、深刻な事件が起こってしまったら、学校は重い責任を問われることとなる。

 学校の基本方針は公開されることとなるので、児童生徒、保護者、地域住民、関係機関といった関係者にも、学校のいじめ対策をチェックすることが可能となる。学校の取り組みを教職員だけに任せてしまい、問題が起きた後に学校の対策を批判するのではまずい。関係者が学校のいじめ防止対策に積極的に参画し、協力することが求められる。

 今後は、社会総がかりでいじめ問題に立ち向かうことが必要とされるのであって、あらゆる関係者が当事者意識をもって協力すべきなのだ。警察も児童相談所も、いじめの問題についてはすでに当事者意識をもって対応していると考えられる。今回の文科省通知は、学校側だけでなく、警察や児童相談所をも後押しするものといえるであろう。

◇地域支援者・機関が学校に直接関わる◆

 千葉県市川市では、民生・児童委員等が地域支援者として、いじめに関する研修を受けた上で、数人ずつ小・中学校に派遣され、担任教師とともに「交流会」という形で授業に参加する取り組みが進められている。地域支援者の多くは、以前から地域の子どもたちのために活動をしてきた人たちであり、いじめについても問題意識をもっているが、いじめについて集中的に学ぶ機会や、学校教育に直接関わる機会はなかった。

 今回は、私と市川市教委とで開発した教材や授業プログラムを活用して授業を行ってもらった。地域支援者は、学校での児童生徒や教師の様子に直接ふれることができ、多くの人たちが継続していじめ防止対策に関わってくれることとなっている。学校側でも、地域支援者と熱心に話し合う子どもたちの姿が評価され、取り組みが広がる様子がみられる。

 警察や児童相談所と学校との連携が今後進むことが期待されるが、そもそも警察や児童相談所の担当者は、学校での児童生徒や教師の姿に直接ふれる機会が少ないはずである。市川市の取り組みにおける地域支援者のように、警察や児童相談所の関係者が学校の授業に関わる機会をもつことも必要ではないか。

 いじめ防止対策には、いじめが起きないようにする予防策と、いじめが生じた後の対応策とが含まれる。今後は、計画的、組織的に予防策を進め、対応が必要ないじめ事案が起きにくくし、対応策が求められる機会を減らしていくべきである。日頃からの警察や児童相談所の担当者が学校に関わる機会を設けることも、その一つとなるであろう。