【連載】健康的な学校づくりを目指して

 紙面に掲載した連載の初回分を紹介します。
千葉大学教育学部教授 岡田加奈子

教職員の健康 忙しいとは「心を亡くす」

 学校の先生は、あ~忙しい。校長の忙しさも、そして、副校長の忙しさも、教職員の忙しさも、皆、もれなく多忙である。そして、忙しいという字は「心」を「亡くす」と書く。

 平成24年度の教育職員の精神疾患による病気休職者数は4960人(0・54%)、つまり185人に1人の割合である。もちろんこの数字は、多忙のみが原因ではないが、原因の大きな一つには違いない。

 労働基準法では、「労働時間が6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩を与えなければならない」と定められているが…どこの世界の話? なのか。

 学校で休憩時間をきっちりととっている教員をほとんど見たことがない。昼の時間も子どもと一緒に教室で給食をとったり、職員室などで食べる時も、ひっきりなしに来る子どもたちを相手に、ゆっくりと食事もとれなかったりする。

 さらに、平均2時間といわれる残業は、朝夕部活、会議・打ち合わせ、事務・報告書作成など常習化、常識化している。家に帰っても、もちかえり業務は、授業準備、成績処理と後を絶たない。

 わが家の中学生の子どもの担任も、学校を数日欠席すると夜、電話をかけてくれる。むろん先生のご自宅からで、電話料金もまちがいなく先生の個人持ちである。

 毎日毎日、何人のお宅に電話をかけているのかと頭が下がる。欠席児童生徒や課題のある子どもの保護者への連絡も、相手がでるまで何度でもかけ続けるとなるとかなりの心労である。

 医者とか教員とか専門職と言われる人は、自分の健康など顧みずに、人様のためにかぎりなく尽くす〝自己犠牲の美学〟が暗黙の常識のようだ。

 多忙のために自分の健康を害しても、あの人は、健康管理ができていない無能な人とされることは日本ではあまりない。

 保健室にいる養護教諭は、忙しいと子どもたちが寄ってきてくれないから、どんなに忙しくても、〝いかに暇にみせるかが達人の技〟だという。

 でもこれは、見せかけだけの〝暇人〟で、多忙さは全くもって変わっていない。演技する分、俳優としての仕事が増えているかもしれない。

 ヘルス・プロモーティング・スクール(健康的な学校づくり)という考え方がWHOから発信されている。そこでは、今まで以上に「教職員の健康」が重要視されている。

 シンガポールの学校では、教職員のための休息室には音楽が流れ、マッサージチェアーが置かれていた。上海の学校では、豪華ソファーに娯楽雑誌が置かれている教職員の休憩室があった。日本で聞いたら、〝休憩室で休むぐらいなら、1分でも早く仕事を終えて帰りたい〟だそうな…。

 教師の多忙さを、もう少し非常識にしたいのだが。忙しさは〝心〟を〝亡くす〟、だけでなく、創造的できめ細やかな教育を奪うことになるから。しかし個人の努力を超えたところに課題が山積しているようだ。

 さて、今回から始まった、「学校の常識?非常識?―健康的な学校づくりを目指して―」では、学校で「常識となっている」または「常識とされている」話題を取り上げ、健康という切り口で、考えていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

【新連載執筆者】岡田加奈子(おかだ・かなこ)千葉大学教育学部養護教諭養成課程教授
=そのほか、東京学芸大学連合大学院教育学研究科博士課程健康・スポーツ学科教授、ヘルスプロモーション健康教育国際連合西太平洋北部地域(IUPHE/NPWP(Northem Part of Westem Pacific))事務長、日本養護教諭養成大学協議会会長。