【連載】志ある教師のために 悩み続ける青年教師の物語

 紙面に掲載した連載の初回分を紹介します。

【連載紹介】執筆者の西野教諭は現在、教師歴6年を迎え、ミドルリーダとして活躍中。本連載では、熱い志で教職をスタートしたものの「授業も指導もうまくいかず悩み続けていた」駆け出しの頃の著者の苦しみと試行錯誤を物語風に綴った。“悩みながら成長する”ことを物語で共感してもらいつつ、若手の弛みない研鑽へのエールをおくる。


東京都小金井市立緑小学校教諭 西野 宏明

教師になった最高の喜び最低の挫折

 いつもは、はつらつとしている小玉修が、この時だけは肩を落とし、うつむきながら階段を下りていきました。職員室の扉を開け、自分の席にドスッと力なく座りました。机に肘をつき、頭を抱え、大きなため息をつきます。「こんなはずじゃなかったのに……」。

 45分前のこと。小玉は、額から流れ落ちる汗をぬぐいながら、必死で説明していました。教科書の内容を「分からせよう。理解させよう」という善意からです。しかし、説明すればするほど、子どもたちは退屈そうに手いたずらをしたり、窓の外に目を向けたり、時計の針をチラチラ見たりするのでした。4月の第2週目、小玉が教師になり、初めて授業をした場面でした。  「あれ? おかしいな。全然、集中しないな」。最初の5~10分間は、そんな思いでした。しかし、30分が経つころには、真面目な女の子たちでさえ、「先生、授業がつまらなすぎます。どうか、これ以上はご勘弁を」と懇願するような表情でこちらを見ています。さすがの小玉も、その視線と空気を察知しました。

 「どうして? どうして? 休み時間はあんなにきらきらした瞳で俺を見ているのに、どうして、みんなそんな顔してるの? ああ、終わりまであと10分もある……」。無理やりしゃべってしゃべって、何とか45分間を乗り切りました。

 キーンコーンカーンコーン。「授業を終わります」。その瞬間、はじけるように教室から出ていく子どもたち。いつも通り、数人の子たちが近寄ってきました。「小玉先生! 遊ぼう! ねぇ、遊ぼう!」。小玉は、作り笑顔をしながら「あ、ごめん。この休み時間は職員室へ行かなきゃいけないんだ」。この胸の苦しさを子どもに気付かれたくなかったからです。顔で笑って心で泣くという状態でした。

 「俺って授業が下手なんだ」。大学で哲学、倫理学など難解な文章を読み、将来は大学の教授を目指していた小玉にとって、小学生相手の授業などはごく簡単なはずでした。また休み時間は子どもたちに囲まれ、有頂天になっていたので、「授業も楽勝!」と思い込んでいたのです。しかし、まったく通用しない自分がいました。

「甘かったか。勉強しないと……」。次の土曜日。小玉が向かったのは駅前の本屋でした。

 西野宏明(にしの・ひろあき)教諭 日々、教師としての力量アップを目指し、名教師からの学びを積むとともに、志ある若手教師との研鑽も深める。教育サークル・オリエンタルレボリューション代表、教育サークル・八王子オスカーに所属。著書に『子どもが集中する授業のワザ74』(明治図書出版)。