【連載】教育現場の課題をひもとく

 紙面に掲載した連載の初回分を紹介します。
東京家政学院大学教授 長谷 徹

道徳から「特別の教科 道徳」へ①

教科書を手に授業に臨む

 平成25年に発足した教育再生実行会議において、深刻化するいじめ問題への対応の一つとして、道徳教育の重要性が改めて認識され、その充実を図るために「新たな枠組みによって教科化」することが提言された。

 この提言を受けて「道徳教育の充実に関する懇談会」が設けられ、道徳教育の充実のための方策が検討された。さらに、中教審に「道徳教育専門部会」が設けられ「道徳に係る教育課程の改善等について」検討され、26年には、道徳の時間については「特別の教科 道徳」として制度上位置付けることなどが示された。

 この間、マスコミ等では「道徳の教科化」「道徳を教科に格上げ」といった報道等がなされたのである。私などは「教科にすることは格上げではなく、格下げではないか」とも思ったのである。「現在、第3章で道徳として学習指導要領上、一つの章を構成しているが、教科となった場合は、第2章の各教科の中の一つの節になってしまうのではないか」と考えたからである。

 結果としては、改訂された学習指導要領においても、「第3章 特別の教科 道徳」として位置付けられたことに安堵している。

 ここで、「教科」ということについて考えてみることとする。教科については、何か特別な規定があるのだろうか。文科省では「現行制度に位置付けられている教科の多くについては、(1)免許(中学・高校においては当該教科の免許)を有した専門の教師が、(2)教科書を用いて指導し、(3)数値等による評価を行うなどの点が共通している」と、「道徳教育の充実に関する懇談会」の報告の中で触れられている。

 免許と数値による評価について考えてみると、改訂された学習指導要領では、免許については「学級担任の教師が行うことを原則」とすると、中学校のそれで示している。評価に関しても現行の学習指導要領と同様に「ただし、数値などによる評価は行わないものとする」とされている。

 したがって、道徳が教科にならず「特別の教科 道徳」になったということを、教科のもつ意義から考えると、教科書という存在が大きな役割を果たしたのではないかと考えられる。現在、全国的にみて、子どもたちの手元にある道徳に関する教材としては、『私たちの道徳』だけである。学校等によっては、出版社が発行する副読本と呼ばれる教材を購入して実際の授業に活用しているというところも多いかと思われるが、全国の子どもたちが共通して、道徳の授業で活用するものとしては『私たちの道徳』だけである。

 こうした学校では、先生方が資料を探し、発掘し、子どもたちに提供しながら授業を展開しているということになる。したがって、道徳教育の要としての道徳授業を充実させていくためには、全ての子どもが年間にわたって活用できる教材が必要不可欠なのである。

 一方、学習指導要領が告示されると、道徳に関しては即実施が求められてきたこれまでの改訂期とは異なって、今回の改訂では、完全な実施は平成30年度(中学校は翌年度)となっている。ここにも教科書の存在があるように思われる。教科書出版社によると、教科書を出版するためには最低でも3年の期間が必要だという。30年度に子どもたちの手元に、ということならば、前年が採択の年であり、その前年が検定である。とすると教科書出版社は、遅くとも今年度中には教科書が完成していなければならないことになる。そこで、3年という時間が必要となってくるのである。

 ここにも、今回の改訂では、教科書を全ての子どもが教材として手にして授業に臨むことが道徳教育充実のために大切なことである、との考えが生きていると考えられる。