トランプ大統領 教育の風向きは?

「米国第一主義」を掲げるなど、政策方針が注視されるドナルド・トランプ新大統領だが、教育分野では、どういう政策を打ち出すのだろうか。米国の教育事情に詳しい教育コメンテーターの小松健司氏に探ってもらった。


米国第45代大統領にドナルド・トランプ氏が1月20日、正式に就任した。

20分近い就任演説では経済、外交、防衛、貿易など、あらゆる面で「米国第一」とするとし、「米国製品を買い、米国人労働者を雇って、米国を再び偉大な国にする」と宣言した。

ただ具体策として言及されたのは、インフラ投資、米国人雇用、米国製品購入、イスラム過激派撲滅などにすぎない。

教育に関しても、国民からの要求に応えられない不十分な教育制度を指摘しただけで、具体的な政策には触れなかった。

だが、就任式典直後には外交や経済、防衛、エネルギー、通商など6分野での政策方針を発表。特に通商政策については、伝統的に自由貿易を支持する共和党の大統領としては異色ながら、選挙公約通りに、TPPからの離脱、NAFTAの再交渉と、抜本的な転換に早速着手した。

教育政策については、歴史的に共和党は各州、地域の学区、教育委員会に権限を移譲する地方分権型、民主党は強力な教育省を中心とした中央集権的な政策をとってきた。トランプ政権においても、「市場経済」や「小さな政府」を基本とする共和党の方針に沿う方向で政策が決められそうだ。

2015年に発売された自著”Crippled America: How to Make America Great Again”では、教育はワシントンで決められるのではなく、地域社会に根差したものにすべきで、究極的には保護者に学校選択の権利を付与すべきだと主張している。

教育長官として指名された元共和党ミシガン州委員長のベッツィ・デボス氏は、教職または教育委員会の経験はないが、「スクール・チョイス(学校選択)」制の強い信奉者として知られ、ミシガン州におけるチャーター・スクールの設立やバウチャー制度導入を、熱心に後押ししてきた。

この閣僚人事を見ても、新政権の教育政策の行く末がある程度予想できよう。

トランプ大統領が学校選択制を支持するのは、競争原理が働くからである。保護者が子供を通わせたくない学校は閉鎖され、効果を出せない教師が解雇されれば、学校は改善努力を余儀なくされる。

これを実現するために教育バウチャーの導入に前向きで、200億ドルの予算をつけるとしている。学校教育に使用目的を限定したクーポン(金券)を保護者に直接支給し、チャーター・スクールや宗教系学校への進学を容易にすることで、学校間の競争を促し、学校教育全体の質を引き上げるのが狙いだ。

政治経験豊かなマイク・ペンス副大統領も、かつて、インディアナ州知事として学校運営の権限を学区に移譲する考えを支持し、バウチャー制度やチャーター・スクールの設立を強力に推進してきた。

教育バウチャーについては、その実効性を疑問視する向きもある。大統領選でトランプ候補を支持した中西部や南部地方州の過疎地域では、伝統的な公立学校以外に選択肢が存在しないのが現実だ。

チャーター・スクールに通う生徒の過半は都市部在住で、過疎地から数十キロも離れたチャーター・スクールに毎日通学するのは不可能だ。したがって、バウチャー制度が導入されても恩恵を受けるのはトランプ候補に投票しなかった都市部在住者となろう。

教育の選択肢を広げるという点では、チャーター・スクールを増設するより、公立学校においてカリキュラムを多様化し、究極的には生徒一人ひとりのニーズに合わせて個別化するほうが現実的と考える専門家もいる。

オバマ前大統領は、低所得家庭の生徒に恩恵を与える一方で、顕著な成績向上は見られないとして、教育バウチャーには反対していた。

オバマ政権下で導入された「コモンコア(各州共通教育基準)」についても、ワシントンからの押し付けに反対するトランプ新大統領は、廃止を主張している。

しかし、大統領には「コモンコア」を撤廃する権限はない。この共通教育基準を採用するかどうかは各州の判断であり、現在、40以上の州で採用されている。

また、トランプ大統領は、地方への権限移譲の方針に沿って教育省そのものについても廃止を示唆しており、少なくとも現在より予算や権限が縮小される可能性は高い。

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