(新しい潮流にチャレンジ)クロスカリキュラムをどう実践するか

「認識」と「行動」の統合を目指す
○教科横断的な視点とは何か

中教審は8月、次期学習指導要領についての『論点整理』を公表したが、その内容には今後さらに論議すべき課題が残されている。その中で特に重要な課題と思われるのが、学校の教育課程編成にかかわる次の文言である。

「各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校の教育目標を踏まえた教科横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと」

カリキュラム・マネジメントと言われる学校の教育課程編成を指す文言である。この短い文言の中に3つの事項が入っている。(1)各教科等の教育内容を相互の関係で捉えること(2)学校の教育目標を踏まえた教科横断的な視点を持つこと(3)目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列すること――である。

(3)は各学校が作成する年間指導計画であるが、その作成に当たって(1)と(2)が前提とされる。そこで何よりも明確化されなければならないのが、(1)の各教科等の教育内容を相互の関係で捉える方略である。それが明確になれば、教科横断的な視点も明らかになるが、かなり難しいことである。

次期教育課程で繰り返し重要事項とされているのは、「コンテンツ(学習内容)ベース」から「コンピテンシー(汎用能力)ベース」への転換である。従来の教育課程とは構造的な違いがある。次の文言がある。

「これまでの学習指導要領は、知識や技能の内容に沿った教科等ごとには体系化されているが、今後さらに、教育課程全体で子供にどういった力を育むのかという観点から、教科等を超えた視点を持ちつつ、それぞれの教科等を学ぶことによってどういった力が身に付き、それが教育全体の中でどのような意義を持つのかを整理し、教育課程の全体構造を明らかにしていくことが重要になってくる」

このことから、学校の教育課程編成では何よりも自校が育成する「資質・能力」を明確にして、単なる教科等の全体指導計画ではなく、学校の教育目標に即した教科等を超えた視点で指導計画全体を組み直すことが必要になるといえる。

その具体的な方略は、これからの論議を待ちたいが、そうした構想を可能にする1つの方略としてクロスカリキュラムを提示したい。

○横断的・総合的な学習とクロスカリキュラム

横断的・総合的な学習がわが国の教育活動として登場するのは96年7月の中教審第1次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」である。「一定のまとまった時間(総合的な学習の時間)を設けて横断的・総合的な指導を行う」ことが「生きる力」を形成するための「豊かな学習活動を展開するのに極めて有効」と考えられたのである。

当時、私は横断的・総合的な学習活動に興味と実践的な関心を多大に持っていた。そこで同年10月に『実践クロスカリキュラム』(〓階編著 図書文化)を刊行した。たまたま全く同じ年月に神戸大学の野上智行教授編著の『「クロスカリキュラム」理論と方法』(明治図書出版)が刊行されている。クロスカリキュラムはイギリスが発祥と言われているが、後者はその紹介が詳しい。

私の図書は、情報教育や環境教育、国際理解教育などの理論的な提案もあるが、実践主体のものである。しかも、よりどころを理論に求めず、課題を実践する中で横断的・総合的な学習の有効性を見いだしたものである。当時は「総合学習」や「総合単元学習」の実践も行われていた。

その最初の構想は、私が92年から3年間、千葉県総合教育センターで実施していた「千葉県における心の教育に関する研究」に通年講師として参加していたのが契機である。

当時、学校週5日制が進行していて、授業時数が大幅に縮減されることが予測されていた。一方、社会の変化に対応したさまざまな教育課題が台頭し、学校教育においてもその指導の必要性が言われはじめていた。例えば、国際理解教育、環境教育、人権教育、福祉教育、などである。

ただ、そのような新たな教育課題への対応は必要とされながら、学校週5日制で授業時数が縮減されるというジレンマが生じていた。それを克服するための新たな教育活動として「総合学習」や「総合単元学習」が構想されはじめていた。

○「認識」と「行動」の統合を目指す

そこで私たちが課題としたのは、例えば「環境教育」を実施する場合、単に環境についての認識を子どもたちに得させればよいのではなく、日常の生活で取り組める実践的な行動につなげられないか、ということであった。「認識」と「行動」の統合である。

その1つの例が、千葉県市川市立妙典中学校で実践した「全校クリーン作戦と空き缶回収運動」であった。次の流れを持つ学習活動である。

(1)生徒会を中心とする実施計画の作成(2)生徒会による環境問題の啓発(3)文化祭発表での市職員による講演(4)社会科「環境と資源」(2時間)(5)学級活動による実施活動の協議(6)道徳での勤労・奉仕活動の授業(7)クリーン作戦事前集会(8)全校クリーン作戦の実施(9)空き缶回収事業続

当時、全校クリーン作成のような活動は多くの学校で行われていた。ただ、この実践が大きく異なるのは、学習活動の流れに、生徒会活動、学校行事、社会科、学級活動、道徳の時間が組み合わさっていることである。

私どもが当時考えたクロスカリキュラムは、教科の特質を生かして「認識」を広げることを重視しながら、道徳や特別活動の特質を生かして「実践力」や「社会的行動力」の形成を重視するもので、そのための統合的な単元構想が必要であった。

したがって、「人権教育」では「人権尊重の認識を深める」ことと「人権尊重の行動ができる」という両面が必要、「国際理解教育」では「国際理解に関する認識を深める」ことと「国際理解に基づく行動ができる」という両面を重視したいと考えたのである。そうしたクロスカリキュラムを、95年に『学校五日制で豊かな学力を育てる先生』(〓階著 図書文化)で提示した。

ところでクロスカリキュラムの実践的な研究の試みは私どもが最初ではない。日本原子力文化振興財団が91年から教育課程研究グループを作り、「エネルギーと環境」に関して研究を実施し、94年にクロスカリキュラムについて次のように述べていた。

「わが国ではクロスカリキュラムに関する実践的な研究例は皆無に近く、イギリスでも試行の段階であり、先例を参考にしての研究を行えず、まさに開発的研究に終始した」

つまり、残念ながら研究は途上で終わったのであるが、その考え方は賛同できるものがあった。 (1)数教科・科目の指導者が互いに他教科・科目との関連を考えながら指導計画を立案する。「教科間関連カリキュラム」で、複数の教科・科目を横断したカリキュラムである。

(2)クロスカリキュラムの作成では、重複した内容(素材)を集めるが、単に横につなぐだけでなく、それらの教科・科目の共通の理念や教材観を立て、立案する。「エネルギーと環境」については「持続可能な開発」とし、教材観は「生活と関わりの深いものを扱うこと」とした。

(3)新学力観としての、問題解決の思考力、批判的思考力、自発的判断力、表現力の育成をねらうために、意思決定を重視したカリキュラムになるように努めた。

当時、すでにこのような教科横断的な発想がみられたのである。

ところで、次期教育課程の「教科横断的視点」によるカリキュラム・マネジメントは、どのような構想になるであろうか。教科等の「内容」による横断的視点のみでなく、「汎用能力」の視点を持つとは、どのような形になるか、期待して論議を見守りたい。

関連記事