(注目の教育時事を読む)第21回 体罰懲戒教員にアンケート

藤川大祐千葉大学教育学部副学部長の視点

実効性ある根絶策で前進を 根が深い容認論への対応も
◇処分だけで終わらせない◆

本紙12月10日付紙面は、「懲戒教員にアンケート」という見出しで、茨城県教委が過去に体罰事案で懲戒処分等を受けた教員に対して行ったアンケートの結果について報じている。

平成24年、大阪府の高校で部活動において体罰を受けていた生徒が自殺した事案が発生し、これを期に、体罰に関する社会的な注目が集まり、文科省においても、地方自治体においても、体罰防止に関する取り組みが進められている。

教委における取り組みについては、文科省の通知「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について」(25年3月13日)にあるように、「体罰の防止に向け、研修の実施や教員等向けの指導資料の作成など、教員等が体罰に関する正しい認識を持つよう取り組む」ことが求められている。

体罰事案が認知された場合、事実確認や被害を受けた児童生徒のケア等が行われ、体罰を与えた教員が懲戒処分等を受けることで一段落となると考えられる。しかしながら、今回の茨城県の調査は、懲戒処分等を受けた教員のその後を追っており、体罰防止策を処分等で終わらせない姿勢がうかがわれる。

体罰を行った教員が体罰を繰り返す場合もあり、処分を受けた教員のその後の状況を追うことには意味がある。もちろん、多くの教員が処分を真摯に受け止め、児童生徒との関わり方を変えているのを確認できることも重要だ。

◆アンガーマネジメント研修で怒りを制御◇

25年8月に文科省が発表した「体罰の実態把握について(第2次報告)」において、茨城県公立学校の体罰発生認知件数は122件であり、やや高水準であった。その後、この時期に改訂された「体罰防止マニュアル」の活用等を通して、体罰根絶に向けた取り組みが進められている。今回のアンケートも、こうした体罰根絶策の一環であると考えられる。

大阪の事案以前には、茨城県に限らず、体罰防止の取り組みは低調であったといわざるをえない。茨城県で見ると、23年度までは体罰で懲戒処分を受けた教員は年間10件未満で推移していたが、大阪の事案後を受けて調査がなされた24年度には106件に跳ね上がっている(茨城県教委「体罰防止マニュアル(改訂版)」による)。24年度に体罰が急増したわけではなく、23年度まではほとんどの体罰事案が認知されていなかったと考えてよいであろう。

茨城県の中学校と高校だけで見ると、3校あたり1件程度の体罰による処分事案があったことになり、体罰が常態化していたのがうかがわれる。茨城県教委の取り組みの特徴の一つが、アンガーマネジメント研修を積極的に取り入れていることである。今回のアンケートでも、体罰の原因として47・3%の回答者(複数回答)が感情的になったことを挙げており、「カッとなる」等の怒りが体罰に結びつきやすい状況がうかがわれる。

アンガーマネジメントは、まさに怒りの感情をコントールすることであり、怒りの感情から体罰に至るのを防ぐ策として有効であると考えられる。

今回のアンケートの報告書では、取り組み案の一つとして、アンガーマネジメントの力を「すべての教員が身に付ける」としているほど、茨城県教委がこれを重視していることが分かる。アンガーマネジメントとは、怒りがこみ上げてきた際の自らの身体感覚に焦点をあて、呼吸を意識するなどして自らの感情をコントロールし、衝動的な行動を抑制するものである。

◇チームで問題解決にあたる◆

茨城県教委はこれに加えて、「組織を生かした指導体制の確立」「児童生徒理解」といった取り組みも掲げており、教員がチームの一員として問題解決にあたれるようにすることや、問題行動を起こす児童生徒についての理解を進めることによって、感情的になるのを防ごうとしているのが分かる。

他方、体罰に関しては、体罰を容認する考え方が根強い点も問題と考えられる。今回のアンケートでも、21・4%の回答者が体罰の原因として「場合によっては体罰もやむを得ない」という認識があったことを挙げている。教員となった者の中には、過去に体罰が当たり前の環境で育った者が多いと考えられ、体罰を容認する感覚をもったまま教員となっている者が多いことが推察される。こうした感覚を変えるのは容易ではないはずであり、コーチングなど体罰に頼らない指導法を習得することや、尊敬できる指導者から体罰根絶への熱意ある話を聞くことなど、個々の教員が自らの信念を変え、再構築できるようにする取り組みを地道に進める必要がある。

今回のアンケートでは、体罰をしなくなった理由として、「そこに至るまでの気持ちが強くならなかったから」「生徒にあまり注意しなくなった」といった記述があることが紹介されている。

こうした記述の背景には、熱心な指導には体罰は不可欠だという信念がうかがわれ、こうした信念が根強いことが分かる。今後、こうした点への対応も含め、体罰根絶策がさらに進められることを期待したい。


注目教育時事本紙ニュース要約
体罰現場は部活動が最多

茨城県教委は、体罰事案で懲戒処分などを受けた教員を対象にしたアンケート結果を公表した。それによると、体罰発生は部活動時が最も多かった。原因は感情的になったとの理由が最多だった。県教委は調査結果をもとに、研修の充実などを図る方針だ。

調査は、平成24年度以降に体罰事案で懲戒処分などを受けた小・中・高校と特別支援学校の教員129人を対象に、今年7月に実施した。

体罰が起きた場面は部活動が最多で38.1%。これに授業中18.7%、休み時間11.2%が続く。部活動が多くなった原因は「顧問がこれこれさせたい」「なになにであるべき」などの思い入れが強く、生徒が応じられないと体罰につながる傾向があると教委は分析。

原因は「カッとなる」などの感情的になってしまったが47.3%と多かった。次いで「体罰にあたる行為ではない」「懲戒処分と認められるものと思っていた」が22.1%、「場合によっては体罰もやむを得ない」と認識したが21.4%だった。アンケートを受けた教員からは「一時の感情に左右にされず、冷静に対応できれば」「生徒の気持ちを考える余裕をもてれば」との回答が半数近くであった。

体罰発生時にストレスや悩みがあったかと尋ねると26%の33人が「影響があった」と回答。その原因の多くは多忙感だった。45.5%が「校務が忙しく、気持ちにゆとりがなかった」と答えた。多忙感や人間関係によりストレスや悩みを抱えていたと回答した者の約70%が「感情的になった」とした。

体罰の前後で児童生徒に対する考え方は変わったかについても聞いた。84%が「あった」と回答。その半数以上が「児童生徒の理解に努めるようになった」と変化の現状を挙げた。

体罰で懲戒を受けた後の研修では、事例検討会の実施率が高かった。その他では、体罰チェックシートを活用した研修や教員が受けたカウンセリングといったものがあった。

県教委は来年3月、改訂版事故事例集「信頼される学校であるために」を配布する予定