欧米の近年支援教育事情 できるかぎり普通学級で 認定基準に硬軟あっても

EU諸国や米国の取り組み姿勢

グラフは、EU(ほとんどが2010/11年)、アメリカ(2012/13年)、日本(2002と15年度)の、横軸に義務教育年齢で特別支援教育を受けている生徒の割合、そのうち普通学級に通っている生徒の割合を縦軸に示している。

義務教育年齢は3歳から21歳までの間で、国によって違いが大きい。民族特性や社会環境により特定の障害が発生する確率に差があるのも、知られている。そのうえ各国の文化、歴史、経済的な背景など、いろいろな要素によって「障害」の捉え方や対応措置が異なるので、単純な比較はできない。

だが、グラフからは、各国の障害児支援教育への一般的な取り組み姿勢は、ある程度読み取れる。

障害を広く認定し分け隔てなく扱う国

グラフの右上にある国は、「障害は広く認定するけれども、障害児も、普通学級で健常児と分け隔てなく扱う国」と考えられる。代表的なのはアメリカである。アメリカでは、75年に成立した「全障害児教育法」(EAHCA)で障害児教育が義務化された。90年には「個別障害者教育法」(IDEA)と改名され、障害児に対して健常児と同等の教育を担保するために特別支援教育を無料で提供する義務が各州に付された。

各地の教育当局と障害児の保護者は、協力して障害児のニーズに見合った「個別教育計画」を策定。各学校はこれに定められた教育内容や実施場所、年間目標や評定方法などに従う義務を負う。

知的障害や発達障害、言語障害、視聴覚障害など13のカテゴリーのどれかに判定されれば、3歳から18歳または21歳まで、特別支援教育を受ける権利が与えられる。

こうして、全生徒の13%近くが障害児と認定されているが、この割合は世界で飛び抜けて高い。各自の障害程度や状態により、特別支援学校・学級に入れるか、通常学級に在籍しながら通級指導やその他特別な支援を受けるかが判断される。実際には、障害児と認定された生徒のうち6割が、学習時間の8割以上を通常学級で過ごしている。特別支援学校・学級はあくまで例外で、障害程度にかかわらず、できるだけ通常学級で個人のニーズに合わせた教育を提供する精神がうかがえる。

障害認定は例外的で分離して対処する国

グラフの左下に位置する国々は、アメリカとは正反対に「障害児と認定するのは例外的措置だが、ひとたび障害児と認定すれば、健常者とは分離した教育環境で対処する国」であるといえる。スウェーデンとデンマークの北欧2カ国が代表的。

スウェーデンでは、85年に制定された教育法で、全ての児童生徒は障害の有無にかかわらず、一定水準の教育を受ける権利が保障されている。そもそも健常児と障害児を区別せず、個人のニーズに合わせた教育を分け隔てなく提供する理念が貫かれている。

「障害」はあくまで例外で、あえて定義していないため、統計上の障害児数は1万2千人と極めて少ない。これには、普通学校に在籍し、特別支援学級に所属する知的障害児と、視聴覚や言語など身体的障害児が通う特別支援学校在籍者が含まれている。

数少ない障害児として認定された児童生徒は、普通学校ではなく、特別な支援を供与され、公平な教育機会が保障される。障害児にどんなニーズがあり、どんな手段でそれに応え、結果をどう評価するかは、個別の行動計画で詳しく策定される。義務教育年齢は通常7歳から16歳までだが、障害児の場合は1年の延長が認められる。

認定基準は厳格だが分け隔てなく扱う国

グラフ左上には、「障害認定基準は厳格だが、認定しても、できるだけ普通学級に入れて健常児と分け隔てなく扱う国」がくる。特別支援学校・学級がほとんど存在しないイタリアとスペイン、ポルトガルの南欧3カ国が代表である。

イタリアでは、92年成立の法律で、学校の中に障害児を分離する特別支援学級の開設を禁じた。障害児も通常学級に在籍し、特別支援教員による支援を受けながら、健常児と分け隔てなく同じ教育を受ける権利が保障されている。障害児に不便な施設・機器が学校から撤去され、行動などを補助する設備・機器の設置が義務付けられている。

障害児のための特別な学校として分離された設備を持つ施設は、全国に70カ所前後しか存在せず、在籍生徒数は合計2千人足らずと極めて少ない。このため、20人前後の普通学級に障害児1、2人が存在するのは、イタリアではごく一般的だ。

各地の医療当局は保護者の要請で児童生徒を診断。診断書が保護者から学校に提出され、学校側はインクルージョンの手続きを開始する。クラス担任と特別支援教員が協力して障害児の個別教育計画を策定し、目標達成度を評定し、インクルージョンが実現される。義務教育は通常16歳までだが、障害児の場合は18歳まで延長できる。

理想型はグラフ左上隅

日本の状況はどうか。2002年と15年のデータを比較すると要支援児童生徒の比率は倍増している。そこには、学習障害等も要支援対象に加えられ、特別支援教育に携わっている関係者、保護者の努力によって、一般社会に理解が広がっている背景がある。

一方で、特別支援学校・学級に通う生徒と通常学級在籍の障害児の比率は大きく変化していない。この点は、真の意味で「インクルーシブ」教育を実現するにあたって今後の課題であろう。ある特定の基準で線を引き、その枠内に収まらない児童生徒に「特別な」支援を提供するのではなく、健常・障害という区別なく全ての児童生徒一人ひとりの能力や性格、興味関心など個別のニーズに見合った教育を供与するのが理想であろう。

グラフ上でいえば、左上隅に近づくのが究極の姿ではないか。そのために有効な手だては何か。

障害があっても、自らの可能性を十分に発揮できる環境条件が整えば、より円滑に学校生活や社会生活を送られる。ICTを核としたさまざまな支援機器がその最も有力な手段のひとつとなるのは、間違いだろう。介助ロボットなども重要な位置を占める。これらを積極的に活用するのが、わが国の状況をグラフの左上隅に押し上げる力のひとつとなる。そのためにも、より一層の技術開発や技術革新が重要だ。ものづくり日本を見直す視点は、支援教育の将来とも関連している。

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