(新しい潮流にチャレンジ)総合的学習と汎用的スキル

身に付けたい「力」とは何か
○見直したい総合的学習の有効性

総合的な学習の時間(以下、総合的学習とする)がOECDから高い評価をされているという。最近、PISAの成績がV字型に回復したが、さらに教科等で子ども主体のカリキュラムと授業の在り方への進化を目指すわが国の教育政策が関心をもたれているのである。その一環として子どもの問題解決を横断的・総合的に行う総合的学習が評価されていると考える。

創設以来10年以上過ぎて今は1領域となり、内容的に整理されているが、実施状況はどうであろうか。実のところ総合的学習の創設時期はかなりの混乱が見られた。特に「総則」に示されただけで、具体的な指導の在り方が明確に示されないままに週3時間実施となったのである。解説書もなかったための戸惑いが大きかった。例えば当時、私が参加したベネッセ教育研究所の調査では(平成11年)、「総合的学習は実施上かなり問題が多く、学校によって格差が大きくなる」が86%と高かった。特に週3時間を手余す学校が多かった。その実態は続いたのである。

その後、文科省の委嘱で実施した、かなり大がかりな教育課程実施調査であるベネッセの『義務教育に関する意識調査』(平成17年)では、総合的学習は「なくした方がよい」とする教員は「とてもそう思う+まあそう思う」であるが、小学校担任は38・3%、中学校担任は57・2%もいたのである。しかし、現行の教育課程を審議した中教審は、総合的学習を残すことで改訂を進めた。「総則」内容から「領域」へと昇格させたのである。賢明であった。

○課題探究としての総合的学習

総合的学習が最初に提案されたとき、その斬新さが際立っていた。何よりも「課題」はこれまで教師から示されるものであったが、総合的学習は「自ら課題を見出し」とあるように、「課題発見」が学習のスタートだったからである。「課題発見・設定」↓「課題追究」↓「成果発表」が学習活動の骨組みになった。いわば子どもが教科学習の枠を超えて、「やりたい学習」が可能になったのである。

課題もまた多様で、(1)現代的課題としての国際理解、情報、環境、福祉、健康や伝統文化など(2)生活課題として、地域の課題や特色、防災、地域行事、食生活、ものづくり、遊びなど(3)総合表現として創作劇やオペレッタ、多様な表現活動――などがみられた。

また、多様な学習活動が実施されるようになり、例えば、クロス・カリキュラム、企画書づくり、ネットワーキング、ゲストティーチャー、ウェビング、ポスターセッション、学習スキル、プロセス評価、ポートフォリオなどの新しい言葉が氾濫した。学習活動が多彩になり、課題追究活動が豊かに展開するようになった。

さらに学習活動の場が、教室空間から解き放たれて、地域が学習の場になった。地域の人々の仕事や生活への関心から、地域から学ぶナレッジ・マネジメントが行われるようになった。

総合的学習のもつ有効性は限りなく大きいものがあったが、小学校担任の4割、中学校担任の5割以上が総合的学習は「なくした方がよい」と考えたように、実施は難しかった。その『義務教育に関する意識調査』では、総合的学習を「もっと充実すべき」が小学校担任31・5%、中学校担任30・1%であった。「国で指導内容や指導方法を明確に示すべき」が各39・4%、50・6%であった。教員相互の受け止めはバラバラな印象が強い。認識が徹底されていなかったのである。教科重視も7~8割みられた。現行の学習指導要領では「領域」となったが、実施効果はどの程度高まっているであろうか。

○総合的学習で身に付けたい「力」

総合的学習の新設当時、私は多大な関心をもっていたが、何よりも重要と考えたのは「自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え~」とする学習活動をどう成功させるかであった。

とかく知識重視の教え込みの授業が展開されている状況で、子どもが主体的に課題を見いだして追究することは、授業観の大きな転換を必要とする。ただ追究の対象である「課題」そのものが、例えば、国際理解、情報、環境、福祉などと示されていても具体的な学習内容が示されないために、子どもの底の浅い問題意識で終始する例が多かった。総合的学習の実践上の格差はかなり大きなものがあった。

そこで私は、総合的学習と子どもが身に付けたい「力」の関係を図のように描いてみたのである(〓階著『総合的学習の学力をどう育てるか』明治図書・平成13年)。

まず、課題レベルを「学習コンセプト」と考えたが、最初はコンセプチュアル・スキルといっていた。国際理解、情報、環境、福祉、健康、地域、伝統文化などである。学習活動には「課題」が明確である必要がある。また、学習対象についてのある程度の知識を学ぶことも大切である。

次に課題探究の方法を「学習スキル」と考えた。課題発見、課題追究、成果発表、学び方などである。課題追究のための学習パターンを考えたのである。

そこで気付いたことがあった。それは、例えば「国際理解」の課題を追究しても、「環境」の課題を追究しても、その追究の方略は課題発見↓課題追究↓成果発表の活動の流れは変わらないことであった。また、1つの学校が「国際理解」「情報」「福祉」など掲げられている課題全てを取り上げることはなかった。しかし、どの課題を取り上げても、子どもには「学習スキル」としての課題追究の「力」は身に付くのである。これは大きな発見であった。つまり、「何を学ぶか」よりも、「どう学ぶか」が重視されたのである。総合的学習の大きな特質のみでなく、新たな学習の在り方を示すものであった。

さらに子どもにとって課題追究の場面で重要なことは、例えば老人ホームへの訪問依頼の電話のかけ方や、施設に出向いた時のインタビューなどの仕方であった。メモをとる、記録をまとめるなどの日常的なスキルが多く必要とされることであった。それらは「学習スキル」のレベルではなく、「テクニカル・スキル」として日常的に身に付けておきたい「力」であった。

さらに総合的学習で強調されるのは、仲間などと協働しながら取り組む学習活動である。課題追究において、個々の視点で取り組むことを大切にしながら、仲間の多様な視点を組み入れることでより多角的に問題を追究する。そこに異なった視点での新たな問題解決の視点が見え、知見が広がる。

総合的学習の取り組みの利点として、十数時間におよび課題追究が可能になっているが、多様な学習経験の積み重ねが、単元が変わるごとに既習で得た力が生きて働く場なのである。その学習経験が豊富であれば、課題追究もまた深く、豊かに展開できる。また、総合的学習を実施することで、課題探究力にいっそう磨きがかかるのである。「力」は増殖する。

この総合的学習の図式は、まさに「コンセプト・ベース」から「コンピテンシー・ベース」と言えるものではないかと考える。「学習スキル」は汎用的スキルに似ているのである。ただ当時、PISAの学力観は導入されていなかった。

そこで次期教育課程の構想で提示されている学力の3つの柱やアクティブ・ラーニングの実践的な取り組みを考えるのであるが、具体的なイメージとしては「コンピテンシー・ベース」の実践モデルはほとんど示されていない。今後の論議に期待するしかない。

しかし、総合的学習の「目標」は、「自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに、学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的、協同的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようにする」とされているように、その「資質や能力」の形成は将来、社会で生きていく上必須な「力」の形成である。

総合的学習のもつ役割を見直し、実践を深めたいと考える。

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