(注目の教育時事を読む)第22回 答申「教員の資質」「地域連携」

藤川大介千葉大学教育学部副学部長の視点

 

ダイバーシティに舵を切る?
◇社会と学校の急速な変化に対応◆

昨年12月22日付本紙電子版は、「中教審総会で3答申 馳文科相に手交」という見出しで、中教審の3つの答申について報じている。

答申は、「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方について」であり、いずれも社会の変化に対応した学校教育の在り方を抜本的に問い直したものといえる。

本稿ではこれらのうち、「教員の資質向上」と「学校と地域の協働・連携」を取り上げる。

両答申に共通して、社会と学校との急速な変化になんとか対応しようという姿勢が見られる。人口が減少に転じ、多くの地域で子どもの数が減り、地域自体も学校も、これまでのまま存続させることが困難となりつつある。学校では教員の世代交代が進み、経験の少ない教員が多数を占めるようになりつつあって、教員の力量向上が急務である。「教員の資質向上」は学校、特に教員の側から、「学校と地域の協働・連携」は地域の側から、こうした急速な変化に学校教育がいかに対応するのかを示している。

◆要求に応えるだけで精一杯に◇

教員の側から見よう。答申は、養成・採用・研修の3局面のうち、研修に多くのページを割いている。研修に関しては、「学び続ける教員」という考え方を掲げ、使命感、責任感、専門的知識、コミュニケーション能力などの「不易とされてきた資質能力」に加え、新たな課題に対応できる力量を高め、「チーム学校」の考えの下、組織的・協働的に諸課題の解決に取り組む力をつけることを掲げている。

すなわち、これまでやってきたことを全て維持したまま、新しいことにも対応しようというわけである。

採用に関しては、ミスマッチを避ける策をとることや、教員採用試験の共通問題の作成などが掲げられている。養成に関しては、別紙として「教職課程見直しのイメージ」が掲げられ、これまで大学の裁量に委ねられていた「教科又は教職に関する科目」の枠組みが撤廃され、新しい課題に対応した授業科目が多く盛り込まれる上に、学校インターンシップの導入がうたわれている。

記事では、小川正人東大名誉教授の談話として、「社会の変化の中で、単一、同質の価値観や考え方のモノカルチャーでは困難が生じてきている」とあるが、「教員の資質向上」の答申は正反対の方向を向いているように思われてならない。研修では総花的にあらゆる事柄の充実がうたわれ、採用では教員採用試験の共通問題の作成が打ち出され、養成では大学の裁量を小さくしている。

状況の急速な変化に対応するためには、多様な主体がそれぞれに創意工夫の上で取り組みを進め、そうした取り組みを交流するボトムアップ型の改革が目指されるべきではないか。

このままでは、国の要求に応えるだけで教委や学校は精一杯となり、地域の状況に応じた教員の資質向上が進まない恐れがある。

◇相変わらずのモノカルチャー志向◆

では、地域の側、すなわち「学校と地域の協働・連携」はどうか。学校や地域が多くの課題を抱える中で、学校と地域が連携し、両者の課題を解決していこうという方向が示され、コミュニティ・スクールの充実が提案されている。これは、教育再生実行会議第六次提言(昨年3月)で打ち出された「全ての学校がコミュニティ・スクール化に取り組」むという方向性を具体化したものと考えられる。

人口減少社会を迎え、学校規模の維持が困難となる中で、あらためて学校を地域の核として位置付け、地域と学校の連携を推進することは重要である。だが、答申を読んでも、全国一律に全ての学校をコミュニティ・スクール化する意義を読み取るのは難しい。答申中にもあるように、すでに地域独自の方法で学校と地域との連携に取り組んでいることが多い上に、コミュニティ・スクールに必要な人材の確保が困難である場合もある。ここでもモノカルチャー志向が見られるのであるが、本来は地域の実情に応じて多様な取り組みが奨励されるべきであろう。

これまで文科省は、基本的に全国一律の教育政策を進めようとしてきた。だが、状況の変化に対しては多様な対応がありえ、各地で自発的に創意工夫に基づく取り組みがなされ、それらの成果を互いに共有していくことが求められるはずである。すなわち、教育はダイバーシティ(多様性)に向けて舵を切るべきであり、「教員の資質向上」答申でも「社会の変化を柔軟に受け止めていく」ことの重要性に触れている部分もある。

しかし、今回の両答申の随所に見られるのは、相変わらずのモノカルチャー志向だ。果たしてこうした発想で、変化の激しいこの時代の学校教育を維持できるのであろうか。もっとダイバーシティ志向に舵を切ることはできないのであろうか。


 

注目教育時事本紙ニュース要約
3答申を当時に手交 本紙電子版

中教審第104回総会が昨年12月21日、省内で開かれ、3つの答申が北山禎介会長から馳浩文科相に手交された。答申は「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方について」。

「教員の資質向上」では、養成段階、採用から1~数年目までの段階、中堅段階、ベテラン段階ごとに教員養成指標が示された。「教員は学校で育つ」の考えのもと、学び続ける教員を支えるキャリアシステムを構築していく。

「チームとしての学校」と「学校と地域の連携・協働」が実現すると、学校そのものがコミュニティ・スクールとなり、「学校運営協議会」が「チームとしての学校」を支え、「地域学校協働本部」とともに、地域社会の中で学校を運営していく。

地域には「地域学校協働本部」が置かれる。「チームとしての学校」には校務分掌として「地域連絡担当教職員」(仮称)を置く。「地域コーディネーター」が窓口となり、「地域連絡担当教職員」と連携・協働する。

学校には多様な専門スタッフが配置される。想定されているのは、スクールカウンセラー(SC)、スクールソーシャルワーカー(SSW)、部活動指導員など。教員は本来の授業や生徒指導に注力できる。

答申を受け取った馳文科相は「教育改革の中でも本丸といえる答申。文科省として必要な制度改正などに速やかに取り組んでいきたい」と語った。

教育制度分科会の小川正人会長・東京大学名誉教授は「これまで日本の学校は原則、教員によって運営されていた。それは高いパフォーマンスで、メリットも大きかった。だが、社会の変化の中で、単一、同質の価値観や考え方のモノカルチャーでは困難が生じてきている。今後も教員が中心であるのは変わらないが、さまざまな形での連携、協働が不可欠。今回の答申は学校の文化を変えていく力になる」とし、学校像が大きく転換されると話した。

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