(注目の教育時事を読む)第23回 防災教育の推進

藤川大祐千葉大学教育学部副学部長の視点

危機管理の感覚を日常化する それができる工夫を組み込む
◇正常性バイアスを補正する◆

まもなく、平成23年3月11日の東日本大震災発生から5年になる。震災で亡くなられた方に、あらためてご冥福を申し上げるとともに、被災地でご苦労をされている方にお見舞いを申し上げ、復興に尽力されている方々に敬意を表したい。

本紙2月8日付2面では、「小中合同で集団帰宅訓練など」「地震速報で抜き打ち避難も」の見出しの下、埼玉県が進める「防災教育を中心とした実践的安全教育総合支援事業」の成果発表会の内容が報じられている。緊急地震速報を利用した抜き打ち避難訓練、運動会における援助物資の搬入等を想定した競技の工夫、小中合同の集団帰宅訓練等、県内各地で創意工夫をして防災教育に取り組んでいることが紹介されている。

避難訓練を含む防災学習で常に問題になるのが、「自分は大丈夫」「自分たちには大きな問題は起きない」と、たとえ異常な状態が起こりえても、自分たちは正常な状態だと考える「正常性バイアス」である。

防災学習を行っても、子どもたちが「どうせこんなひどいことは起きない」と考えていたら、せっかく学習したことが定着せず、何かがあっても生かされない可能性が高くなる。

他方、いたずらに不安を煽ればよいというものでもない。大きな災害が起こって家族と離ればなれになってしまうことは、子どもには非常に大きな不安となる。怖くて防災のことを考えたくないと思ってしまえば、やはり、防災学習は意味のないものとなってしまう。

喉元過ぎれば熱さを忘れるというように、東日本大震災から時間が経つほど、防災についての意識を持ち続けることが難しくなる。すでに、小学生たちの多くは、東日本大震災のことをあまり覚えていない年齢になりつつある。5年が経過したということは、あらためて防災教育の在り方を再検討すべき時期が来たということなのだろう。

埼玉県各地の取り組みでは、子どもたちの「正常性バイアス」を補正し、防災意識を日常生活に埋め込む方向で工夫がなされている。運動会で援助物資の搬入を想定した競技が取り入れられていることが象徴的だ。防災教育と銘打たない場面に防災教育が埋め込まれていることで、いざというときに、子どもたちが学習したことを生かして無理なく対応にあたれるであろう。

◆いざというとき役立つか◇

こうした取り組みを地道に継続することが、いざというときに役立つはずだ。

防災教育をより広く見れば、子どもたちに危機管理意識を育てることにつながっている。日常生活の中で、子どもたちがさまざまなリスクを意識し、リスクを軽減したり、いざというときに深刻な危機(クライシス)を避けたりできるようにすることを目指したい。

先日、東京都文京区立湯島小学校で、2年間の「タブレット端末を活用したICT教育モデル事業」の全学級授業公開の研究報告会が開催された。私は2年間、研究講師を務めさせていただき、研究報告会でも、指導講評として話をさせていただいた。

その中で、授業の様子を写真で確認しながら最初に話をさせていただいたのが、どの学級でも子どもたちの机の上に余計なものがなく、整頓されているということだった。

2年近く前、研究が始まったころ、授業中に子どもたちの机から頻繁に文房具が落ちていた。そもそも子どもたちの机は小さいが、そこに新たに1人1台のタブレットが加わり、子どもたちの机の上は雑然としていた。これでは、文房具が落ちるのは当然であったし、やがてタブレットが落ちることも予想された。

だから、まず教員たちと相談したのが、タブレットを使う以上、これまで以上に机の上の整頓を徹底し、タブレットの落下等の事故を未然に防ごうということだった。

これも、ひとつの危機管理である。

◇よく手を洗うことも関連している◆

今では、湯島小学校では、子どもたちの机の上が整っているのはもちろんだが、体育館で体育を行うときにはタブレットを置くための箱が用意されるなど、事故を未然に防ぎつつタブレットを活用することが徹底されている。

こうした配慮が、丁寧なノート指導などとも相まって、子どもたちが余裕をもって学習に取り組むことを可能にしている。

学校では、廊下を走らないことも、物を他の人に渡すときに声をかけるのも、1人でいる人に声をかけるのも、よく手を洗うのも、全て危機管理といえる。こうした日常生活の中での危機管理を基盤とし、埼玉県で行われているような工夫した防災教育が実施されることが求められる。

もちろん、教員にも危機管理の発想が重要である。千葉大学教育学部では、学校の危機管理に関する授業科目を中学校教員養成課程必修科目として新設することとした。防災関係はもちろん、生徒指導、事故対応等の内容も含める予定だ。

危機管理のできる学校にするために、できることを進めていかねばならない。


注目教育時事本紙ニュース要約
埼玉県の安全教育総合支援事業

埼玉県教委は、自然災害などに対して、児童生徒が主体的に考え、自ら身を守ったり地域の一員として協働したりする力などを養う「防災教育を中心とした実践的安全教育総合支援事業」を推進。1月27日、さいたま市の市民会館うらわで今年度の成果発表会を開いた。緊急地震速報を利用した抜き打ち避難訓練や小中合同防災訓練など、この事業に取り組んだ3市町の実践や高校生による災害ボランティア育成講習会の経過や成果が示された。

運動会で、有事の対応力を見据えた種目開発と競技を工夫。限られた日用品で担架を作ってボールを運んだり、援助物資の搬入を想定した段ボール箱積みなどを楽しんだりしながら、力量をアップさせた。