(教育時事論評)研究室の窓から 第10回 誰かの見守りの中で共に育つ

国立教育政策研究所教育研究情報センター総括研究官 千々布敏弥

 

子どもも教師も 誰かの見守りの中で共に育つ

羊の体重を量るのは難しい。2台の体重計の上に板を渡し、その上に羊を立たせて量る。羊はじっとしていないから、えさをあげたりして、何とか体重計の上に居続けさせる。

恵介君は給食の調理場から仕入れてきたリンゴの皮を、素手で羊に食べさせていた。いつも先頭に立って羊の世話をしているようだ。

2台の体重計の数値が読み取られ、グラフに書き込まれた。株価のチャートのようにジグザグに上下しながら、グラフは羊の体重の増加を示していた。

「ジグザグが小さくなっている」「体重が増えている」「赤ちゃんが育っているんだ」――。子どもたちの声が次々に上がる。

「赤ちゃんが生まれる前には、えさを食べなくなるんだって。本に書いてたよ」と発言した子がいた。「もっと食べさせた方がいい」「体重が増えすぎたらよくないかもしれないよ」などと、発言がつづく。

その議論の間、恵介君は手元のはさみで遊んでいた。体重論議にまったく関心がないようだ。

議論が終わり、生まれてくる赤ちゃん羊のための小屋づくり作業が始まると、「ようし、やるぞっ!」と恵介君が飛び出した。まずは靴を長靴に履き替える。他の子は運動靴のまま、あるいは最初から長靴を履いている。恵介君は、羊のえさやりの段階では運動靴、今からやる小屋の支柱立ての作業には長靴がいいと考えたようだ。

ぬかるんだ土の中で足を踏ん張り、支柱を立てるための穴を掘っていく。1つの穴を掘るのに、3人の子どもがくわを振っている。もちつきのきねの動きのようにリズミカルで、くわ同士がぶつかることはない。穴が十分な深さまで掘れた段階で、支柱を立てる。用意した木材が長すぎるので、木材を切る。

どの作業でも、恵介君の動きはとてもいい。恵介君が、のこぎりをひくとき、別の子が木材を押さえる。恵介君が「疲れた。誰か代わって」と言えば、別の子がのこぎりを引き出す。

目を転じて、柵に釘を打っている女の子に注目した。頭部の大きい金づちを振っている。その方が、釘を打ちやすいと思ったのだろう。小学校2年生の小さな体で、確実に釘を打ち込んでいる。「指打っちゃった」と笑顔を向けながら、次々に柵を完成させている。

支柱を立てている子、小屋の壁を作っている子、柵を作っている子、わらを敷き詰めている子。それぞれの持ち場で生き生きと作業を続けている。金づちの子に「役割はどうやって決めているの?」と聞いたら、「好きなことをやっているの」と答えた。

教師に聞いたら、最初は生活班で作業グループを分けたところ、子どもから不満が出たらしい。必要な作業をリストアップして、好きな作業を選ぶようにしたら、子どもは生き生きと動き出した。

無事に赤ちゃんが生まれるか、体重の推移が気になる子がいる一方で、それよりも生まれてくる赤ちゃんのために早く小屋づくりをやりたい、恵介君のような子もいる。

教師は「実は私、動物苦手なんです」と語っていた。子どもたちが羊を飼いたいと言い出した流れから、まずは雌羊、次いで雄羊を飼うようになり、ついに子羊が生まれようとしている。「羊の爪をおそるおそる切ったら、先生、上手にできたねって、子どもが褒めてくれたんです」

長年動物を飼い続けている学校に初任者として赴任して、動物が苦手と公言する若手教師に、私は感心した。周囲との関係が構築できていないと、自己開示はできない。ふと気付いたら、学年主任がたくましく温かい視線を送っていた。

子どもも教師も、一緒に育っている。教師が子どもを見守り、若手教師をベテラン教師が見守っている。長野県伊那市立伊那小学校で参観した光景である。

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