(注目の教育時事を読む)第24回 子どもの貧困問題

藤川大祐千葉大学教育学部副学部長の視点

 

社会的損失推計し対策を迫る 投資の合意形成進められるか
◇課題の深刻度と対策度を指標に◆

本紙3月10日付紙面では「子どもの貧困問題を指標化」の見出しの下、日本財団が実施した「子どもの貧困の社会的損失推計」の結果を報じている(電子版では同財団から発表された当日の3月4日付で既報)。

この調査は、近年深刻な問題となっている子どもの貧困について、現状を放置したままの場合と、子どもの教育格差を改善する対策をとった場合(貧困家庭の子どもが非貧困家庭の子どもと同程度に高校進学ができるようになり、22%が大学等に進学することとなったケース)とを比較するものであり、昨年12月には日本全体に関する推計が発表されていた。今回発表されたのは、都道府県別の推計結果だ。なお、推計結果については発表後に訂正が行われており、本紙3月10日付記事ではまだ訂正されていない。訂正データは3月17日付に掲載されているので注意が必要である。

紙面では、子どもの貧困問題の深刻さを示す「課題深刻度」と、15歳未満の子ども1人あたりの児童福祉費に基づく「課題対策度」に注目し、こうした指標においてワーストとなっている都道府県を紹介している。しかし、レポート全体を読んでみると、どこがワーストかにとらわれず、全国の様子を俯瞰的に見ることも必要と考えられる。

◆県だけで抜本改善するのは困難◇

レポートでは、課題深刻度と予算支出(課題対策度)の間にほとんど関連が見られない点を問題にしている。課題が深刻な都道府県ほど児童福祉のための費用を多く支出する必要があるはずだが、実際には課題深刻度と課題対策度はほぼ無関係で、北海道、埼玉県、神奈川県、大阪府などは課題深刻度が平均以上でありながら、課題対策度は平均以下となっている。逆に、秋田県、東京都、富山県、島根県などは、課題深刻度は平均以下でありながら、課題対策度は平均以上となっている。

レポートは、こうしたことの背景として、「行政が子どもの貧困の実態を十分把握していないために、実態と乖離した状態で対策を行っていることが考えられる」という。

この指摘は重要である。データは、住んでいる都道府県によって、子どもたちへの実質的な支援のあり方が大きく異なることを示している。その差は大きく、たとえば埼玉県の15歳未満の人口1人あたりの児童福祉費支出は、課題深刻度がより低い東京都の0.62倍しかない。千葉県や神奈川県でも同様だ。
では、課題対策度が低い都道府県の努力が足りないのかというと、そうともいえない。埼玉、神奈川、千葉といった県では児童福祉費への予算配分比率が全国でもトップクラスに高く、県だけの努力で課題対策度の低さを抜本的に改善するのは困難である。

東京周辺の首都圏の県で課題対策度が低いことについていえば、全国的に見ても子どもが多い地域でありながらそれに見合った自治体財政が成立していないということであろう。都道府県の努力だけでは限界がある。

結局、日本財団の調査からいえるのは、国レベルで子どもの貧困について対策を推進すべきだということである。そもそもこの調査が明らかにしているのは、現在15歳の子どもについて子どもの貧困対策を現状のまま放置するより改善したほうが、この世代の19~64歳の間の所得総額は2.9兆円増し、この人たちによる税・社会保障の純負担額(税・社会保険料負担額から社会保障給付額を差し引いたもの)が1.1兆円増すということであった。単純にいえば、1学年の子どもに政府が1兆円かけて貧困対策を行ったとしても、それで高校進学率が非貧困家庭と同等まで上がれば、長い目で見れば税や社会保障で十分に還元できるということである。

試みに計算してみよう。日本で1年間に生まれる子どもの数はほぼ100万人であり、子どもの貧困率は約16%である。ということは、今後、1学年の子どものうち約16万人が貧困の状態にあると想定できる。この子どもたちに1兆円かけるとすると、1人平均625万円使えることとなる。これまでの児童福祉費に加えてこれだけの額を使えるのである。もちろん、貧困世帯といっても状況は多様なので、より大変な状況の子どもに手厚く費用を使うことが想定される。

◇英知を集め実効性のある策を◆

過去の研究によれば、子どもの教育への投資の収益率は、未就学児の段階が最も高く、年齢が上がるほど低くなるとされる。このことを踏まえれば、児童養護施設や自立支援ホームで生活する子どもへの特別養子縁組支援や学習支援、進学支援の充実をはじめ、大胆な策をとることが可能であるといえよう。もちろん、費用だけでなく行政、NPO、研究機関等の英知を集めて、実効性のある策をとることが必要だ。

レポートにあるように、子どもの貧困対策には、他にも貧困の世代間連鎖を断ち切る効果、健康状態の改善効果、犯罪減少の効果も期待される。子ども関連予算が少ない日本が、子どもに手厚く投資する国へと舵を切ることに合意形成できるかが問われている。


 

注目教育時事本紙ニュース要約
子どもの貧困問題を指標化

日本財団は3月4日、「子どもの貧困による社会的損失推計」の都道府県別推計を公表した。昨年12月の発表に続く第2弾となる。

貧困問題の深刻さと対策の度合いを明らかにし、偏差値などを織り交ぜて初めて指標化した。ワーストには北海道や奈良県(修正データにより、ワースト県は静岡、次いで埼玉となった)などがあがった。児童福祉費の予算配分が高い県でもワーストに位置付けられる状況があり、幅広い要因把握と分析、多様な連携による対応などが指摘された。

推計は、子どもの貧困対策を行わずに教育や所得格差が継続する場合と、対策を行い、教育や所得格差が改善された場合の両シナリオで、現在15歳の子どもが64歳までに得る所得や税、社会保障費の純負担額を算出。2つのシナリオの差分を「社会的損出」と捉え、値を割り出している。

都道府県別で見ると、GDP比に基づく「所得額」の差分では、沖縄がマイナス1.29%と最も高く、山形、富山、福井がマイナス0.31%と最も低い結果となった。「税や社会保障の純負担額」の差分でも沖縄がマイナス0.43%で最も高く、最も低いのが山形、富山、福井のマイナス0.11%だった。

一方、今調査では、子どもの貧困による社会的損失を知るだけでなく、都道府県ごとの貧困対策を照らし合わせた状況把握も目指した。

そのため、15歳未満の子ども1人あたりに使う児童福祉費を「課題対策度」として指標化。そこに、GDP比に基づく▽所得の機会損失▽税や社会保障の純負担▽子どもの貧困率――を勘案した「課題深刻度」を照らし合わせた。両指標の偏差値を割り出し、都道府県別の状況を明らかにした。

同財団では、支援アプローチには十分な予算確保が必要と強調。子どもの貧困対策に尽力するのは大きな経済効果を生むとして、予算配分の再検証などに期待する。今後、行政、NPO、企業が連携し、必要なリソースを持ち寄るパイロット事業を後押ししたいと話す。

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