(新しい潮流にチャレンジ)学校力を高める全員経営の在り方

教育創造研究センター所長 髙階玲治

 

小集団機能とコミュニケーション
○全員経営としての学校の基盤強化

現在、学校教育は新たな体制づくりとしての多様な動きがある。基本的には現在の教育基盤の充実であるが、次期教育課程に向けた動きへの対応も重要だ。多くの学校は学習指導要領順守型で、現行の制度をこなすことで精一杯の印象を受けるが、次期教育課程に向けた動きが現実化するとき、その対応力に格差が生まれそうである。

アクティブ・ラーニング、カリキュラム・マネジメント、外国語教育など、従来とは異なる教育状況が顕在化する。学校は果たして十分な対応力を持てるであろうか。

そこで学校の組織機能の充実方策を考える必要がある。「チーム学校」が提案され、新たな専門スタッフの加入に期待が集まっているが、「チーム」という印象は同じ仲間との協働体制である。つまり、協働体制としての学校をどう確立・充実するかという、従来の組織を超えた学校の機能強化が重要な課題である。

どんな組織でも、組織内の機能強化は重要であるため、これまでも多く語られてきた。その中で最近、私が特に関心を持つのは野中郁次郎氏が提唱する『全員経営』(日本経済新聞出版社2015)である。

私が興味に持ったのは、学校は経営的には小規模でまとまりやすく、個々の教職員の職務分担が明確で、互いの職能を身近に理解し合える環境であることから全員経営は可能性として高いことである。つまり、教職員それぞれが組織目標を共通認識していれば、個々の職務を着実に遂行しながら、協働的に同僚性を発揮できる可能性が大きいと言える。特に経営が小規模であるから、学校全体における自分の位置・役割を明確に自覚すれば、経営参画の意識が高まる。また、トップはそのように働きかけるべきである。

ただし、トップとしての校長のリーダーシップは縮減しない。学校が何を目指すか、そのビジョンの明確化や目標設定はトップの見識によることが大きい。したがって、トップのリーダーシップを中核とした全員の組織参画の体制づくりが重要なのである。

○小集団機能の効果性を生かす

教職員は校務分掌にしたがって、それぞれ固有の職能を発揮する。ただ、個別業務が多く、1日の職務の7~8割以上の時間が1人の責任で遂行されるという。そうであれば、新任教員であっても相応の職能遂行力を必要だ。一人前になるには10年かかると言われていても、新卒教員もベテラン教員も1時間の授業は同等にカウントされるという現実がある。

どの教員も十分な職能を発揮する必要があるが、実践力の格差は容易に解消されない。教員という職業は授業にしろ、生徒指導にしろ、教育スキルや業務能力を身に付ける必要があってその習熟が難しいのである。

そこで個々の力量差は存在しても、それぞれの実践を組織的に生かす方略が必要である。そのための方略が「全員経営」という参画意識の醸成であるが、その土台に小集団機能の強化がある。

野中氏の『全員経営』には、多くの事例が載っている。その中に日本航空のV字回復を果たした稲盛和夫氏のアメーバ経営がある。赴任時、日航の職員は会社が倒産したことの自覚がなかったという。そこで従業員全員に「売り上げを最大に、経費を最小に」をモットーに、「一人ひとりがJAL」という自覚で経営に進めたという。その基本はそれぞれの職務遂行の場を小集団化して課題解決能力を高めたのである。個の創意が小集団内で培養され、アメーバのように組織全体に連動する。一人ひとりが自己の職務を自覚し、小集団内で連携し、それが組織全体に拡充することで見事にV字回復を達成した。その経営手法は京セラから一貫している(『アメーバ経営』稲盛和夫、日経ビジネス人文庫、2010)。

稲盛氏は経営の神様と呼ばれるが、アメリカの経営の神様も小集団重視を掲げていた。GMの最高責任者兼会長だったジョン・F・ウェルチ・ジュニアだ(スレーター『ウェルチ リーダーシップ31の秘訣』スレーター、日経ビジネス人文庫、2001)。GMは従業員が何十万人という巨大組織であるが、彼は「小さな会社のように動く」と考えていて、小集団組織の利点を次のようにあげている。

(1)意思の疎通をはかりやすい(2)動きが早い(3)階層が少なくリーダーの仕事ぶりと影響力が全員の目にはっきりと分かる(4)無駄が少ない。
「小さな会社のほとんどは整然としていて、単純で、形式にこだわらない。熱気にあふれ、官僚的なところがない。どこからでも貪欲にアイデアを吸収し伸びていく。誰もが必要な人間であり、誰もが責任を持っている」。

組織の基盤に小集団を位置付けることの重要な指摘がみられる。

○小集団機能の活性化とコミュニケーション

学校は、確かに小集団組織である。その利点を最大限に活用するのが「全員経営」である。若手教員も、ベテラン教員も、学校の教育実現のために絶えず教育ビジョンを意識し、相互啓発しながら協働実践の力も高めていく。

しかし、もともと学校は小集団組織でありながら、なおミニ小集団を必要とする。

全員経営は個々の教職員がバラバラに組織機能を発揮するのではない。学校内部にミニチームが必要である。学年会や教科部会、分掌部などである。数人のまとまりが基本である。

実は最近の学校は、週時程を見ても学年会などの時間が設定されていない。例えば、若手教員は学年会でベテラン教員から多くのことを学ぶ機会を持てた。メンター制度をわざわざ設けなくとも、学年会が機能すれば指導の充実がかなりできた。福井県の中学校が高学力なのは教科部会が必ず設定されているからだ、という証言がある。

何が重要かと言えば、ミニチームのコミュニケーションだ。それが最近の学校に決定的に欠けている。コミュニケーションが欠けているから、仕事が個人任せになって協働意識が生まれない。相互啓発や同僚性も生まれない。個々の教員はタコツボ型になる。もっともまとまりやすいミニチームでありながら、コミュニケーションの場が設定されていないために活性化しないのである。

だが、学校の現状では、学年会を持てる時間的余裕がない。確かに今の学校は超多忙化の状況にある。しかし、コミュニケーションが協働体制の基盤であるから、どこかでミニチームを生み出す工夫が必要である。ミニチームがあれば、教員同士の相互啓発も、協働も、創意ある教育活動も可能になる。何よりも教師力向上への影響は大きい。

そこで、基本的には毎週ミニチームの話し合いが必要だが、難しければ月に1~2度でもよい。学年会や教科部会のようなフォーマルなミニチームの場をぜひ設定すべきだと考える。当然、チーフが存在し、協議の場を持てる小集団である。フォーマルな場の設定がなぜ必要かと言えば、その場が土台になってチーフとメンバーの交流意識が高まるからである。チーム意識が高まる。

チーム意識が高まれば、協議の時間が持てなくても、チーム内の人間関係が醸成されるから、必要な事項についてチーフからの連絡がもたらされる。「すきま時間」に立ち話しでチームの交流が可能になる。インフォーマルな時間を活用する機運が生まれるのである。

特に、次期教育課程は複雑化し、困難度が高まることは確かで、時間的余裕はますます少なくなる可能性がある。それは絶対避けたいのである。学校の教育課程編成を支える実践的な役割は、個々の教員任せでは充実しない。個々の教員任せが結果として「タコツボ型」を生み出し、協働意識や同僚性を希薄にしてしまう。必要なのは、学校力や教師力の確かな充実である。「組織の活性化は小集団から」は鉄則である。

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