(注目の教育時事を読む)第25回 災害時の子どものメンタルケア

千葉大学教育学部副学部長藤川大祐の視点

 笑顔を守る重要性の再確認を
遊びは決して不謹慎ではない
◇平成28年熊本地震◆

4月14日、16日と2回にわたり最大震度7の地震が発生し、熊本県や大分県に甚大な被害が生じている。平成28年熊本地震と名付けられた一連の地震で被災された方々にお見舞いを申し上げるとともに、対応にあたっている方々のご無事を祈りたい。これほど長期間にわたって地震が起こった例はなく、避難や復旧においてもさまざまな困難が生じている。

大きな地震があり、避難生活が続く中では、被災者の方々のメンタルケアが大きな課題となる。地震の揺れの経験自体が大きなストレスである上に、避難生活の中での不自由さや将来への不安等が大きなストレスとなりうる。特に、今回のように長期間にわたって体に感じる地震が起きている状況では、揺れの恐怖から心が解放されることがなく、ストレスへの対応が重要となる。

こうした状況の中で、教育関係者には、子どもたちのメンタルケアに対応することが求められる。

本紙4月18日付紙面は、「緊急活用事業に交付金」との見出しで、文科省が今年4月1日に出した「緊急スクールカウンセラー等活用事業」の交付金交付要綱について報じている。この事業は主に、東日本大震災の被災地等におけるスクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)の派遣を支援するものである。この事業は熊本地震に直接対応したものではないが、今後、こうした取り組みを援用して、熊本などへの支援がなされることを期待したい。

◆テレビもストレスに◇

あらためて、このたびのような大きな災害が生じた後の子どもへのメンタルケアについて概観したい。

まず、大きな揺れを経験すること自体が、子どもにとって大きなストレスとなりうる。まして、建物や道路などに被害が生じたり、身近なところでけがをしたり亡くなったりする方がいたりすれば、それまで自分のまわりにあったものが全て崩れ去るような恐ろしさを感じるであろう。

また、家庭や避難所でテレビを見るなどして被害状況を知ることが恐怖を引き起こし、大きなストレスとなることがありうる。東日本大震災の際にも、テレビが特別編成で悲惨な映像を流し続けたことが問題となった。テレビが見られる環境にあっても、子どもにテレビを見せ続けることは控える必要がある。

被災者が避難生活を始めた当初は、水や食糧の不足、体を伸ばして寝られない、トイレが不便など、大人でも大きなストレスを抱えることとなる。子どもの場合にはさらに、自由に遊べない、声を出して騒げないといったことがストレスとなる。直接被害がない場所でも、楽しいことをするのは不謹慎だという風潮になり、子どもが遊ぶことがむずかしくなる場合がある。

◇人の心にある回復力◆

熊本地震が発生して以降、インターネット上では、さまざまな話題が飛び交っているが、中でも、熊本で地震が起きているのに保育園で散歩をさせることは不謹慎だというクレームが来たという話題が広がっている。真偽の程は分からないが、大変なときに子どもを遊ばせることを不謹慎だとする人がいても、不思議はない。

東日本大震災の際にも、避難所などでは、子どもが楽しく遊ぶことは不謹慎だとする風潮があったと聞く。だが、子どもにとって、楽しいことができないことのストレスは非常に大きい。そもそも地震の揺れを経験して心が傷ついている上に、楽しく遊ぶことまで我慢しつづけなければならないとしたら、ストレスに耐えきれなくなっても不思議ではない。

先日、「アベマTV」というネット放送局の番組に出演する機会があり、熊本地震に関するメディアの対応について議論した。その中で、ケンドーコバヤシさんや元NMB48の山田菜々さんが、ご自身の発信への躊躇について話してくれた。

しかし、子どもはもちろん大人にも、楽しいことは必要である。被災者への思いやりは前提として、楽しいことが不謹慎だなどという偏見を消去し、エンターテイナーが歓迎されるようでなければならない。

大きな被害を受けた地域では、長い時間をかけて復興に向かっていくこととなる。東日本大震災の被災地でも、まだまだ復興が進んでいない地域が多い。これからの長い時間の中で、忘れられることがストレスとなりうる。長期的な取り組みが必要だ。

人の心には、傷ついても回復する力「レジリエンス」がある。それぞれの局面で大きなストレスが生じるであろうが、タイミングよく周囲の人が子どもを楽しく遊ばせたり話を聞いてあげたりすることができれば、子どもは、自らのレジリエンスによって、傷ついた心を修復させることができる。
SCやSSW等の専門家の活躍は必要であるし、専門家がいなくても、ボランティアも含め、近くにいられる人ができることをしていく必要がある。


 

注目教育時事本紙ニュース要約
SCなど緊急活用に交付金
 「緊急スクールカウンセラー等活用事業」の交付金交付要綱が制定された(4月1日付文科大臣決定/同実施要綱=同日付、初中教育局長決定)。幼児児童生徒の心のケアのために、スクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャ
ルワーカー(SSW)を派遣するのを支援する。

派遣を実施する主体は、都道府県、市町村(特別区と市町村の組合を含む)、東日本大震災で災害救助法が適用された地域(適用地域)に所在する国立大学法人。

内容は、実施主体による次の活動で、(1)SCやSSW、SCに準ずる者を、教委や幼・小・中・高校、義務教育学校、中等教育学校、特別支援学校、大学、高専などに派遣する(2)スーパーバイザーを配置して、派遣されたSCやSSWなどの専門性を向上させる(3)適用地域の幼児児童生徒の心のケアに資するために学習支援や学校運営補助などの活動を行う(4)適用地域の幼児児童生徒、保護者などが相談できる電話相談体制の整備と電話相談員を配置する――など。

阪神淡路大震災後には、心のケアなどの支援が必要な子どもたちが、長期にわたって存在していた。東日本大震災についても、長期にわたるケアが重要になっている。またケアが必要なのは、子どもたちだけでなく、保護者をはじめ、教職員も同様だ。

その中で、この緊急事業の、現場のニーズに真に沿った、迅速な実施が期待されている。

〈訂正〉「注目教育時事本紙ニュース要約」に誤りがあったので訂正いたしました(4月28日)
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