(新しい潮流にチャレンジ)状況を創るリーダーシップの発揮

教育創造研究センター所長 髙階玲治

 

学校変革は必須の課題
〇状況を創りだすリーダーの役割

最近、「学校をこう変えた」という実践事例に触れることが多くなった。
例えば、反転授業の導入、アクティブ・ラーニングの取り組み、教科のカベを超える授業、生徒4人組生活班による協働学習、プログラミング学習の展開などである。これらは校長のリーダーシップによる新たな教育課題への挑戦である。

特に際立っているのは従来の学校にない教育実践にチャレンジしていることで、新しい「状況」を校長のリーダーシップによって創りだしていることである。それは、なぜ可能だったのであろうか。

一般的には、学校は教育課程を編成し実施するという確かなミッションがあるが、学習指導要領順守型ではマンネリ化に陥りやすく学校が活性化しない。学校が活性化するためには、トップがビジョンを掲げ、教職員の統合された共通認識に基づいて協働体制をつくることである。

ビジョンがなぜ必要かと言えば、ビジョンは未来形であって、そのことが将来に向けて学校力・教師力を高めるからである。従来型のやり方をただ継続しているだけではビジョン経営ではない。将来において、どのような学校力・教師力が必要かを考え、実現性のある学校環境を創りだすことである。

しかし、実際にはビジョンを掲げること自体が難しいと思われている。現在の学校を運営していくだけで精一杯という考えも強い。
そのような状況の中で、どうすれば新たな状況が創れるか、それが課題である。

〇どのようにして「状況」を創りだすか

学校のタイプは大まかに考えて4つある。1つは、最も多い学習指導要領順守型である。2つは、学力向上や言語活動の充実などに取り組んでいる教育課程深化型である。3つは、例えば学級崩れなど自校の実態から課題を見いだし、その課題解決を目指している課題解決型である。4つは、ICTの導入など、新たな教育へ試行的・積極的に取り組んでいるイノベーション型である。

現状としての学習指導要領順守型は、公教育のミッションとして重要であるが、そのレベルを超えてチャレンジするのが新たな「状況」の創造である。誰かが提案し、教職員が受容し、学校組織としてチャレンジする。教育課程深化型も、課題解決型も、イノベーション型も、「提案」が重要であって、まずは何をすべきかが教職員に受容されることが前提になる。

例えば、先にあげた実践例のうち、「反転授業」の導入は兵庫県の篠山東中学校である(本紙「クオリティ・スクールを目指す」連載第52回、2015年5月4日付け)。

「反転授業」は新しい。イノベーション型の取り組みであった。それを学校に導入したいと考えたのは当時の赤井敏博校長である。しかし当時、反転授業はわが国で実施している例は極めて珍しかった。現在でもあまり広まっていない。

「反転授業(Flipped Classroom)」はスタンフォード大学医学部のブロバー教授の提案であるが、講義内容をオンライン教材化して自宅などで予習し、それを学んだ学生が授業では対話型の活動を行うというもので、学生評価が大幅に向上したというものである。

赤井校長が関心を持ったのは、校長自身が教員時代に、どうすれば生徒の学習意欲を喚起し、レディネスを上げられるかに腐心した経験が強かったからである。講義的な授業は生徒を受け身にするが、反転授業は生徒を主体的にし、また知識の理解と定着が深まると考えたのである。
その強い思いが反転授業導入に踏み込ませたと言える。

しかし、反転授業の実施には大きなカベがある。従来の授業が根本から転換するからである。何よりも、市販された教材がない。そこで教師が予習動画を自作し、それをDVDにして配布し、生徒が事前に視聴して授業に参加するという対応が必要であった。例えば、英語の動画は、ALTの協力で教師が演技しながら興味深く適切なストーリーを作成する。5~10分程度の長さであるが、作成準備や編集に時間がかかる。

反転授業は容易に導入することは難しい。しかし、最初の25年度は数学・英語で試験的に実施し、26年度からは体育・音楽の教科以外全てで行っているという。

実践例は「状況を創る」リーダーシップの典型にみえる。校長の提案がなければ、反転授業に取り組むというイノベーション型の変革は起きなかったであろう。変革の「仕掛け」を創ったのは校長である。その結果、教師たちがその意志に賛同し、実施に向けてさまざまな創意工夫を発揮する。反転授業実施という状況変化によって、教職員それぞれの動きの中に新たな相互啓発が生まれる。

基本は、「反転授業を実施したい」という校長の熱意である。「熱意が人を動かす」という極めて人間的な行為である。
このことから『ビジョン・リーダー』(産能大学、1994)を書いたバート・ナヌスの言葉を思い出す。
「ビジョン・リーダーとは、強い信念を持って自分の考える方向性を示し、危険を冒す覚悟があり、大胆で勇気があり、いきいきと気力が充実している。そんなリーダーのことである」

ただし、赤井校長は極めて控えめで、「先生方が、反転授業に対する私の情熱をくみ、多忙な業務の合間を縫って教材作成に頑張る姿には、頭が下がる思いです」と語っている。校長と教職員との間に暖かい信頼感を感じさせる。

ともあれ、リーダー行動にはビジョンを実現するための知識や状況把握などが必要である。「反転授業」は容易ではないが、あえて校長は提案する。新しい「状況」を創りだしたのである。

〇状況は創られることで発展する

学校を近い未来を予測するなら、確実に変質を迫られることは確かである。子どもに形成する新たな資質・能力、それを支える教師個々の指導力の向上、学校組織が一体的に進める教育実現など学校は「未来形」を考える組織に変わる必要がある。

ドラッカーはどんな組織でも、3つの役割があると述べている。1つは、組織としての使命(目的)を果たすこと、2つは、組織に関わる人々が生産的な仕事を通して生き生きと働けること、3つは、組織が社会的な存在として貢献できること、である(『チェンジ・リーダーの条件』ダイヤモンド社、2000)。

そして、「みずから変化をつくりだせ!」という。つまり、状況適応型や状況対応型に留まらないで、近未来を見据えて学校を変える、状況を変える、そのための大胆な提案が必要なことを示しているのである。

現在の学校は状況を創る場面が多様にある。あれもこれもではなく、全員が参画できる目標を掲げて取り組むことで、やがてビジョンが膨れ、豊かな展開になる。その第一歩を期待したいのである。状況を創るリーダーシップである。

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