(注目の教育時事を読む)第26回 18歳選挙権を問う

藤川大祐千葉大学教育学部副学部長の視点

 

拙速な導入に無批判でよいか どんな教育が必要か問おう

◇中高生の主権者意識◆

本紙5月12日付紙面(電子版では調査結果発表の4月27日付)は、「18歳選挙権の意識が向上」「投票に行く高校生6割強」の見出しのもと、中高生を対象としたアンケートの結果を報じている。このアンケートは、全日本教職員組合(全教)の高校教育研究委員会と、全教が関わる「子どもの権利・教育・文化 全国センター(略称 子ども全国センター)」が実施したものである。

全教はかつて、日教組から分離した共産党系の教職員組合だ。調査結果を報じるなら調査主体の団体がどのような団体かが分かるように報じるべきであるが、なぜか記事ではそうなっていない。

もちろん、調査主体が教職員組合であることや政党との関連があること自体、特に問題だとは考えられない。問題は記事の内容だ。この記事には不可解な点がいくつも見られる。3点示す。

◆調査結果は多様◇

第一に、記事は「中高生の主権者意識の向上が明らかになった」としているが、何と比較して「向上」としているのかが記されていない。記事で紹介されているのは昨年10月から11月に実施された調査の結果だけであり、それ以前の調査と比較がなされているわけではない。比較なしに「向上」という言葉を使い、見出しにまで掲げているのは、不可解である。

第二に、調査の結果について記事は「18歳選挙権への強い関心がうかがえる」としているが、何をもって「強い関心」としているのかが不明である。この評価の根拠となっている結果は、次の2点である。すなわち、第一に、18歳選挙権の実現に「賛成」「どちらかといえば賛成」と回答した高校生が54.1%、中学生が56.5%であったことと、18歳になったら投票に行くかとの問いに「行く」「多分行くと思う」と答えた高校生が61.9%、中学生の66.7%であったことである。

だが、これらの数値をもって、「強い関心がうかがえる」とすることは不可解である。

まず、18歳になったら投票に行くかという問いについて別の報道(「しんぶん赤旗」4月28日付)を見ると、高校生で「行く」は27.9%、「多分行くと思う」は34.0%、中学生で「行く」は33.3%、「多分行くと思う」は33.4%だ。「行く」を選んだ者は3割前後に過ぎない。

また毎日新聞5月18日付によれば、16歳から20歳代前半までの高校生と大学生対象のアンケートで、7月の参院選で投票に行くか尋ねた問いでは、20歳以上の学生で「必ず行く」は28%、「たぶん行く」は43%、計71%となっている。全教他による調査での中高生の投票意欲は20歳以上の大学生より低いといえる。

そして、高校生の18歳選挙権に対する評価について、否定的な結果が出ている調査もある。たとえば、産経新聞2月5日付によると、滋賀県選挙管理委員会が県内の高校2年生に行ったアンケートで、選挙権が18歳以上となったことについて「よかったと思う」は27.7%、「よかったと思わない」は29.0%、「わからない」が41.8%だった。

このように見ていくと、今回の調査から「18歳選挙権への強い関心がうかがえる」という根拠が不明であるばかりか、むしろまだまだ関心が低く、18歳選挙権に対して否定的な者がかなり多いのではないかと考えられる。なぜ「強い関心がある」としているのか、不可解だ。

第三に、NHKの世論調査との関連づけが不可解である。記事では、NHKの世論調査で87.3%が「今の政治が変わってほしい」と答えたことを挙げ、これに見られる「政治に対する不満足感の高まり」を高校生の18歳選挙権への関心の高さの要因の一つとしている。だが、87.3%が政治に不満があることをふまえれば、投票に行くという者の割合が少なすぎるのではないか。不満を抱きながら投票しないとする者たちは、主権者意識が低いということになるはずである。

この点は発表者側による分析を報じたものであるが、そうした分析を無批判に載せているのは不可解である。

以上のように、この記事にはいくつも不可解な点が見られる。

◇適切な主権者教育を◆

そもそも、今回の18歳選挙権導入は、十分な議論も時間をかけた準備もなくなされたものである。本来、中学校や高校の教育課程を見直すなどして適切な主権者教育を行えるようにする過程が必要であった。このように短期間で準備された18歳選挙権の在り方については、根拠が曖昧なまま「意識が向上」などと報じるのでなく、準備状況を批判的に検証するような報道が必要である。

記事中で堀尾輝久東京大学名誉教授も言っているように、主権者教育を単なる「投票のための教育」にしてはならない。だからこそ、投票に「行く」とする高校生の割合を強調するようなことをせず、どのような教育が必要なのか、慎重に検討できるような報道がなされることを、期待したい。


 

注目教育時事本紙ニュース要約

18歳選挙権の意識で中高生調査

高校教育研究委員会と子ども全国センターは4月27日、高校生・中学生を対象とした「高校生・中学生1万人憲法についてのアンケート2015」の結果を発表した。18歳選挙権導入にあたり、10回目となる今調査から、中3も対象とした。18歳選挙権について「賛成」「どちらかといえば賛成」との回答が半数を超え、中高生の主権者意識の向上が明らかになった。調査では、28都道府県の134校の中高生1万969人から回答を得た。実施時期は昨年10月から11月まで。

それによると、18歳選挙権の実現に「賛成」「どちらかといえば賛成」とした高校生は54.1%で、中学生は56.5%。「反対」「どちらかといえば反対」は高校生24.6%、中学生21.3%。18歳になったら投票に行くかの問いには「行く」「多分行くと思う」高校生が61.9%で、「行かない」「多分行かない」の24.7%の約2.5倍。中学生は「行く」が66.7%で、「行かない」19.1%の約3.5倍。18歳選挙権への強い関心がうかがえる。この関心の高さは▽18歳選挙権が実現して高3での投票が現実のものとなった▽NHK世論調査で87.3%が「今の政治が変わってほしい」と答えたように政治への不満足感の高まり▽大学生・高校生のデモ活動が要因と考えられると分析。

また高校・大学での勉学の機会について、入学金や授業料が払えずに、入学できなかったり、退学してしまったりする状況が生じているが、これに対しては、「教育は無償にして、そのような生徒をなくすべき」と高校生の56.7%、中学生の60.2%が回答していた。高校生からは「金銭面で、学業や将来の夢をあきらめることがあたりまえの世になってほしくない。子どもたちが安全に学習できる社会であってほしい」「先進国の中で、返す必要のない国の給付制奨学金が日本だけ無いのはおかしいと思う」との意見があった。

民主教育研究所顧問・国連子どもの権利報告書をつくる会会長・総合人間学会会長を務め堀尾輝久東京大学名誉教授は同調査を、主権者意識がどう育っているのかを明らかにするものとした上で、学校現場では「単に投票のための教育にはしてほしくない。人権のための教育へと工夫していく必要がある」と述べた。

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