(注目の教育時事を読む)第28回 「18歳」選挙権

千葉大学教育学部副学部長藤川大祐の視点

 

成人年齢の引き下げも含め
民主的で抜本的な対策が必要
◇引き下げではおかしなことばかり◆

本紙では、7月7日付紙面(電子版では同日付購読会員限定配信)で、中教審委員でジャーナリストの篠原文也氏へのインタビューを「小中から主権者教育を」の見出しの下で掲載したのをはじめ、18歳選挙権や主権者教育に関連する記事を多く掲載している。

総務省の発表によれば、7月10日に投開票がなされた参議院議員選挙で、18歳の投票率は51.17%、19歳の投票率は39.66%。20代の投票率よりはかなり高いと思われるものの、全体の投票率よりは低く、特に19歳の投票率の低さが目立つ。高校での主権者教育が投票に結びついたが、大学生などの高校卒業者には主権者教育などの取り組みが届いていないのかもしれない。

そもそも、今回の選挙権年齢引き下げについては、おかしなことばかりである。

◆民主主義の決定プロセスが機能不全◇

まず、選挙権年齢引き下げの是非について、国民的な議論はほとんどなかった。若い世代から選挙権年齢引き下げの要求が特になされたわけでもなく、国民的な議論もないないまま、国民投票制度との関連はあったものの、かなりあっさりと選挙権年齢の引き下げが決まった。

民主主義では決定のプロセスが大切にされるべきだが、決定のプロセスに主権者たる国民、特に若い世代の関与がほとんどないのであるから、政治的な意思決定としては大失敗といえるだろう。

また準備期間が短すぎる。公職選挙法改正が成立したのが昨年6月で、実際の選挙までの準備時間はわずか1年だ。18歳や19歳の者たちは、ずっと選挙権が得られるのは20歳だと思って育ってきている。突然、「1年後には投票できます」と言われても、有権者としての自覚をもつのは難しい。

さらに、選挙権年齢は18歳以上となっても、成人年齢は20歳以上のままなので、未成年でありながら選挙権だけが与えられるという中途半端な状態となっている。成人年齢の引き下げもあわせて議論されるべきだったはずだが、そのような議論はほとんどなされていない。

準備時間が短かったこともあり、関連する制度設計にも問題がある。

まず、大学生などで実家を離れて生活する若者は住民票をなかなか移さないため、実家に帰らなければ投票できないという問題がある。住民票を移さない大きな理由は、成人式である。地元の成人式に出るためには、住民票を実家に置いたままにする必要がある。だから、高校を卒業しても約2年間は住民票を移さず、学生のうちはそのままにしておく者が多い。

次に、公職選挙法による選挙運動禁止が不合理である。17歳までは選挙運動をすると違法となっており、Twitterで選挙期間中に特定の候補者について何か発信すれば違反になるなどと言われている。表現の自由を不当に制約するようなこうした規定が伝わることで、若い世代が萎縮してしまい、政治や選挙について話題にしづらくなってしまう。

さらに、一部の学校では18歳以上の者に対して選挙運動をするには学校の許可が必要だとしており、こうした扱いも若い世代を萎縮させるものだといえる。

そして、政権与党である自民党の態度にも問題がある。あろうことか、参議院議員選挙の期間中に、公式サイトで「政治的中立性についての実態調査」などというものを載せ、主権者教育における偏向教育の事例を集め始めた。審判を受けるはずの選挙の期間中に、投票行動に圧力をかけるようなこうした行為がなされるようでは、誰が主権者なのかがわからなくなってしまう。仮に主権者教育の実態を問題にしたいのであれば、選挙が終わってからにすべきだ。

◇主権者教育でなされるべきは何か◆

主権者教育を推進するためには、民主主義の理念に立ち返り、その理念に基づいて現実のあり方を問い直すことが必要だ。政権与党だけを批判するつもりはない。18歳選挙権は全会派が一致して賛成した制度である。

しかしながら、各政党は選挙権の在り方について国民的な議論をする努力をしたとは思えないし、準備期間が短いまま成人年齢等の課題には踏み込まずに性急に制度を変える法律を作ってしまったのは、国会全会派の責任である。17歳未満の表現の自由を不当に制限している公職選挙法にも手つかずのままだ。

このような状況で、どのようにして民主主義の理念を若い世代に教えることができるのだろう。
このように、18歳選挙権に関しては問題が多い。

民主主義とは、自分たちのことは自分たちで決めるという考え方である。主権者教育でなされるべきは、投票の仕方の伝授ではなく、選挙制度や成人年齢等の現状の制度の批判的検証と、望ましい制度設計の検討だ。ディベート教育等でなされているように、具体的な政治的課題に関して、立場を入れ替えて議論する等の教育が、主権者教育として求められるものである。
こうした教育の充実を図っていくことが必要だ。


 

注目教育時事本紙ニュース要約
18歳の投票率は51.17%

▽7月7日付3面/中教審委員の篠原文也氏に聞く=私は以前から、主権者教育の重要性を訴えてきた。福田康夫、麻生太郎両内閣で、総理直属の教育提言機関として設置された「教育再生懇談会」(平成20~21年)の中に、主権者教育ワーキング・グループが設けられた。その責任者を私が務めていた。

そこでまとめた提言では、政府の文章として初めて「主権者教育」の文言が使われた。この中の目玉の1つで、各政党に「子ども向け政策集(子どもマニフェスト)」の作成・配布を求めた。小・中学校の段階から社会に参画する意識を芽生えさせるのがねらいだ。

提言のなかのもう1つの目玉は、親子連れ投票。小さいころの体験は、その後の成長に大きな影響を与える。公職選挙法第58条の「やむを得ない事情がない限り」との文言では、地域によって解釈がまちまちで、投票所によっては子どもとの同伴ができなかった。だが、今回の改正で同伴が明確となった。ぜひとも活用してほしい。

教育の中立性を担保する方法としては、ドイツの制度が参考になる。ドイツでは「論争のある問題は論争のあるものとして扱う」などの中立三原則(ボイテルスバッハ・コンセンサス)を1976年に設けた。これを基に超党派議員による「監査委員会」が設置され、中立性が保たれているかチェックしている。日本でも同様の委員会を設け、政治家のチェックにより中立性を保つ必要があるのではないかと思う。

▽7月18日付1面/馳文科相が7月12日に閣議後会見=「18歳以上」によって行われた参院選に言及。高校などで主権者教育を受ける機会の多い18歳と、大学生や社会人が多い19歳で、投票率に大きな差があった。これについて馳文科相は「大学進学などで親元を離れ、住民票を移さず投票に行かない19歳が多いのではないか」と指摘。

総務省の発表によると、このたびの参院選での投票率は、18歳で51.17%、19歳では39.66%。両者の間には11.51ポイントもの開きがあった。この両年齢を合わせた平均投票率は45.45%。

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