(新しい潮流にチャレンジ)育成すべき資質・能力と実践課題

教育創造研究センター所長 髙階玲治

 

次期学習指導要領は「学びの地図」
○次期学習指導要領の構造化に向けて

次期学習指導要領の審議がかなり進展していて、8月1日には中教審教育課程企画特別部会が「審議のまとめ(素案)」を審議した。特に注目されるのは全ての教科等で「育成すべき資質・能力」を共通の要素として学力の3つの柱に具体化していることである。

このことが重要なのは、「育成すべき資質・能力」を掲げた今回の論議こそは、従来になかった未来型の教育として新しい発想があると考えるからである。

例えば、前回と今回の教育課程は「生きる力」を理念として掲げているが、各教科等の指導において、どの程度意識化されていたか不明である。学習指導要領そのものも、先の「論点整理」で指摘しているように「改訂を重ねるごとに各教科等の独自性が増していく状況」があったとされる。

しかし、各教科等が競って独自性や学習内容を増加させれば、授業時間がいくらあっても足りなくなる。むしろ、学習内容等を相互関連的に統合して効率化を図れば、少ない授業時間で指導の効果をあげることができる。必要なのは、「何を学ぶか」「どう学ぶか」「どう生きるか」という力の獲得である。

したがって、次期教育課程は「初めに育成すべき資質・能力ありき」である。各教科等の目標・内容・方法・評価などが、育成すべき資質・能力に向かって収斂される。そのような意図が強いと言える。新たな学習に転移できるための資質・能力として、何を身につけるか、学んで得た力を人生にどう生かすかが最も重視されるのである。

だが、それは安易な発想では不可能である。日常の教育指導の中で子ども個々に身につけるための実践的な方略が必要である。

○育成すべき資質・能力をどう考えるか

育成すべき資質・能力が初めて課題となったのは、文科省内の次期学習指導要領の検討会であろう。その「論点整理」(2014年)に、教科等の本質や固有の知識・個別スキルを超えた「教科等を横断する、認知的・社会的・情意的な汎用的スキル(コンピテンシー)」の提示がある。何が汎用的スキルかと言えば、例示として「問題解決、論理的思考力、コミュニケーション、チームワークなどの主に認知や社会性に関わる能力や、意欲や情動制御など主に情意に関わる能力などが考えられる」としていた。

ただ、「教科等を横断して学ぶ」考え方は現行の教育課程の「答申」(08年)にすでに示されていた。「教育内容に関する改善事項」であるが、「言語活動の充実」などと並んで「社会の変化への対応の観点から教科等を横断して改善すべき事項」がみられるが、その中に、情報教育、環境教育、ものづくり、キャリア教育、食育、安全教育、心身の成長発達についての正しい理解、があげられていた。

しかし、今言われている「教科横断」の考え方は、「○○教育」とは異なって「学んで得た力が他の課題解決に汎用できる」という性質が高いものである。認知や情意に関わる能力とされている。例えば、言語活用スキルが当てはまる。

当然ながら、今回の「審議のまとめ(素案)」においても「育成すべき資質・能力」は重要な課題とされて説明は多岐にわたる。例えば、「生きる力」の関連として、各学校段階や全ての教科等で育成すべき資質・能力を明確化すべきとされる。その場合、学力の3要素に基づく3つの柱が視点である。

(1)生きて働く「知識・技能」(2)未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」(3)学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」

以上の3つである。

このことが「育成すべき資質・能力」の基本であるとすれば、すべての学習活動に敷衍できそうである。だが、果たしてそれは可能であろうか。

○各教科等固有の「育成すべき資質・能力」

このような教育課程全体を視野に入れた「育成すべき資質・能力」に対して、それぞれの各教科等において固有の「資質・能力」の形成をどう考えているのであろうか。『中等教育資料』(学事出版)は7・8月号で「各教科等において育むべき資質・能力を考える」という特集を組んでいる(特集は継続)。中教審内の各教科等のワーキング・グループ(WG)の論議を説明しているのだが、すべてのWGは学力の3つの柱に基づく枠を設定して資質・能力を考えている。今回「審議のまとめ(素案)」の「各教科等関連部分」の資料にも含まれている。

そこで各教科等をみると、国語で重視しているのは、(1)創造的思考とそれを支える論理的思考の側面(2)感性・情緒の側面(3)他者とのコミュニケーションの側面——である。社会科は、(1)獲得する知識・技能(2)思考力、判断力、表現力等(3)主体的に取り組む態度と多面的・多角的な考察や深い理解を通して涵養される自覚や愛情など——としている。

算数・数学、理科、芸術関係もそれぞれ固有の資質・能力形成を示し、さらに学習過程のプロセス案を示すなど、授業との関連を明確化しようとしている。これらは極めて新しい発想ではないか。

そこで従来の学習指導要領に即して考えると、各教科は、(1)目標(2)内容(3)指導計画の作成と内容の取扱い——となっているが、次期学習指導要領は大幅に変わる可能性がある。他の資料として、例えば「解説」を学習指導要領に準じる格上げで示すことになりそうである。

○急速に変わる社会への対応として

ところで「教科横断」における汎用スキルの発想はどうなったであろうか。今のところ「審議のまとめ(素案)」でも具体的に示されていない。教科の素案がまとまった段階で次に行うべきことは「教科横断」の具体的な視点であろう。

例えば、国語WGでは「言語能力を構成する資質・能力(案)」とそれが働くイメージ案を提示している。私は以前から「言語活動の充実」について「言語能力の育成」として具体化すべきだと考えていたが、それが結実する動きである。「言語能力」が国語を基盤にして学年的な積み上げが図られるなら、他教科等においても横断的な指導が可能になる。「対話的な学び」やコミュニケーションの形成にはずみがつくのである。

このような作業を通して最終的な学習指導要領は「学びの地図」にしたいとする考えがみえる。活用度の高い学習指導要領である。果たして可能であろうか。

また、最近の社会的な動きは新たな課題への対応が浮かんでいる。例えば、AIによる教育への影響、プログラミング学習の具体的な導入など、将来における必要な資質・能力との関連で教育内容にどう盛り込むか、難題である。

育成すべき資質・能力の形成という新たな課題が学校に浸透し、教師に受容され、豊かな実践が生まれることを期待したいが、教育課程をめぐる過度の複雑さや困難度は学校を混乱させる。そうした状況に陥らないための見通しを持った中教審のさらなる審議に期待したいと考える。

あなたへのお薦め

 
特集