(新しい潮流にチャレンジ)状況に応じたリーダーシップ

教育創造研究センター所長 髙階玲治

 

適切なリーダー行動を求めて
○リーダーシップのあり方を探る

「あの人のリーダーシップはすごい」と、思わず感嘆の声を上げたくなる人がいる。その人に備わっている天性の力に思えることがある。特に企業では利益獲得が最も重要だから、会社のトップが変わって瞬く間に実績をあげることがある。かつて「リーダーは作られない。リーダーとして生まれる」と考えられていた時代があったという。

最近はリーダーシップ研究が進んで、誰もがリーダー行動を身につけることができる、と言われている。いったい、リーダーシップやリーダー行動とは何なのか。また、学校におけるリーダーシップはどうすれば成功するのであろうか。

学校は目標を持つ組織体である。その目標達成に向けて組織を動かす。トップに立つのは校長である。何よりも校長のリーダー行動が重要である。通常、リーダーシップには2つの側面があると言われる。

1つは、組織の目標を達成するための計画、問題解決、調整などを効果的に進めること(目標達成機能)。もう1つは、集団を構成する個々の価値を高め、集団としてのまとまりを醸成すること(組織維持機能)。この両者の歯車をうまく回さないとリーダーシップは機能しないと言われる。優れたリーダーは、この両者を巧みに融合させながら、組織を活性化させる。優れたリーダーシップは可能である。例えば、ある中学校長は、「反転学習」を提唱して教職員の積極的な参画を成功させた。また、ある小学校長は、問題解決的な手法によるアクティブ・ラーニングを実践展開した。

両者は共にイノベーション型の取り組みでありながら校内に定着させている。そこに確かなリーダーシップが存在していると考える。

○リーダーシップに定型はない

優れたリーダー行動をみると、リーダシップには一定の「型」があるように思える。その「定型」を身につければ誰もが優れたリーダー行動を発揮できそうである。

しかし、リーダーシップ研究はむしろ、どのような場や状況でも通用するような「定型がない」と考える。なぜであろうか。

結論を先に言えば、リーダーシップは「状況」次第だということである。状況によってリーダー行動を変える必要があるとされる。例えば、次のような例を考える。

(1)公開研究会の期日が決まっているのに教員たちが乗り気でなく、研究の成果も明確でない場合がある。この場合は、期日に研究会を成功させるために積極的なリーダーシップが必要である。目標達成機能を重視する。

(2)アクティブ・ラーニングの導入を研究として立ち上げた結果、教員たちが積極的に協働しはじめていた。情報を互いに提供し合い、授業研究も定期的に行われている。この場合は、校長の積極的なリーダー行動は必要がなく、むしろ教員たちがやりやすい環境についての配慮が必要である。縁の下の力持ち的感覚である。

リーダーシップには、「目標達成機能(Performance)」と「組織維持機能(Maintenance)」の両者が必要とされるが、その両者を構造的に示したのが、三隅二不二の「PM理論」である。PとMの機能の強さ・弱さから組み合わせるとPM、Pm、pM、pmの4象限になる。

先の例で言えば、(1)の場合はPmが必要である。(2)の場合はpmでもいい状況である。

つまり、リーダーシップはPMでなければならない、と固定的に考える必要はない。むしろ、どのような状況であるかを考えて適切なリーダー行動をとることが大切なのである。また、「PMが最高だから、校長がPなら教頭はMで」という奇妙な論を見かけることがあるが、同じ状況で相反するリーダー行動は混乱をまねくだけである。むしろ、どんな「状況」であるかを見抜く力が重要であって、それに対応した最も適切なリーダー行動をとるべきである。

それが「状況対応理論Contingency Theory」である。状況的リーダーシップと呼ぶ。

○状況的リーダーシップ・スキルが重要

私が「状況対応理論」を初めて知ったのは80年代である(青木武一『状況理論入門』パルス出版79年)。その理論は多くのやや固定化されたリーダーシップ論の中で実際に活用可能なように思えた。例えば4月当初、校長が新たなビジョンを掲げて校内実践を強力に推し進めようと考える場合、ビジョンの理解と徹底のためにPMとしてのリーダーシップが重要である。

やがてそのビジョンが教職員に受容されて共通認識・共通実践が可能になると、pMの対応で十分になる。さらに教職員が主体的で積極的な実践をするようになればpmの立場で校内の動きを支援することも可能である。ただ、そのような実践の過程で「たるみ」が生じることがある。その場合は、最初のビジョンに立ち返るようにPmを行うことが必要になる。

つまり、ビジョンの展開過程で「状況」が変わったのである。変わった状況の中で同じスタイルのリーダー行動を行っても効果がない。むしろ、状況に適合していないとマイナスの結果が生まれやすいのである。このようにリーダーシップは「状況」によって変えられる柔軟性が必要である。何よりも「状況」の適切な判断が重要である。

学校は教育目標に即して毎日の実践を行っているのであるから、特別なビジョンを掲げなくとも、日常的な課題への対応としてリーダーシップが必要である。例えば、学力向上、学校行事、危機管理、生徒指導など多様な場面で効果的な活動や指導ができるようにリーダーシップが求められる。学校の教育目標や年度重点目標の達成のみでなく、多様な課題解決に向けた適切なリーダーシップが必要とされている。

また、リーダー行動は校長一人の役割ではなく、副校長以下、主任等のリーダー行動も求められる。学校という組織を動かすためにはリーダー行動の重層化が必要とされるのである。

ただ、「状況的リーダーシップ」で求められるのは、どのような「状況」で、どのようなリーダー行動を適切に行うか、という柔軟な実践力を必要とする。そのため、経験の積み重ねや経営の図書に学び、リーダー行動をマスターするよう努力する。リーダーシップもまたスキルが必要である。

○リーダーシップ・スキルを柔軟に

状況に応じたリーダー行動は組織を動かすスキルを必要とするが、基本としてのリーダーシップは、ジョン・P・コッターがいうように、(1)方向性を定める(2)一丸となる(3)士気を高める——などが必要である(本稿27年10月19日)。それと同時に、忘れてはならないのは、「ついつい見過ごされがちな人間関係上の必要性、価値観、感情などを訴えかけ、モチベーションやエンパワーメントを推し進める」方略である。

例えば、アメリカの例であるが、1つの教育実践の試みを教委と学校のトップとで共同で推進しようとして見事に失敗した事例がある。しかし、失敗の原因を探ってみると貴重な要因が見いだされたのである。

(1)提案された試みがいかに必要性が高いと考えられても、一度や二度の提案で教員に受容されるとは限らない。教員の理解や受容には差がみられる。
(2)教員が新しい試みを受容しても、やり遂げる能力に上手・下手があって共通実践はすぐには生まれにくい。
(3)新しい試みには情報や資料が必要だが、それが十分用意されているとは限らない。
(4)新しい試みは現行の組織で対応できるかどうか十分な検討が必要である。
(5)それら4つの条件が満たされても新しい試みを達成するためには、教員たちの大きな「労力」と多くの「時間」を必要とする。

リーダーシップには、このような状況判断に基づく柔軟で適切な対応が必要である。コッター教授が述べているように「インフォーマルな人間関係を重視する」という姿勢もまた大切である。

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