(注目の教育時事を読む)第29回 審議まとめ(案)

千葉大学教育学部副学部長 藤川大祐の視点

 

どこまで「引き算」できるか
次期要領に向け盛りだくさん
◇学校現場の現実との間に大きな溝◆

本紙電子版8月1日付は、同日、中教審の教育課程部会教育課程企画特別部会が「次期学習指導要領に向けたこれまでの審議のまとめ(素案)」を出したことを報じている(紙面では8月4日付)。

この「まとめ(案)」では「社会に開かれた教育課程」の実現が掲げられ、アクティブ・ラーニングの視点から学習過程の改善方策が示されており、小学校での外国語教科化やプログラミング教育の必修化、高校における科目再編、カリキュラム・マネジメントの推進等が盛り込まれている。この盛りだくさんの「まとめ(案)」を見ると、学校現場の現実との間の大きな溝に、愕然とさせられる。

「まとめ(案)」では冒頭から、「進化した人工知能が様々な判断を行」うなどの社会の「加速度的な変化」の中で、こうした変化の激しい時代における学校教育のあり方を論じている。そして、学習指導要領には、指導内容だけでなく「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」という視点も盛り込むとして、「アクティブ・ラーニング」や「カリキュラム・マネジメント」といった言葉が並ぶ。

他方、学校現場はといえば、教員は相変わらず多忙を極め、条件の悪い臨時的任用による教員が多数を占めていたり、管理職希望者が大幅に不足していることが大々的に報じられたりしている。

公立学校の教員の給与は、特例で他の地方公務員より高額であるものの、残業手当がつかないために、勤務時間に見合った給与が出ているとは言い難く、「ブラック」な仕事と呼ばれてしまっている。民間から教育に参入する人たちは、口を揃えて、教員の給与をもっと高くすべきだと言う。

今後は、教員の多数を占める50代教員が続々と退職し、経験の少ない若い教員が現場で大多数を占めるようになり、これまでの教育の質を維持することすら困難な状況が続く。

◆学習指導要領の形骸化が懸念される◇

今回の「まとめ(案)」は、学校や教員が新たに取り組むべきことを非常に多く盛り込んでいる。

では、その分、何かを減らしているのかというと、学習内容の削減は行われないと明記されており、時間数も減らない。いわゆる「ゆとり教育」路線の際の内容や時間数の削減への非難がトラウマになっているのか、増やすこと一辺倒である。

結局、今回の「まとめ(案)」は、多忙で疲弊し、待遇も悪い教員たちに対して、行うべきことをいっさい軽減しないままに、新たな課題を課しているということになる。そこには、社会では当然あるはずの、選択と集中、あるいはスクラップ・アンド・ビルドの発想はない。

社会が変化していく中で、学校への期待がふくらむのは当然だ。だからこそ、必要なことをすべて加えていく「足し算」でなく、優先順位の低いものを削減していく「引き算」の発想が必要であるはずだ。学習指導要領が確定するまでに、少しでも「引き算」がなされることを願いたい。

仮にこのまま学習指導要領が定められた場合に懸念されるのは、学習指導要領の形骸化だ。学校の教員は基本的に真面目であり、子どもたちのために必要と実感できることにはできる限りの努力をする。しかし、まさに教員の真面目さゆえに、子どもたちのためになることが見えにくい部分については、取り組みが形骸化しやすい。

過去の例としては、内容が学校に丸投げされる形となった「総合的な学習の時間」が、一部の学校で形骸化し、教科の授業の補習や受験指導に使われたことが挙げられる。何をしてよいかわからず、目の前の子どもに直接役に立つかどうかわからない新たなことを行うのでなく、目の前の子どものためになることが実感しやすい補習や受験指導を行うことが、当事者の教師たちにとっては合理的であったのだろう。

◇形だけは百害あって一利なし◆

このまま「引き算」なく「足し算」のみでアクティブ・ラーニングやカリキュラム・マネジメントが学習指導要領で強調された場合には、同様の形骸化が懸念される。こうしたことは形の上でだけやっていることとしておき、従来から行っている学力向上の取り組みを地道に進めるのが子どもたちのためになると考える教員が多くなるだろう。

だが、形だけのアクティブ・ラーニングやカリキュラム・マネジメントなど、百害あって一利なしである。学校は、たとえ学習指導要領に「引き算」がなくても、学校ごとに業務を見直す「引き算」を検討すべきだ。

たとえば、授業の中で子どもたちにはぼんやりしている時間や何かを待っている時間が多いはずであり、そうした時間を極小化できるよう、動機づけや協働学習での工夫をはかり、多様な子どもたちがそれぞれ効率的に学習を進められるようにし、従来型の授業の時間数削減をはかるのである。新たなことを導入するための余裕を、授業の効率化という「引き算」によってつくりだすのだ。

「まとめ(案)」は、「足し算」ばかりの総花的内容だ。学習指導要領も学校も、どこまで「引き算」ができるかを問われている。


 

注目教育時事本紙ニュース要約
次期要領で審議まとめ(案)

次期学習指導要領の「審議まとめ(案)」が、8月1日に開かれた文科省教育課程企画特別部会で示された。「社会に開かれた教育課程」の実現を掲げ、アクティブ・ラーニング(AL)の視点から学習過程の改善方策が示された。

小学校では高学年で外国語教科化や「プログラミング的思考」を育成するプログラミング教育の必修化。中学校では義務教育9年間を見据えた資質・能力の育成。高校では高大接続を見据えた高校の国語、地理歴史、公民などで科目再編が行われる。

またALの実施に伴い、有識者からは「学習内容の削減が必要ではないか」との懸念の声があがっていたが、これについては「削減は行わない」と明記された。

8月中には「まとめ」を出す見通しで、パブリックコメントを経て、年内の答申を目指す。

審議まとめ(案)には、各教科ワーキンググループでの審議内容が集約されている。

育成すべき資質・能力としては、▽知識・技能(何を理解しているか・何ができるか)▽思考力・判断力・表現力等(理解していること・できることをどう使うか)▽学びに向かう力・人間性等(どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか)——の3つの柱が示された。

これらを育成するために、アクティブ・ラーニングの活用が推進される。これにより、自ら学習に向かう「主体的な学習」、児童生徒同士や教員、地域の人々らと協働的に学習する「対話的な学習」、習得した知識、考え方を活用し、問題を発見したり解決したりする「深い学び」の3つの実現を図る。

学習指導要領の柱となる小学校総則には、改善のイメージ案が明示された。学力3要素や学習習慣などを求める「生きる力」の理念に基づく知徳体の総合的な育成、創意工夫を生かした弾力的な時間割の重要性などを記述。学校教育改善・充実の好循環を生み出すための「カリキュラム・マネジメント」を促す。

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