(注目の教育時事を読む)第31回 教員の養成採用研修一体改革

藤川大祐千葉大学教育学部副学部長の視点

 

何を解決しようとしているのか どの意味で資質向上になるのか

本紙10月24日付紙面は、「教員の養・採・研一体改革関連法案が閣議決定」の見出しで、文部科学省が教育公務員特例法改正案等の関連法案を作成し、これらの法案が近く国会に提出される見込みと報じている。(電子版では10月18日付)

このたびの法改正の発端とは、昨年5月の教育再生実行会議第七次提言「これからの時代に求められる資質・能力と、それを培う教育、教師の在り方について」であった。情報技術の発展やグローバル化等の変化を想定し、こうした時代を生き抜く人に必要とされる資質と、そうした人たちを育てる教育を実践できる教師の養成、確保について論じられたものだ。

注目すべきは、第七次提言では「教師に優れた人材が集まる改革」との言葉が見出しに掲げられており、「国として、改めて教師に優秀な人材を求めるという姿勢を明確に打ち出す必要があります」と、もともと優秀な人が教師を目指すようにするということが述べられていたのであった。

しかし、この議論が中教審に引き継がれると、なぜかテーマが「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」となり、あたかも現状では教員の資質能力が不足しており、教員の資質能力を高めなくてはならないといわんばかりの書きぶりとなっている。当然、今回の法案でも、「教員の資質向上」が中心課題として挙げられている。

発端である第七次答申では「我が国の教師は、研修意欲が高く、教師間での授業研究がよく行われているとされており、今後もこうした存在であり続けることが重要です」と述べられており、日本の教員の資質は基本的に高いのを前提に教員が働く環境や処遇の改善が必要といわれていた。

もちろん、教員の資質能力を向上する努力は不断に必要であり、地方公共団体や大学が協議会を構成し、教員の指標を定め、研修計画を立てること自体はよいであろう。今回の法改正を機に、地方自治体や大学が協力して、教員の資質向上にこれまで以上に尽力することはあってよい。

だが、忘れてはいけない。教育再生実行会議が論じていたように、日本の教員が働く環境は劣悪であり、学校は多くの人に「ブラックな職場」だと思われている。教員の資質能力以上に、学校という職場の環境改善や教員の処遇改善が急務のはずだ。教員の資質向上ばかりが強調されることによって、教員の環境や処遇の改善が置き去りになるようなことがあってはならない。

今回の改正法の内容を見ていこう。重要な柱の一つに、文部科学大臣による「指針」の作成が設けられている。この「指針」は、各地域で地方自治体が大学等と協議して作成することになっている「資質の向上に関する指標」の策定において参酌されるものとして位置づけられている。あくまでもトップダウンで教員の資質能力について指針を設けるのである。

だが、このようなトップダウン型のやり方は危険である。そもそも、各自治体にとっては、教員の資質を高めることは最重要事項の一つであり、国から言われなくても、これまでもできることは積極的に行ってきたはずだ。教育再生実行会議でも論じられていたように、各学校で校内研修が行われたり、教育センター等で継続的に研究ができる研究院制度を設けたり、教職大学院等に派遣する制度を設けたりと、教員の資質向上に資する策はさまざまに設けられている。

こうした各地での努力があるにもかかわらず、トップダウンで文部科学大臣が「指針」を定める必要があるのかどうか、検討が必要である。

次に、教育職員免許法の改正について見よう。従来あった「教科に関する科目」と「教職に関する科目」の区別が撤廃され、「教科及び教職に関する科目」とされている。これが具体的にどう運用されるかは同法施行規則案の公表を待たなければわからないが、これまでのいわゆる教科専門科目と教科教育法との区別を廃止していこうという方向で改正がなされていることは間違いない。

たしかに、これまで教科専門科目と呼ばれていた科目は、ともすると単に各学問領域における専門科目が指定されているだけで、学生が教員となっても授業実践になかなか結びつかないものが多かったかもしれない。だが、教科専門科目と教科教育法との分裂が、教員の資質とどう関わるのかは、必ずしもはっきりしない。教科専門科目と教科教育法の統合がいかに教員の資質向上につながるといえるのか、もっと議論が必要ではないか。

教員の資質が向上するほうがよいのは当然であり、誰も反対しないであろう。だが、教員の資質向上の名の下で打ち出された具体策が、いかなる意味で教員の資質向上につながるのか、何を解決しようとしているのか、慎重な検討が必要であろう。


 

注目教育時事本紙ニュース要約
教員の養・採・研一体改革

教員の養成・採用・研修の一体的な制度改革を行う関連法案が閣議決定されたと、松野博一文科相が10月18日の会見で明らかにした。近く、これらの関連法案が、国会に提出される見込みだ。

会見で松野文科相は、関連法案について、「今年度内に告示される次期学習指要領に合わせ、その考え方と内容を実現するのに必要な教員の資質・能力を身に付けてもらうため、教員研修や養成などに向けて、関連する法律を改正する」と説明した。

松野文科相は法改正に関連して、教員の資質・能力の基準となる「大臣指針」に触れて、「この指針は、細かい点を規定するものではなく、大綱的なものとなる」とした。指針の具体的な内容に関しては、今後、検討していく意向を示した。

関連法案では、教育公務員特例法の一部を改正する。文科相が示した「教員育成指標」を参考にしながら、各都道府県・政令市教委が、それぞれ独自の指標を策定していく。これを検討する会議として、教委と大学などが構成員となって組織する「教員育成協議会」を設置する。

これまでの十年経験者研修を見直して、教職経験年数によらずに研修が受けられるようにする。これは、学校運営上で重要な役割を果たすミドルリーダーを育成するのがねらい。

教職員免許についても一部を改正する。教員養成大学で、これまでの教育に関する科目と教育課程および指導法に関する科目を統合し、「教育の基礎的理解に関する科目」を新設する。

また小学校高学年で外国語(英語)が教科となるのを受け、小学校特別免許状を創設する。

さらに、独立行政法人教員研修センター法の一部を改正し、独立行政法人教員研修センターの名称を「教職員支援機構」に変更。同機構は、教員研修だけでなく、養成と採用に係る基幹的な部分の構築に関わっていく。

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