(教育時事論評)研究室の窓から 第18回 ネットワークによる学び

国立教育政策研究所研究企画開発部総括研究官 千々布敏弥

 

大阪教育大学大学院(連合教職実践研究科)が主催する指導主事フォーラムに講演者として招かれ、参加してきた。私が長年、指導主事との交流を深め、統計調査なども行っているのを評価していただいたようだ。

同大学院には、大阪府下の指導主事、教員が勤務形態を変えずに、夜間に学生として通ってきている。大学教員は帰宅が深夜になるのが珍しくない。夜間講座を主とする教職大学院は少なくない。いずれでも担当教員の献身的な努力によって(仕事が増えるばかりで研究費は削減されているそうだ)プログラムが成立している。受講する現職教員のみなさんもたいへんだ。通常どおりに勤務した後に天王寺キャンパスに集まってきている。

担当の冨田福代教授によると、このフォーラムは大学院生が企画・運営しているという。教育センターに勤務している大学院生もいるため、慣れたものだろう。しかも、各地で実践されている教員の学びの場を参考にしてそれをバージョンアップさせている。プログラムは、私の講演とラウンドテーブルで構成されていた。

ラウンドテーブルは、福井大学教職大学院が開始したものをヒントにしている。福井大学のラウンドテーブルは3~4人のグループの参加者ほぼ全員が話題提供者となり、それぞれの実践を報告しながら各自の振り返りを深めている。

昨年度に開催された第1回指導主事フォーラムは福井大学方式を範とする印象が強かったが、今年度は話題提供を教育委員会の指導事例とするなど、新しい試みが多く取り入れられていた。新しい試みの一つはホワイトボードの使い方だ。ファシリテーション研修やESDなどで多用されているホワイトボードミーティングの手法を取り入れたようだ。途中でメンバーを入れ替えるワールドカフェ方式、他にも参照している研修手法があると思われる。

新しいものはネットワークから生み出される。研究者の先行研究レビューはその典型だろうし、実践もそうだ。優秀な教員ほど他の教員や学校の授業を見ている。教育の世界では国が主導するものが多いが(新教育課程に基づく学習指導などが典型だろう)、国が発案する段階で現場の優れた実践を集約している。文部科学省の担当者はいかに優れた実践家や研究者とのネットワークを構築できるか、日々努力している(特に若手職員にその傾向が強いと感じる)。

多くの教職大学院が範とする福井大学は、伝統的研究校に学んでいる。創設期のメンバーによると、同大学院のプログラムを構築する際は、富山県富山市立堀川小学校や長野県伊那市立伊那小学校など子供の学びに焦点を当てて教師の振り返りを重視する学校の研究スタイルに学ぶところが多かったらしい。それに創設期のコアメンバーがそれぞれの強み(社会教育学、心理学等)を持ち寄って福井大学のラウンドテーブルのプログラムが完成した。

福井大学が範とした長野県の教育は、大阪教育大学の冨田教授も長年研究している。優れた実践に学んだ個人や組織が、新たな実践を生み出している。

ラウンドテーブルは、全体で一つの結論を目指すことはない。それぞれのグループディスカッションで個の学びを交流して、グループの学びとする。グループの学びは、またそれぞれ参加した個に吸収されていく。吸収され方は個により異なる。そのような学びのスタイルがこれからの時代にふさわしい。

なにをやるべきか、国が指示してくれないと現場はうまく動けないと訴える教員や教育委員会関係者はいまだに多いが、その意識を変える必要がある。どうやって変えるか。自らネットワークの一員となり、触手を伸ばしていくのだ。他に影響され、影響を与えているうちに自らが変わっている。これからの学びはそのようなものだろう。

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