(教育時事論評)研究室の窓から 第19回 福井県の指導主事訪問

国立教育政策研究所研究企画開発部総括研究官 千々布敏弥

 

授業研究の核となっている

福井県敦賀市を訪問する機会を得た。福井県は敦賀市を含め、市町村教育委員会の学校訪問が充実している。ほとんどの市町村で指導主事が年に2回訪問している。訪問頻度が同程度の教育委員会は他県にもあるが、福井県の特徴は、指導主事訪問が学校の授業研究の核となっていることである。指導主事が訪問する日程は市内の学校に通知されており、研究授業と協議会には他校からの参観者も参加する。さながら公開研究会の雰囲気なのである。

当該校の教員たちは、研究発表会に近い準備を行う。通常授業の略案と研究授業の指導案を用意するのは当然だし、校内研究計画とその中間報告もA4判8ページにわたってまとめられている。研究授業(指定授業と称している)の指導案は、A4判3ページと簡素だ。以前はもっとページ数が多かったそうだが、検討した結果、現在のフォームに落ち着いているとのことである。指導案を含む訪問資料は1週間前に教育委員会に提出されている。

敦賀市の指導主事が通常授業の参観と指導をどのように行うかを観察するのが、このたびの訪問の目的であった。通常授業の参観は3校時と4校時にかけて行われた。1時間で参観する授業は8クラスである。1教室5分少々しか時間をかけることができない。訪問した指導主事は算数の指導主事と理科の指導主事の2人である。理科の授業は1クラスだけ公開され、残りは算数の授業であった。2人ともそれぞれに全教室を参観するとのことだった。私は算数の指導主事の後を追った。

指導主事は1教室3分少々で参観し、次の教室に移動していた。彼の視線は教師、黒板、子供、子供のノートに向かっていた。教室の掲示物は後で余裕があるときに見るとのことだった。3階建ての校舎を1階から順に登っていった。最後の6年生の教室を参観した段階で10分弱の時間が残っていた。私はそこで指導主事を追うのをやめ、三角柱の体積を求める子供たちの姿を楽しんで授業終了まで過ごした。4限目まで10分の休憩時間があるため控え室に戻ったが、誰もいない。あわてて廊下に出ると、2人とも廊下の掲示物や休憩時間の子供の様子を観察していた。私が追っていた指導主事は最後の10分弱の間に8教室をもう一回巡っていたと聞き、大変後悔した。

4時間目は2巡目の指導主事の視線を追うことを主眼に、後を追った。今度は15分近く残して1巡目が終わった。再び1階まで降りて最初と同じ順で各教室を巡っていった。スニーカーを履いて軽やかに早足で歩く指導主事を追っていると、足がつりそうになった。指導主事が2巡した理由は、講評の時間に明らかになった。

「○年○組、挨拶の後、子供がすぐにノートを開いていました。切り替えが早いと感じました。○年○組、テンポのいいスタートでした。『けんたさんは何番目の車に乗りますか』という課題では、けんたさんの前に並ぶ人数の情報の与え方を工夫すると子供をもっと引き付けることができたと思います。○年○組、教師の子供の中への入り方がいい。終了時の子供の姿勢が前半よりよくなっていました。休憩時間の椅子の背もたれが他の教室よりも揃っていました。○年○組、答えの単位がリットルなのかデシリットルなのか、小数で示すべきなのか、子供の反応がよく出ていました。普段から意識させているためだと思います。○年○組、最初の参観時に『わからない』とつぶやいていた子が、最後のまとめを発表していました。教室を離れていた間にその子がどのように学んだのか、大変気になりました」

このような講評を、その日参観した全授業に関して伝えたのである。校内研究のテーマについても、ここまでの成果を褒め、さらに深めるための視点を与えていた。私は授業を見る目はそれなりに鍛えているつもりであったが、その指導主事には完敗だった。

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