(注目の教育時事を読む)第33回 今年の学校教育を振り返る

藤川大祐千葉大学教育学部副学部長の視点

 

いじめへの無策は未必の故意
包摂が教育観の大転換求める

2016年。世界は相次ぐテロ、そしてイギリスのEU離脱やアメリカのトランプ旋風に代表される自国中心主義で、大きく揺れた1年だった。日本においては、熊本をはじめ、鳥取、福島でも地震の被害が生じ、東京都で小池百合子知事が誕生して築地市場移転問題や東京オリンピック・パラリンピック会場問題が注目された。

学校教育に関しては、第二次安倍内閣発足以降、教育再生実行会議で審議された事項が次々と実行レベルに移され、教育職員免許法等の改正や学習指導要領の改訂等が進められている。

こうした中、私は今年の振り返りとして、いじめ防止対策とインクルーシブ教育の2点を取り上げたい。

まず、いじめ防止対策について。

2011年、滋賀県大津市の中学生がいじめを背景に自殺し、この件に対する学校等の対応が問題になって以降、2013年にいじめ防止対策推進法が制定、施行され、組織的・計画的ないじめ防止対策が進んだはずであった。

今年、大津の事件から5年が経ち、遺族から指摘があったのは、「5年前と状況は変わっていない」「風化を懸念」といった言葉であった。

文部科学省では、いじめ防止対策協議会において、重大事態の定義の明確化の検討をするなどの議論を始めている。だが、こうした動きにもかかわらず、相次いで学校や教育委員会へのいじめ問題への対応の甘さが露呈する事態が明るみに出ている。

特に、横浜市や新潟市で明らかになった福島県から避難していた子供に対するいじめの問題は、いじめ防止対策がまだまだ不十分であるのを印象付けた。

横浜市では、被害者がいじめを訴えていても、学校も教育委員会もほとんど対応をしてこなかったことが報道されている。こうした報道の通りであれば、学校や教育委員会の対応は、なすべきことをなしていない「未必の故意」として厳しく批判されるべきだ。

新潟市では、担任教員が自主避難してきた児童に「菌」と呼んだと言う。当該教員は「親しみを込めた」と報道されているが、これまで繰り返し問題になってきた教員によるいじめへの加担となってしまっている。

この他にも、東京学芸大学附属高校において骨折をさせるなどの事案が放置されていたり、熊本市教委がいじめ自殺の報告書を被害者側に無断で加害者側に渡したりと、いじめ問題への対応が不適切である事例が繰り返し報じられている。

もちろん、真摯にいじめ防止対策を行っている学校は多いはずだ。だが、このように深刻な事例が次々と明るみに出るということは、こうした事例以外にも、いじめ防止対策が不十分で、いつ問題が大きくなっても不思議ではない状況が多く生じているのを意味しているはずだ。

次に、インクルーシブ教育について。

2007年、国連において障害者権利条約が採択され、日本は障害者基本法の改正や障害者差別解消法の成立を経て2013年、この条約への批准を国会において承認している。障害者権利条約は、第24条で教育について定めており、障害のある人がインクルーシブ教育システムの下で良質な教育を受けられる機会を与えられ、合理的な配慮が提供されるべきことを定めている。

インクルーシブ教育システムとは、条件の異なる人を排除(エクスクルージョン)することなく、社会の構成員として包摂(インクルージョン)する教育制度をいう。

今年4月に施行された障害者差別解消法は、行政機関や事業者に対して、障害を理由とする差別を禁止するとともに、社会的障壁の除去に関して「合理的な配慮」をすべきことを定めている。合理的な配慮の提供は、私立学校では努力義務であるが、国公立の学校では法的義務となった。

こうしたインクルーシブ教育への移行は、多くの教育関係者にとって教育観の抜本的な変化を求めるものである。教師の多くは、自分では学校に適応しやすい子供であった場合が多いと考えられ、ともすると、自分と同じような子供たちに合わせた授業を行う場合が多かったかもしれない。

だが、インクルーシブ教育においては、他の多くの子供と同じ方法では学ぶのが難しい子供が、他の子供たちと同様の内容を学べるようにすべきことが求められる。言わば、学級を、同質的な子供たちの集団でなく、かなりの多様性を含んだ集団として見ることが求められている。

現在、教育雑誌や研修会では、インクルーシブ教育関係の企画の人気が高く、現場の教師たちのニーズが高いのがうかがわれる。だが、現在はまだ、アンテナの高い一部の教師たちが学ぼうとしているにすぎない。法律は施行されたものの、インクルーシブ教育への対応は、まだまだ、2017年以降の課題である。


注目教育時事本紙ニュース要約
原発いじめ/インクルーシブ・合理的配慮

原発事故で福島県から横浜市に自主避難し転入した市立小学校でいじめを受けて不登校になった、現在、中学校1年生男子生徒の問題について、横浜市役所に11月21日、文科省の義家弘介文科副大臣が訪れ、林文子市長や岡田優子教育長らと面談した。また同日、学校と教委がすぐに取り組む事柄を、全市立学校に通知した。

教職員に向けては「この機会に、改めていじめ防止の取組の総点検を行ってください」「児童生徒一人ひとりへの理解を深め、校内体制に不備がないか再点検して、いじめ問題等への取組の徹底をお願いします」とした。学校長等に向けては第三者委からの提案として、▽個々の児童生徒に沿った教育支援体制を確立する▽情報共有・組織的な対応ができるようにする▽保護者とのコミュニケーションを日常から活性化できるシステムを確立するなどを示した。教委事務局としては、(1)いじめ重大事態への適切な対応(2)教育委員会事務局各部署の役割の明確化(3)研修の充実を挙げた。

新潟市でも、福島県か自主避難した同市立小学校4年生男子児童が、同級生からいじめを受けていた。これには、40代男性の担任教諭も関与しており、呼名に際して「菌」を付けていた。松野博一文科相は12月9日の閣議後会見で、担任の対応について「極めて問題。不適切な言動を防ぐ取り組みをしてもらいたい」と、各教委に向けて再発防止を促した。

今年4月に施行された障害者差別解消法に関連して、文科省の障害のある学生の修学支援に関する検討会の第8回会合が11月30日、同省で開催された。事務局は第二次まとめ案を提示。障害学生支援では障害の有無にかかわらず、大学などが学生に行う多様な教育的支援が不可欠とした。インクルーシブ教育の視点から、こうした教育的支援は重要な課題である。ただ合理的配慮の決定手順について委員からは「慎重に考えていく必要がある」との意見が出た。

あなたへのお薦め

 
特集