(注目の教育時事を読む)第34回 教員の多忙化解消

藤川大祐千葉大学教育学部副学部長の視点

 

◇大きなリスク要因となっている◆

本紙電子版1月6日付(紙面版1月16日付)は、「教員の多忙化解消へ 業務適正化で重点モデル地域指定」として、文科省が教員の多忙化解消に向けて、モデル地域の指定や「業務改善アドバイザー」派遣等を行うことを報じている。

こうした文科省の一連の施策の中で、運動部を中心とした部活動のあり方を見直す策が位置づけられている点に注目したい。具体的には、「運動部活動に関する総合的なガイドライン(仮称)」の策定、外部指導者が遠征等の引率をできるようにする「部活動指導員(仮称)」の位置づけの設定を進めるとともに、中学校における運動部活動に休養日を設定するのを求める通知を出すといったことが行われている。

当然ながら、こうした動きの背景には、深刻化している教員の多忙化の問題と、特に中学校で教員多忙化を部活動指導が深刻化させている状況がある。中学校段階の教員を対象としたOECD国際教員指導環境調査(TALIS2013)によれば、日本の教員の1週間あたりの勤務時間は53.9時間であり、参加国平均の38.3時間を大きく上回り、最長である。勤務時間のうち授業の時間は参加国平均より短いが、課外活動(スポーツ/文化)の時間が圧倒的に長い上に、事務業務や学校運営業務の時間も長い。

教員の勤務時間は過去の調査と比べても大幅に増加しており、精神疾患による休職者や離職者も激増しているので、教員の多忙化対策は喫緊の課題となっている。教員が多忙であれば、児童生徒の学力向上や生徒指導等に余裕をもって取り組むのは困難になり、力量向上のために自主的な研修の機会を設けるのもままならない。深刻化する教員の多忙化は、教員自身にとっても児童生徒にとっても大きなリスク要因となっている。

◇位置づけは教育課程外の活動◆

こうした状況を踏まえれば、文科省が教員の多忙化解消に向けた取り組みを行うべきなのは当然で、中学校を中心とした部活動指導の負担軽減が重視されるのも理解できることである。

そもそも、中学・高校の部活動は、教育課程外の活動である。かつて学習指導要領では教育課程内の特別活動としてクラブ活動が位置づけられており、これと部活動が2本立てで設けられていた。しかし、平成元年改訂の学習指導要領からクラブ活動は部活動をもって代替できることとなり、平成10年(高校は11年)改訂の学習指導要領でクラブ活動は廃止され、部活動に一本化されている。中学・高校の部活動は一貫して課外活動として位置づけられてきたのだが、担当する教員にも参加する生徒にも、授業と同等、あるいは授業以上に力を入れて取り組んできた部分がある。

当然、教員には他の業務が多く、課外活動である部活動に力を入れれば、多忙化は避けられない。

国際的に見ても突出的に時間が長い部活動の指導時間を短縮することは、教員の多忙化解消策として間違いなく重要である。だが、部活動の指導時間を短縮するにはかなりの困難が生じると考えられる。このことは、部活動の実態を見れば理解できるであろう。

現状では特に中学校で、一部の教員および生徒には部活動に精力的に取り組むインセンティブが強く働いている。教科担任制をとる中学校では、たとえ学級担任であっても教員が授業で生徒と接する時間は限られているが、熱心な部活動であれば教員が生徒に密接に関わって指導することが可能である。そして、運動部の場合には大会での勝利が活動の主な目標となり、強くなるために多くの時間を使って練習するのは当然とみなされるようになる。

受験につながる教科学習で努力するのは個人の課題であるが、部活動で努力するのは学校や地域の名誉を背負う課題となり、周囲から高く評価されやすい。

そもそも中学校教員には部活動指導が大きな位置を占めることを前提に職業選択をしている者が多いはずであり、部活動指導に生きがいを感じている者が少なくないと考えられるので、仕事の中で部活動の占める割合を減ずることには抵抗感がある場合が多いはずである。

◇考え方を大胆に修正◆

部活動の指導を外部に委ね、学校は教科指導と生徒指導に注力するという方向性は、教員の多忙化解消に向けて避けては通れない道だ。だが、こうした策を実質化するには、教員、生徒、保護者や地域住民の部活動についての考え方を大胆に修正することが伴わなければならない。一部の教員が部活動に強いやりがいを感じ、一部の生徒が大会での勝利等のために部活動の時間を多く取りたいと考え、保護者や地域住民もそうした部活動のあり方を望ましいと考えるならば、部活動の指導時間を限定するのは容易ではない。

少なくとも、教師や保護者等の大人が、かつて自分たちが憧れた部活動中心の学校生活へのノスタルジーと決別することができるかが、問われている。


注目教育時事本紙ニュース要約
多忙化解消でモデル地域

文科省は来年度から、教員の多忙化解消に乗り出す。各学校の課題を踏まえ、業務改善に向けた重点モデル地域を指定するほか、学校や教委に「業務改善アドバイザー」を派遣する体制を整える。運動部活動については、適切な練習時間などを定めるガイドラインを策定する。さらに1月6日付で、中学校の運動部活動に対して休養日を設定するよう都道府県教委に向けて通知を発出した。

同省は、全国の教委の実情に合わせて業務改善を図る「学校現場における業務改善加速プロジェクト」を推進する。20地域を重点モデル地域に指定し、3月には、公募を開始する見通し。同地域では、小・中学校を対象に時間外勤務の削減や、授業以外の業務に関してアウトソーシングするなどの業務改善を提案する。これには加配教員の配置も検討している。

これとは別に、文科省内に「学校環境改善対策プロジェクトチーム」を創設。教委の依頼に応じて、学校などに業務改善アドバイザーを派遣する取り組みを開始する。アドバイザーには、学校マネジメントを専門にしている大学教員などが想定されている。

教員の多忙化の一因となっている運動部活動では、総合的な調査を実施し、スポーツ医学・科学を取り入れた適切な練習時間や休養日を含めた「運動部活動に関する総合的なガイドライン(仮称)」を策定する。外部指導者が1人でも遠征などに引率できるように学教法施行規則を改正し、「部活動指導員(仮称)」を位置付けるためにパブリックコメントを実施する。

また今年度の「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」(全国体力テスト)で、2割超の中学校が運動部活動に休養日を設けていない実態が明らかになった。指導に当たる教員の負担軽減を図るために、文科省とスポーツ庁の連名で、休養日を設定するよう1月6日付で通知を出した。

同日の閣議後会見で松野博一文科相は、教員の多忙化解消に向けた施策に関して、「教育現場では喫緊の課題。業務の適正化を進めなければいけない」と訴えた。

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