(新しい潮流にチャレンジ)答申をどう読み解くか

教育創造研究センター所長 髙階玲治

 

学びに向かう力の育成が重要
○答申は何を目指すか

中教審は学習指導要領改訂に向けた答申(案)を昨年12月15日に公表し21日に答申した。これによって主に2020年以降のわが国の学校教育の在り方がほぼ確定したと言える。わが国の教育はどう変わるのか。答申を読み解き、これからの教育の在り方を考えたい。

現行の場合は08年1月17日に答申が公表。解説を編集した関係で、今回も多大の関心を持つ(高階編『中教審「学習指導要領の改善」答申』(教育開発研究所2008)。

前回の答申の場合、何が基本的な課題であるかは極めて明確であった。それまでの「ゆとり教育」からの脱却だ。その大きな転換のために授業時数を大幅に増やす教科がみられ、教育内容にかかわる事項が重要な関心事であった。子供と向き合う時間が重視され、確かな学力を確保するための授業時数が重視された。教育内容の主な改善事項として、小学校外国語や言語活動などがみられた。

特に重視されたのは、知識基盤社会を見据えて知識重視からの転換として思考力・判断力・表現力等の活用力である。OECDのPISAの学力が大きな影響を与えた。

今回の答申は前回と大きく異なる点が次のように多い。

(1)2020年に全面実施を目指しながら、予測が難しいとする2030年代への変革を示唆していること(2)学校教育を統合する教育の在り方として「育成すべき資質・能力」を掲げ、教育課程の基盤としていること(3)前回は「ゆとり教育」からの転換を目指すために教科の学習内容や授業時数を大幅に増加させたが、今回は前回とほとんど変わらないこと(4)代わって学習プロセスが重視され、アクティブ・ラーニング(AL)やカリキュラム・マネジメント(CM)が強調されていること(5)「学びに向かう力」の育成に向けて習得・活用・探究の学習活動を一層進化させようとしていること(6)そうした新たな教育実現を目指して学校の教育課程や授業実践をより効果的に進めるために学習指導要領の「総則」の記述を抜本的に改正すること(7)従来は学習指導要領における記述から「評価」を切り離して論議していたが、今回は一体的な取り組みがみられること(8)各校種の固有の在り方と校種間の接続を明らかにしていること(9)各教科等の「見方・考え方」や学習内容の見直しを行っていること(10)地域等との連携を強化し、地域資源を生かした教育活動を考えていること——などである。

細部については、多くの新たな提示があるが、このような大きな改善を示す答申をさらに具体的にどう読み取るべきであろうか。

○改訂の基本的な考え方は何か

今回の答申の学校や教師への理解促進はどうであろうか。実のところ、中教審が動き出す以前から次期教育課程の方向性についてのイメージが啓発されていた。国研が提案した「21世紀型能力」の考え方や何よりも文科省内の検討会が示した「育成すべき資質・能力」(『論点整理』2014)である。中教審への諮問の影響も大きく、ALへの関心は一挙に広がった。

また、中教審の論議も『論点整理』やその後の『審議のまとめ』、さらに各教科等のワーキング・グループの動きなどがあって、その情報の伝播はかなり広がっていたように思える。

答申を読んで、その改革の在り方に共感する事項は多いが、実際に各学校の教育課程に生かされると考えれば、その実効性について十分に理解徹底する必要がある。そこで中心的な課題の視点について考えることが重要である。

今回の答申は、第1部「学習指導要領等改訂の基本的な方向性」と、第2部「各学校段階、各教科等における改訂の具体的な方向性」とに分かれている。その基本の考えは「社会に開かれた教育課程」の実現である。

その最も重要な点は第1部の第5章以下である。次のような構成だ。

第5章「何ができるようになるか—育成を目指す資質・能力」、第6章「何を学ぶか—教科等を学ぶ意義と、教科間・学校段階間のつながりを踏まえた教育課程の編成—」、第7章「どのように学ぶか—各教科等の指導計画の作成と実施、学習・指導の改善・充実—」、第8章「子供一人一人の発達をどのように支援するか—子供の発達を踏まえた指導—」、第9章「何が身についたか—学習評価の充実—」——である。直接学校の教育課程や日常の授業につながるものである。

これまでも中教審の論議以来、「何を学ぶか」「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」など、基本的な学びの在り方について語られてきた。それが学習指導要領に具体的な学習の在り方として示されるのである。

○授業風土が変わる可能性

実は今回の答申で興味深いことがある。第2部での各校種の説明の中で中学校の場合、極端にページ数が少ない。わずかに4ページである。ちなみに幼児教育は12ページ、小学校14ページ、高等学校11ページ、特別支援学校7ページである。

中学校の内容は4ページに収まっているが、さらにその中の1ページ半は部活動についてである。つまり2ページ半に集約された内容が中学校の次期教育課程の基本的な枠組み。

つまり、中学校教育は従来と形の上ではほとんど変わらないように見える。したがって他校種のように特に改訂した部分の説明はない。だが中学校教育も変わる。その変わる方向を十分に理解し、受容し、志向し、実践する学校や教師のあり方を十分認識することが重要である。中学校はどう変わるのであろうか。

実のところ、中学校の授業には多くの課題がみられる。例えば、授業をみると、挙手する生徒が極端に少ない。教師の説明が過剰である。受け身の生徒が多く、中にはよく眠る生徒もいる。

以前、この欄で指摘したが(昨年2月22日号)、ベネッセの調査によれば、社会科と理科の授業で、生徒に意見の発表をほとんどさせていない、またグループの活動をほとんど行っていない教師が3割程度みられたのである。OECDのTALIS調査でも、生徒のための発問の工夫や評価の工夫、多様な指導法などが参加国平均に比べて極端に低かった。

わが国の授業研究の質的な高さが言われているが、それは一部の学校のみなのであろうか。ベネッセ調査も、TALIS調査も、中教審諮問以前で、あたらしいALの考えは周知されていなかったが、今後は授業の在り方が飛躍的に変わるであろうか。

期待したいのは、日常の授業風土が変わることである。生徒が学習課題に興味・関心を強く持ち、自学自習で予習し、授業では積極的に発言し、仲間と課題追究に協働で取り組む。授業に活気がみられて、誰もが居眠りせず、休憩時間も授業の話題が仲間の間で取り交わされる。そんな生徒の自発的な学習風景に変わってほしい。

また教科のみに専念していた授業の在り方を超えて教科等の横断的な試みが多様に考えられるようになれば、教師同士の一体感が高まり、教科を超えた共創意識が醸成される。生徒へのよい影響も生まれるのである。

そう考えれば、今回の答申は中学校として最もやりがいが出てくるのではないか。今からでも実施可能な方策である。小学校の英語科導入のようにあたふたしない中学校はALやCMにのびのびとチャレンジできる可能が大きい。中学校は答申の実践化の試金石になりうるのではないか。

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