(新しい潮流にチャレンジ)学校の実践に向けた課題

教育創造研究センター所長 髙階玲治

 

なお残る答申受容の難しさ
○授業時間のやりくりが大変

今回の答申以前から、教師間でこれからの教育活動を危惧する声が大きく聞こえていた。

1つは、学習内容の厳選が行われない結果としての授業時間不足への危惧である。ALの導入はよいとして授業時間不足に悩ませられるのではないかという思いは強い。また1つは小学校英語の導入に加えて、ICTなど教育機器の活用が日常化して不慣れな指導が慢性化するのではないか、という次々起こりうる教育革新への危惧である。将来に向けた職務そのものの大きな変化への不安感もみられる。

そこで1つ目の課題である「学習内容を変えない」という中教審の姿勢である。学習内容を縮減することは学力低下に陥るとする判断であろうが学習レベルの「質」の保証はスクラップ・アンド・ビルドの考え方が必須である。その考え方は単なる学習内容の増減を意味しない。ここ数年間の教育研究の成果として教育内容の質的な吟味があり、よりよい学習材の蓄積がみられるのではないかと考える。学ぶ対象を厳選し、効果的にALが行われることが必要である。

今回は発達の段階に応じた学習のあり方や教科間関連および教科横断がいわれている。そうであれば学習内容の価値付けが極めて重要になる。

しかし、そうした改善がなされず、学習内容が従来のままであれば、そのしわ寄せが学校や教師の負担になる。それに対して今回は授業時間について「学校や教委が柔軟に対応する」とされているようであるが、結果として土曜日授業が大幅に増える可能性がある。文科省は表向き週5日制を変えることはしないが、教委等の判断であれば可能ということで、現在土曜日授業は25%程度であるが、それが50%以上になれば学校週5日制は名ばかりである。

○近未来の教育変革の課題

次に2つ目の課題であるが、このことは極めて難しい。例えば、小学校からプログラミング教育の必要性が言われているが、機器の設置や指導者の確保など地域差や学校差が際立ってくるのではないかと予測される。教育情報指導格差である。

特に今回の答申の姿勢が2030年以降に向いているのである。確かに将来的には予測不能で、しかも大きな変革が教育の分野にも押し寄せてくることが考えられる。2030年以降に向けた学校教育のあり方を見据える必要性は、必須の課題である。

そこで現在進めている2020年代の教育を2030年につなげる過渡的と考えるかどうかだ。ただ2020年代に学ぶ子供たちに過渡的対応は許されない。時代に適合した最上の教育を実施するのが必要である。

今考えられる最上の教育を実施しながら、未来に向けた教育を探り改善や変革を可能にする状況を創り出す必要がある。そのことで2020年代の学習指導要領あるいは学校の教育課程は実施過程において必要に応じて変革する可能性を秘めていると考えるべきではないか。2030年まではかなり長い道のりだ。

○「育成すべき資質・能力」の課題

さらなる課題は「育成すべき資質・能力」。ALやCMなどを統合するビジョンとして「育成すべき資質・能力」が示されているが、その理解徹底は十分であろうか。答申に次の文言がある。

「教育課程とは、学校教育を通じて育てたい姿を照らしながら、必要となる資質・能力を一人ひとりの子供にいわば全人的に育んでいくための枠組みであり、特定の教科等や課題のみに焦点化した学習プログラムを提供するものではない。したがって、資質・能力の在り方については、前述いずれかの特定の考え方に基づいて議論するのではなく、全てを視野に入れて必要な資質・能力が確実に育まれるように議論し、それを教育課程の枠組みの中で実現できるようにしていくことが必要となる」

この文言の中の「前述いずれかの特定の考え方」とは次の3点である。

(1)例えば国語力、数学力などのように、伝統的な教科等の枠組みを踏まえながら、社会の中で活用できる力としての在り方について論じているもの(2)例えば言語能力や情報活用能力などのように、教科等を超えた全ての学習の基盤として育まれ活用される力について論じているもの(3)例えば安全で安心な社会づくりのために必要な力や、自然環境の有限性の中で持続可能な社会をつくるための力などのように、今後の社会の在り方を踏まえて、子供たちを現代的な諸課題に対応できるように必要な力の在り方について論じているもの。

ただ育成を目指す資質・能力の具体例についてはさまざまな提案があり、それは社会の変化とともに増加する傾向があるとする。

つまり必要となる資質・能力は多様な提案がありすぎて、「論じている」実態はあっても具体的な事柄として提供できないというのである。それでいて、この3つの論点は全て視野に入れて議論し、必要な資質・能力を共通実践すべきだという。

学校の教育課程は学習指導要領に示された目標・内容等を順守しながら作成され、実践につなげていくものであるが、今回提示された「育成すべき資質・能力」が多様であることから、どのように選択し自校の教育課程編成の基本にするか、学校や教師はかなりの複雑さ・困難度を覚えるのではないか。

○教育課程編成のビジョンの明確化

さらに答申はCMについて次のように考えている。「各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校教育目標を踏まえた教科等横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと」

まず考えたいのは学校教育目標と教育課程編成が容易に結びつくかである。以前、『論点整理』の段階では「学校の教育目標」となっていた。この言葉と対比されるのは学校教育法の「(小)学校教育の目標」であって、国で定めた目標である。「学校の教育目標」はそれぞれの学校が定めた独自の目標であって例えば「校訓」とか「年度重点目標」など。そして、しばしば「学校教育目標」とされている。

答申の学校教育目標もまたこのような学校の教育目標を意味しているのであろうか。ただ、各学校の場合、学校で行う教育全体を包括している場合が多く、例えば校訓のように志向目標としてのお飾りである場合も多い。学校重点目標の場合も多様な活動を含んでいて、教育課程編成に直結しない場合が多い。

むしろ、学校の教育課程編成に必要なのは校内で共通認識した「育成すべき資質・能力」としての目標表現ではないか、と考える。教育課程のデザインに必要なビジョンである。従来型の学校教育目標を持ち出すとむしろ混乱が生じそうであって、教育課程編成全体を構想するビジョン(目標)と考えるとやりやすくなるように思える。

次に「教科等横断的な視点」であるが、教育課程を編成する場合の順序は先に教科等の年間指導計画である。それらを構成してから、どの教科等の単元や学習活動が横断できるか検討に入る。実のところ答申は教科等横断を盛んに述べているが実態としての具体的な内容を示していない。実はこの「教科等横断」の考えこそは「育成すべき資質・能力」の実践と強く結びつくものではないか。そのことの具体的な説明、あるいはモデル的な解説が欲しいと考える。

答申はなお残る課題がみられるが、学校や教師への理解・徹底が重要になる。実践化の道は必ずしも容易ではないであろう。

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