(新しい潮流にチャレンジ)持続可能な学校をどう創るか

教育創造研究センター所長 髙階玲治

 

ビジョン経営による教育基盤の確立
○持続可能な学校づくりに向けて

次期学習指導要領の『答申』が公表されて教育課題の舞台は学校に移ったと言える。いよいよ実践化に向けた学校の対応が始まる。

ただし、完全実施は小学校が2020年度、中学校はその1年後であるから、それまでの間に新しい教育への体制づくりが必要である。従来は学習指導要領改訂の翌年から一部の領域で移行措置が行われたが今回は2017年度は「理解・徹底」の年度とされている。やや余裕があると言えるであろうか。

アクティブ・ラーニング(AL)やカリキュラム・マネジメント(CM)、総合的学習や特別活動などは現在でも実施可能なものである。むしろ積極的によい教育の在り方を模索する努力が必要である。そこで校長のリーダーシップに期待したい。

ただ、懸念されるのは2020年度まで4年ほどあるとしても、その間退職・異動する校長はかなり多いであろうという実態が予測されることである。持続可能な学校づくりが必要だが、17年度からの学校改善のステップが中途で段差を生じることが危惧される。当初の学校改善のビジョンが持続するための方策が必要である。例えば、ある校長は6年間で各2年、3校勤めて退職した。「何かしたくとも中途半端だった」と嘆いていた。校長の短すぎる同一校勤務を見直すべきである。

それは校長のリーダーシップへの期待が大きいからである。実のところ、小規模経営の多い企業に比べて公立学校の校長は同じ小規模経営でも多くの「安定性」がみられるのである。大きな違いがある。例えば、何よりも経営に赤字感覚がない。倒産がない。買収もない。客を増やす苦労もない。さらに経営上最も必要とされる日常の業務は学習指導要領や教科書等に定められている。

この「安定性」はそのまま「強み」になる。したがって、次期学習指導要領が確定した段階で新たな学校づくりに向けて積極的にリーダーシップを発揮すべきである。

○ビジョン経営と仕掛けづくり

校長は新しい教育の実現に向けてどうリーダーシップを発揮すべきであろうか。学校教育目標を見直し新たに作成することであろうか。確かに、組織は何らかの統合された目標を設定して、その実現に向けて一体になって取り組むことが必要である。経営学者のバーナードは、組織の活性化には「目標の統合」「コミュニケーション」「協働体制」が必要と語っている。

しかし学校の教育目標はお飾りの校訓を含め、多様にあってそれらを統合する目標づくりは難しい。議論ばかり多くなり、簡単には決まらない。

そこでシンプルに自校として今最も必要とする課題をイメージする。例えば、学力向上に取り組んだ学校は多いと考えるが、学校教育目標は論議の俎上に載せたであろうか。つまり、学力をどう向上させるかという、本質に結びつく基本的な思考で実践化を目指したはずである。

次期教育課程に向けてもこのビジョン的な発想が大きな役割を持つ。ただ、それをどう構想するかは難しい。

そこで校長は、17年度の取り組みとして「教育課程の理解・徹底」を提示する。次期教育課程はどう変わるか、その共通認識を何よりも大切にしたい。その内容はかなり漠然としているが、それでもかまわない。ビジョンによる方向付けである。

校長のビジョン経営による仕掛けづくりは重要である。なぜ、ビジョン経営かと言えば、「ビジョン」は現にあるものではなく未来形である。だから実現可能性は不確かで、先見性や洞察力、時には深慮遠謀が必要な場合もある。また、個々の受け止めが多様化することも多い。しかし、ビジョンに取り組んでいる過程で、理解や実践に必要な課題が具体的に浮かんでくることが多い。つまり、課題に取り組んでいる過程で、次々と新たなに多様な課題が生まれて、やることが膨らんでくることを大切にしたいのである。ビジョンは教育目標のように固定されていないから、教師個々は自分の発想で新たなアイデアを生み出すことが可能なのである。それは教員個々の課題意識に結びつく。自校ならではの固有の取り組みを生み出すことが可能になる。

ちなみにビジョン経営を唱えるバート・ナヌスは「ビジョン・リーダーとは強い信念を持って自分の考える方向性を示し、危険を冒す覚悟があり、大胆で勇気があり、いきいきと気力が充実している、そんなリーダーのことである」と語っている(『ビジョン・リーダー』産能大学出版部1994)。

○学校力形成へのステージ的取り組み

ところで学校の実態を考えれば、教師集団を一つのビジョンに意識を統合することは必ずしも容易ではない。何よりも『答申』を読まない教師は多い。ある程度、変わる教育への認識はあっても2020年度はかなり先だと考える教師もいる。特に「授業改善」についてのまとまった協議の時間がとれないという実態がある。しかしながら次期教育課程の「周知・徹底」は必要で、各学校がそれぞれ取り組むべき課題である。「周知・徹底」の工夫が必要になる。

そこで『答申』の基本的な内容であるが、実のところ教師個々への理解・徹底には格差がある。教師個々は、次期学習指導要領についての理解の差がある。また、受容の差もある。それに伴って指導力の差もまた強固に存在する。したがって、教師力を同一に考えない。それぞれの教師の持つ特質なども含めて校内の体制を徐々に高めていく。

「教育課程の理解・徹底」のビジョンを掲げても最初から自校の教師集団が同一歩調をとるのは考えられない。そこで当初から成果を求めるのではなく、ビジョンに向かう姿勢を強調する。ビジョンについてほとんどの教師が受容できれば第1ステージがほぼ成功したと言ってよい。

第2ステージは、例えば実際の授業について単元の展開過程を中心に協議の場を設定し、そこから新たな授業の在り方について模索が始まることである。ALやCMの実践的な理解である。

第3ステージは、例えば子供の授業の取り組みの改善である。その場合、何が優先事項かを考えるためにリサーチが必要である。この場合のリサーチは数量的な調査の意味ではない。『答申』で重視していることは何か、自校の教師たちが次期教育課程で期待・危惧していることは何か、子供の授業における学習態度はどうか、などおおよその課題状況の把握である。『答申』で重視している事項の中でALを含めてCMに焦点化してみる。教師力の資質・能力等に結びつく「授業改善」を全員で取り組む対象にすれば、それは次期教育課程に確実につながるのである。

つまり、「教育課程の理解・徹底」ビジョンは、最初から大きな成果を狙わずに、ある期間を設定してある程度の成果をあげると次のステージへと階段を上るように個々の教師の力を高めていく。その取り組みの姿は各学校によって多様であろう。

ところで最初に提示した持続可能な学校の在り方を考えると校長が退職・異動し次に引き継ぐとき、ステージが明確であると、どのようにステージを乗り越えてきたか、現在はどのステージかを具体的に説明できる。単に「授業研究」を年間何回実施しましたではほとんど意味をなさないのである。「授業改善」のステージのみでなく、多様な経営上の課題についてステージ的な具体的な引き継ぎが可能になれば、学校力は確実に向上するのである。

持続可能な学校づくりのための校長のリーダーシップに期待したい。

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